インド国民年金制度(National Pension System - NPS)とは?
NPSとはインド国民が安全で合理的な市場リターンを通じて効果的に老後資金を計画できるようにするために、インド政府によって提供されている年金制度です。加入者は、現役時代に年金口座に定期的に拠出し、将来の生活を保障することができ、途中で一部を一括で引き出すことも可能です。雇用主負担の拠出と従業員負担の拠出の2種類があり、基本的には所属する企業が銀行で開設したNPS口座を通して毎月積み立てを行います。
日本の年金制度とは異なり加入は強制ではなく、任意となっています。NPSと似て非なる制度として従業員積立基金(Employee Provident Fund - EPF)がありますが、EPFは従業員数が20名以上の組織では強制加入となります。
NPSへの拠出を通して利用可能な所得控除
①雇用主負担の拠出額(個人所得税の計算で新税率を選択する従業員も利用可)
雇用主(非政府企業)が負担したNPSへの拠出額は従業員の給与(Basic Salary + Dearness allowance)の10%を限度に従業員の年間課税所得額から控除することが可能です(インド所得税法第80CCD条2項)。また、2024年度以降は従業員が個人所得税の計算で新税率を選択する場合は、所得控除可能枠が給与(Basic Salary + Dearness allowance)の10%から14%に広がります。
②従業員負担の拠出(個人所得税の計算で旧税率を選択する従業員のみ利用可)
従業員が負担したNPSへの拠出額は従業員の給与(Basic Salary + Dearness allowance)の10%を限度に従業員の年間課税所得額から控除することが可能です(インド所得税法第80CCD条1項)。さらに、従業員は第80CCD条1項で所得控除を利用しなかった従業員自らの拠出額については5万ルピーを上限に、追加の所得控除を利用することが可能です(インド所得税法第80CCD条1B項)。
なお、第80C条、第80CCC条、第80CCD条1項(②従業員負担のNPS拠出額)で利用可能な総所得控除枠の上限は15万ルピーです(インド所得税法第80CCE条)。一方で第80CCD条1B項の5万ルピーの税額控除はこの15万ルピーの総所得控除枠の範囲外であるため、最大で20万ルピー(=15万+5万)の所得控除が利用可能になります。
一定期間後に本国への帰任が決まっている駐在員の方々にとってはNPSへ拠出するメリットはそこまで大きいとは言えませんが、インド人従業員にとっては所得控除を利用しながら年金を積み立てられるため魅力的な制度となっています。NPSへの拠出を検討される場合には、まずは会社としてインドの銀行でのNPS口座開設手続きが必要になります。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |