インドには日本のような全国民が対象の国民健康保険制度はありませんが、個人の退職に向けた貯蓄を促進する積立基金制度及び年金制度があります。
インドの従業員積立基金制度(Employees’Provident Fund - EPF)は、組織部門の従業員向け退職貯蓄制度で、雇用主と従業員の双方がが毎月拠出し、積立金に利息が付きます。退職時などに一時金として受け取り、老後資金の形成を目的としています。一方で、従業員年金制度(Employees’ Pension Scheme - EPS)は年金制度で、主に雇用主拠出の一部を原資に、一定の加入期間後、退職後の月額年金を支給します。また、インドの低賃金労働者への補償を目的とした保険制度である従業員国家保険(Employees’ State Insurance - ESI)とは異なる制度ですが、ESIはこちらでまとめています。
これらの社会保障制度は、2020年社会保障法(Code on Social Security, 2020) および、2026 年従業員積立基金制度(Employees’ Provident Funds Scheme,2026)および2026年従業員年金制度(Employees’ Pension Scheme, 2026)でそれぞれ規定されています。
2020年社会保障法の以前までは、1952 年従業員積立基金および雑則法(The Employee's Provident Funds and Miscellaneous Provision Act 1952 - 1952年EPF法)ならびに同法に基づく1952 年従業員積立基金制度(Employees’ Provident Funds Scheme,1952)および1995 年従業員年金制度(Employees’ Pension Scheme, 1995)でそれぞれ規定されていました。
社会保障制度に加入が必要な組織及び対象従業員
①従業員数が20名以上の組織
②従業員数が20名未満であっても自発的に加入する組織
また、1度社会保障制度の加入した場合は、将来にわたって加入が必要となることに注意が必要です。組織形態は株式会社に限らず、支店、駐在員事務所も含みます。
①及び②の組織の内、賃金(wages)が25,000ルピー以下のインド人従業員は加入が必須となります。賃金が基準額以上のインド人従業員でも、過去に一度でもEPFに加入していた者も、引き続きEPFの加入が必要です。なお、2026年9月16日までこの基準値は15,000ルピーでした。
外国人(International Worker)は賃金額に関係なく、加入が求めらます。
積立額と拠出先
会社と従業員個人が半分ずつ負担する労使折半の形をとる日本の社会保障費と同様で、インドの社会保障費も会社と従業員個人がそれぞれ負担します。
対象となる賃金(wages)は下記の合計額です(2020年社会保障法第2条88項)。
・基本給(Basic Pay)
・補填手当(Dearness Allowance)
・残留手当(Retaining Allowance)
また、一定の手当の総額が報酬総額の50%を超える場合は、その超過分は賃金(wages)に含め必要のある規定となっており、基本給の割合を減らしつつ手当の割合を増やすことで、賃金の金額を抑えEPFへの拠出額を控えようとする行為を牽制しています。
また、補填手当(Dearness Allowance)とはインフレ上昇を補填するべく支払われる生活費調整のための手当です。残留手当(Retaining Allowance)とは工場やその他の事業所の従業員に対し、その事業所が稼働していない期間に、そのサービスを維持するために当分の間支払われる手当を指します。
①インド人従業員負担分の拠出額
| 拠出先 | 料率 |
| 従業員積立基金制度(EPF) |
賃金が25,000ルピー以上の任意加入者の最低拠出額は3,000ルピー(=25,000*12%) 最低拠出額3,000ルピーを超えて、賃金の12%分を拠出すケースなどは従業員の任意で設定可能。ただその場合であっても、会社負担分の拠出額は、最低拠出額3,000ルピーとし、従業員負担分の拠出額と合わせる必要はない(2026 年従業員積立基金制度第19条)。 |
②-a 会社負担分の拠出額(賃金が25,000ルピー以下のインド従業員の場合)
| 拠出先 | 料率 |
| 従業員年金制度(EPS) | 賃金の 8.33% |
| 従業員積立基金制度(EPF) | 賃金の 3.67% |
②-b 会社負担分の拠出額(賃金が25,000ルピー以上であるものの、2026/9/16以前からEPSに加入しているインド従業員の場合)
| 拠出先 | 料率 |
| 従業員年金制度(EPS) | 2,083ルピー(=25,000*8.33%) |
| 従業員積立基金制度(EPF) | 賃金が25,000ルピー以上の任意加入者の最低拠出額は917ルピー(=25,000*12%-2,083) |
②-c 会社負担分の拠出額(賃金が25,000ルピー以上であり、かつ2026/9/16以前にもEPSに加入していないインド従業員の場合)
| 拠出先 | 料率 |
| 従業員年金制度(EPS) | 加入不要 |
| 従業員積立基金制度(EPF) | 賃金が25,000ルピー以上の任意加入者の最低拠出額は3,000ルピー(=25,000*12%) |
なお、最低拠出額は3,000ルピー(=25,000*12%)の規定は現地採用で働く日本人や適用証明書を取得していない駐在員等のインドでPFの拠出が求められる外国人(International Worker)には適用にならない旨が、1952年EPF法及びその他のガイドラインでは規定されておりました。ただ、2026 年従業員積立基金制度下では、最低拠出額の規定が外国人(International Worker)に適用されないとの明記はされておらず、当局からの明確化が待たれます。
従業員積立基金制度(EPF)と従業員年金制度(EPS)の主な違い
| EPF | EPS | |
| 従業員の拠出額 | 賃金の12% | なし |
| 拠出額への利息 | 毎年政府から発表される利率で利息が発生する | 利息は発生しない |
| 年金支給 | 年金は発生しない | 58歳以降に定額の年金支給がある |
| 課税関係 | 5年以上の拠出分は利息も含め非課税 | 拠出分及び年金分共に課税 |
| 2025年インド所得税法第123条 / 1961年インド所得税法第80C条の税額控除 | 15万ルピーまでは税額控除使用可能 | 従業員の拠出はないため使用不可 |
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |


