日本の所得税法は個人及び法人の所得を個人所得税法と法人税法という法体系にてそれぞれ規定していますが、インドでは個人及び法人の所得は所得税法(Income-Tax Act)という1つの法体系で規定しています。
インド所得税法の構成要素
インド所得税法を理解するには、インド所得税法体系を支える下記6つの各構成要素の理解が必要となります。加えて日本に比べて法改正も頻繁に生じるため、常に最新の情報にキャッチアップしておくことが求められます。
①1961年インド所得税法(Income-Tax, 1961)
インド中央政府(Central Government)が立案、成立、公布を行うことでインド全土で適用になるインド所得税法体系の根幹を成す法律です。23つの章、298つの条文及び14つのSCHEDULEから構成されています。定義(同法第2条)、課税対象の所得(同法第5条)、居住判定(同法第6条)等の課税計算を行う上での基本概念から始まり、その後に各種所得の計算方法や利用可能な税額控除の条文が続きます。ちなみに源泉徴収税(Tax Deducted at Sources - TDS)は17章(CHAPTER XVII - Collection and recovery of tax)にてまとめられています。
日本では10種類の所得が規定していますが、インド所得税での所得種類は下記5種類のみです。法人所得税の課税所得を計算する際は主に(iii)事業所得の規定を確認することになります。
【所得の種類】
(i) 給与所得 - Salary Income(同法第15条)
(ii) 不動産所得 - Income from house property(同法第22条)
(iii) 事業所得 - Profits and gains of business or profession(同法第28条)
(iv) キャピタルゲイン所得 - Capital gains(同法第45条)
(v) その他の所得 - Income from other sources(同法第56条)
②財政法(The Finance Act)
毎年2月1日に発表される国家予算案の一部として財務大臣が財政法案(Finance Bill)を発表し、下院(The Lok Sabha)及び上院(The Rajya Sabha)での承認後に大統領に批准されるとその年の財政法(The Finance Act)となり、その年の所得税法に組み込まれます。財政法内のTHE FIRST SCHEDULEは下記の4つのPartに分かれておりその年の各税率を定めますが、財政法は会計年度ごとに新たに制定されるので毎年確認が必要となります。
【財政法のTHE FIRST SCHEDULE】
PartⅠ:昨年度までの各種所得の所得税率
PartⅡ:その年度の各種所得の源泉徴収税率
PartⅢ:その年度の各種所得の所得税率
PartⅣ:農業収入に関する所得の計算方法
③1962年インド所得税法細則(Income-Tax Rules, 1962)
直接税中央委員会(Central Board of Direct Taxes - CBDT)が管理する所得税法の詳細なルールであり、所得税法で規定しきれていない課税計算上の細部ルールを規定します。そのため、所得税法と併せて確認する必要あります。
④通達(Circular)
所得税法内の範囲や意味に関する一定の課題や疑問を解消し明確にするためにCBDTが発行する通達です。納税者及び税務当局担当官のガイダンスという立ち位置と言えます。なお、税務当局はCircularに拘束されますが納税者は拘束されず、納税者は有利なCircularを利用することが出来る点に注意が必要です。
⑤通達(Notification)
インド中央政府またはCBDTが所得税法の条項に関する効力を持たせるため発行し、税務当局及び納税者を共に拘束します。
⑥裁判判例(Case Laws)
上述の所得税法や所得税法細則のみで所得税課税計算に関するすべての事例を網羅的にカバーするのは不可能であり、納税者と所得税当局間の所得税法上の解釈の問題等は裁判で解消されます。当局は税務調査を行い(所得税法第143条)、その結果追加納税額または還付額が確定した場合、更正通知(Order of Assessment)が納税者に発行されます。当更正通知(Order of Assessment)の内容に不服がある場合には納税者は不服の申し立て及び税務訴訟手続きを行うことが可能です。
まず納 税 者 は 所 得 税 コ ミ ッ シ ョ ナ ー(Commissioner of Income Tax Appeals - CITA) ま た は 紛 争 解 決 機 構 (Dispute Resolution Panel - DRP)のいずれかに不服申立てを行います。次に税務高等裁判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT)、高等裁判所(High Court)そして最高裁判所(Supreme Court)へと進んできます。高等裁判所の判例は管轄地域の他の納税者のケースにも適用となる一方で、最高際判例はインド全土の納税者のケースに適用となります。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |