物品又はサービスの輸出はGST法上では「Zero rated supply」に該当し(IGST法第16条)、GSTは免除されています。インドのGSTが日本の消費税法と同様で消費地課税主義・仕向地課税主義を採用しているためです。また、物品又はサービスの輸出にGSTを課さないことで(輸出価格を抑えることで)、インドから各国への物品・サービス供給の競争力を高めたい意図もあります。
なお、GST法上での物品又はサービスの輸入の取り扱いはこちらでまとめています。
物品又はサービスの輸出に該当する取引の条件
定義 「物品の輸出(export of goods)」とは「その文法的な変化や同義表現を含め、物品をインド国外に持ち出すこと」を指し(IGST法第2条5項)、「サービスの輸出(export of services)」は下記条件をすべて満たす取引のことを指します(IGST法第2条6項)。
- 供給者がインドに所在している
- 受領者がインド国外に所在している
- サービスの供給地(Place of supply)がインド国外である
- サービスの供給者が当該サービス供給に対する対価の支払いを交換可能な外国通貨又はインド準備銀行の許可のもとインドルピー※1で受領している
- サービスの供給者と受領者が「Establishments of Distinct Persons※2」ではない(=サービスの供給者と受領者が別法人格である(Circular No. 161/17/2021-GSTの解釈))
※1「インド準備銀行の許可のもとインドルピーで受領する」場合の詳細は、2023年10月27日付の通達(Circular No. 202/14/2023-GST)で明確化され、各種規定に基づきSpecial Rupee Vostro Account(銀行間取引で外貨資金の決済を行うために、輸入者の所在する相手国の銀行がインド国内にインドルピーで保有する口座を指し、当口座は相手国の銀行を代表してインド国内銀行が管理、保有します。Vostroとはラテン語で”Your”の意味でVostro Accountは先方勘定、相手勘定と訳されます)から輸出者がインドルピーを受領する場合がこの条件を満たすとされています。
※2ある者が下記の事務所を持つ場合は、その事業所が「Establishments of Distinct Persons」と扱われます(CGST法第25条5項、IGST法第8条 Explanationの1)。さらに、いずれの領域において支店(Branch)、代理店(Agency)又は代表事務所(Representational office)を通じて事業を営む者は、当該領域において事務所を有するものとしてみなされます(IGST法第8条 Explanationの2)。
- インド国内に事業所とインド国外にも事業所 または
- 州または連邦直轄領内の事業所と、その州または連邦直轄領外の他の事業所 または
- 州または連邦直轄領内の事業所と、その州または連邦直轄領内で登録されたその他の事業所
よって、インド国内の支店がインド国外の本社にサービス提供する場合やインド国内の本社がインド国外の支店にサービス提供する場合はIGST法第2条6項v号を満たさないため、サービスの輸出には該当しません。一方で、間接税・関税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes and Customs - CBIC)は2018年7月26日付で通達(Notification No. 15/2018- Integrated Tax (Rate)の10F)を発行し、インド国内の事業所からインド国外の事業所にサービス供給する場合で、かつサービスの供給地(Place of supply)がインド国外である場合は、当該サービス供給のGST税率は「Nil税率(GST税率0%)」となり、非課税取引になる旨が規定されています。
供給地(Place of supply) インドからの物品の輸出の場合の供給地(Place of supply)はインド国外となります(IGST法第11条)。また、IGST法第13条3項から13項までに限定列挙される取引を除いて、サービスの供給者又は受領者のいずれかがインド国外に所在する場合のサービスの供給地(Place of supply)は、受領者の場所になると規定されておます(IGST法第13条2項)。よって、基本的に物品を輸出する場合やサービスを輸出する場合には、その供給地(Place of supply)は受領者のいるインド国外となります。
税率 供給者がインドに所在しており、供給地(Place of supply)がインド国外の場合の物品・サービス供給は州またぎ(Inter-State)の物品・サービスの供給として扱われます(IGST法第7条5項)。ただ、それらの物品・サービスの供給が上述のGST法上の「物品の輸出(export of goods)」又は「サービスの輸出(export of services)」の定義を満たす場合は、「Zero rated supply」に該当するため(IGST法第16条)、GSTはかからないという整理になります。逆に言えば、GST法上の「物品の輸出(export of goods)」又は「サービスの輸出(export of services)」の定義を満たさない”輸出取引”は州またぎの取引(Inter State Supply)としてIGSTの課税対象になります。
その他の規定 ある一定の物品の供給に関して、インドで製造された物品がインド国外に持ち出されないものの、その対価の支払いをインドルピー又は交換可能な外国通貨にて受け取る場合は、みなし輸出(Deemed Export)となります(CGST法第147条)。当該一定の物品のカテゴリーは2017年10月18日付の通達(Notification No. 48/2017-Central Tax)で明記されてます。なお、みなし輸出(Deemed Export)は「Zero rated supply」には該当しないため(IGST法第16条)、IGSTを納税する必要がありますが、当該税金は還付の対象となります(CGST法第54条 説明書き(1))。
また、GST法には定義が用意されていないものの、商業輸出(Merchant export)という考え方があります。インド国内の製造業者が第三者の商業輸出者(Merchant exporter)を介して輸出する場合に、製造業者から商業輸出者への物品の供給に対して、0.1%のGST軽減税率が適用されます(Circular No. 125/44/2019 - GST / Notification No. 41/2017-Integrated Tax (Rate) / Notification No. 40/2017-Central Tax (Rate))。
Zero rated supplyの仕組み
Zero rated supplyの場合はサプライチェーン内のGST登録者及び最終消費者のいずれもGSTを負担する必要がない仕組みになっており、このメリットを機能させるために下記2つの制度設計が用意されています。
- 輸出者は保証金(Bond)又は保証書(Letter of Undertaking - LUT)を差し入れることで、GSTを払うことなく物品・サービスの輸出を行うことができる(IGST法第16条1項、CGST法細則第96A条)
- 輸出者はZero rated supplyに関して支払った物品・サービス供給に係る仮払GST(Input GST)は仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)を利用でき(IGST法第16条2項)、かつ仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)を利用しなかった仮払GST(Input GST)は還付が受けられる(IGST法第16条3項、CGST法第54条)
「1」に関して、GST法やその他の法令の違反で2,500万ルピー超の脱税額に関して起訴されている者を除いて、保証金(Bond)の代わりに保証書(Letter of Undertaking - LUT)を差し入れることでGSTを払うことなく物品・サービスの輸出を行うことが認められています(Notification No. 37/2017 –Central Tax)。LUTはForm GST RFD-11という様式をGSTポータルから申請し、申請後には申請参照番号(Application Reference Number - ARN)の記載された通知書(Acknowledgement)が発行され、この発行をもってLUTは承認されたものとみなされ、LUTの有効期間は1会計年度になります(Circular No.8/8/2017-GST / Circular No.40/14/2018-GST / Circular No.88/7/2019-GST)。そのため毎年輸出取引を行うGST登録者は翌年の4月以降に新たなLUTを再度差し入れる必要があることに注意が必要です。
なお、LUTを差し入れた納税者に下記のそれぞれの事象が生じた場合には、下記の期日以内に延滞利息とともにIGSTを納税する必要があります(CGST法細則第96A条)。
- 物品がインド国外へ輸出されない場合:輸出者の請求書発行日から3か月が経過する日から15日以内
- 輸出者がサービスの対価を交換可能な外国通貨又はインドルピーで受け取れない場合:輸出者の請求書発行日から1年が経過する日又は外国為替法で認められた日付のいずれか遅い日付から15日以内
また、一部の事業者や一部の物品・サービスに関しては、Zero-rated supplyのメリットを受けるためには保証金(Bond)又は保証書(Letter of Undertaking - LUT)を差し入れる方法の他に、Zero-rated supplyの際に一旦IGSTを自ら納税した上で還付を受ける方法もあります(ISGT法第16条4項、Notification No. 01/2023-Integrated Tax / Circular No. 24 /2023-Customs)。
執筆・監修
![]() |
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
![]() |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |