日本の株式会社において取締役の職務執行状況を監督・監査する役職である、「監査役」という役職がありますがインドにも同様の役職はあるのでしょうか?
インドにも監査役はいますが、2013年インド会社法における監査役は、会社の会計監査の業務を行う専門家(勅許会計士 - Chartered Accountant)であり、日本の会社法上の会計監査人に近い役職になります。
監査委員会( Audit Committee)及び指名報酬委員会(Nomination and Remuneration Committee)
上場会社または一定規模以上の会社(非公開会社を除く)は取締役会の下に監査委員会や指名報酬委員会を設置する必要があります。
監査委員会 | 指名報酬委員会 | |
設置義務 |
・上場会社 ・以下のいずれかを満たす非上場の公開会社 (i)払込資本金が1億ルピー以上 (ii)売上高が10億ルピー以上 (iii)負債合計額が5億ルピー超 |
左記同様 |
委員 |
3人以上の取締役でかつ過半数が独立取締役 また議長を含む過半の取締役が財務書類を読み解く能力を有している必要があります。 |
3人以上の非業務執行取締役でかつ過半数が独立取締役
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業務 | 会社監査役の選任、報酬及び任期に関する推薦 / 監査役の独立性等の評価、検査 / 財務報告に関する内部監査 等 |
取締役候補者の推薦 / 取締役の業務評価の手法や適格性の基準の策定 / 取締役等の報酬に関する基本方針の推薦 等 |
参照条文 | 2013年インド会社法第177条 | 2013年インド会社法第178条 |
会社秘書役(Company Secretary)
日本では馴染みのない機関ですが、シンガポール等の英米法系の国では一般的な機関である、会社秘書役(company secretary)という役職がインドにはあります。会社秘書役には会社秘書役協会の実施する国家試験に合格する必要があり、インドの専門職の1つです。会社法等の遵守状況の取締役会への報告、および会社秘書役協会が制定・公表する事務準則(secretarial standards)を会社が遵守することを確保する役割があり、具体的には株主総会および取締役会への出席、各種議事録を含む書類の準備、かかる書類の会社登記局への提出等を行います。また非公開会社であっても払込資本金が1億ルピー以上の会社には、常勤会社秘書役の任命が必要とされています。(2014年会社法細則(経営人物の任命及び報酬)の「第8A項-会社秘書役の任命」及び「第9項-秘書役監査報告書(Secretarial Audit Report)」)
内部監査人(Internal Auditor)
内部監査人とは内部監査を担当する機関で、勅許会計士(Chartered Accountant)、コスト会計士(Cost Accountant)または取締役会が定める専門家が就任することができます(2013年インド会社法第138条)。2013年インド会社法では内部監査人の業務内容は規定されておりませんが、上述の監査委員会または取締役会が内部監査役と協議の上、内部監査の業務範囲、機能及び任期等について構築する必要があります。下記の会社に内部監査人の設置義務があります。
・上場会社
・以下のいずれかを満たす非上場の公開会社
(i)払込資本金が5億ルピー以上
(ii)売上高が20億ルピー以上
(iii)金融機関等からの借入合計額が10億ルピー超
・非公開会社
(i)売上高が20億ルピー以上
(ii)金融機関等からの借入合計額が10億ルピー超
以上の通り、インドでは日本の監査役が果たす役割を上述の監査委員会、指名報酬委員会、会社秘書役及び内部監査人が担っていると言えます。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |