インドには日本のような全国民が対象の国民健康保険制度はありませんが、個人の退職に向けた貯蓄を促進する積立基金制度及び年金制度があります。
インドの社会保障制度は、1952 年従業員積立基金および雑則法(The Employee's Provident Funds and Miscellaneous Provision Act 1952 - PF法)が規定しています。
また1995 年従業員年金制度(Employees’ Pension Scheme, 1995 - EPS)及び1952 年従業員積立基金制度(Employees’ Provident Funds Scheme,1952 - EPF)でもそれぞれ規定があるため併せて確認が必要です。
社会保障制度に加入が必要な組織及び対象従業員
①従業員数が20名以上の組織
②従業員数が20名未満であっても自発的に加入する組織
また、1度社会保障制度の加入した場合は、将来にわたって加入が必要となることに注意が必要です。組織形態は株式会社に限らず、支店、駐在員事務所も含みます。
①及び②の組織の内、月給が15,000ルピー以下のインド人従業員は加入が必須となります。当金額給与以上のインド人従業員も任意で加入することが可能です。なお、外国人(International Worker)は月給額に関係なく、加入が求めらます。
積立額と拠出先
会社と従業員個人が半分ずつ負担する労使折半の形をとる日本の社会保障費と同様で、インドの社会保障費も会社と従業員個人がそれぞれ負担します。
対象となる月給額は下記の合計額です(PF法第6条)。
・基本給(Basic wages)
・補填手当(Dearness Allowance)
・残留手当(Retention Allowance)
補填手当等はインフレ上昇を補填するべく支払われる生活費調整のための手当です。残留手当とは工場やその他の事業所の従業員に対し、その事業所が稼働していない期間に、そのサービスを維持するために当分の間支払われる手当を指します。
①インド人従業員負担分の拠出額
拠出先 | 料率 |
従業員積立基金制度(EPF) |
月給額の12%(PF法第6条) 月給額が15,000ルピー以上の任意加入者の最低拠出額は1,800ルピー(=15,000*12%)となる。 |
②-a 会社負担分の拠出額(基本給が15,000ルピー以下のインド従業員の場合)
拠出先 | 料率 |
従業員年金基金制度(EPS) |
月給額の 8.33%(EPS Paragraph3(1)) |
従業員積立基金制度(EPF) |
月給額の 3.67%(EPF Paragraph 29(1)) |
②-b 会社負担分の拠出額(基本給が15,000ルピー以上で2014/9/1以前からEPSに拠出しているインド従業員の場合)
拠出先 | 料率 |
従業員年金基金制度(EPS) |
1,250ルピー(=15,000*8.33%) (EPS Paragraph3(1),6A) |
従業員積立基金制度(EPF) |
月給額の 12%-1,250ルピー (EPF Paragraph 29(1)) 月給額が15,000ルピー以上の任意加入者の最低拠出額は550ルピー(=15,000*12%-1,250)となる。 |
②-c 会社負担分の拠出額(基本給が15,000ルピー以上で2014/9/1以前にはEPSに拠出していないインド従業員の場合)
拠出先 | 料率 |
従業員年金基金制度(EPS) |
加入不要 |
従業員積立基金制度(EPF) |
月給額の 12%(EPF Paragraph 29(1)) 月給額が15,000ルピー以上の任意加入者の最低拠出額は1,800ルピー(=15,000*12%)となる。 |
従業員積立基金制度(EPF)と従業員年金基金制度(EPS)の主な違い
EPF | EPS | |
従業員の拠出額 | 月給額の12% | なし |
拠出額への利息 | 毎年政府から発表される利率で利息が発生する | 利息は発生しない |
年金支給 | 年金は発生しない | 58歳以降に定額の年金支給がある |
課税関係 | 5年以上の拠出分は利息も含め非課税 | 拠出分及び年金分共に課税 |
所得税法第80C条の税額控除 | 15万ルピーまでは税額控除使用可能 | 従業員の拠出はないため使用不可 |
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |