インドのGSTの税務調査はGST登録州ごと、年度ごとに税務調査対象の納税者(GST登録者)が選ばれるれることが一般的ですが、取引規模が大きい納税者や過去に更正処分が下されている納税者は、税務調査対象に選ばれやすい傾向にあります。
税務調査の結果として、GST税務当局は追加納税額、延滞利息額、ペナルティ等が記載された更正処分通知(Final Order)を納税者に対して発行します。GST法はGST税務当局がこの更正処分通知(Final Order)を発行できる期日を規定しているため、税務調査はこの期日から逆算したタイムスケジュールに基づいて行われることになります。
目次
- 税務調査通知ASMT-10とは?
- ASMT-10受領後の対応
- 情報開示を求める通知(Show Cause Notice - SCN)及び更正処分通知(Final Order)の発行
- 更正処分通知(Final Order)受領後の対応
税務調査通知ASMT-10とは?
GST税務調査には、様々な種類の税務調査がありますが、ここでは最も一般的な税務調査(Scrutiny Assessment)について記載します。なお、税務調査とは別で、GST税務当局が会計帳簿との突合せやGST計算書の確認等を通して納税者の申告内容をより精査するために執り行われるGST監査が行れることもあります。そのため、GSTの税務通知を受領した納税者は、その通知内容を確認の上、後続の手続きを考慮しながら適切にGST税務当局に返信していくことが重要です。
さて、税務調査(Scrutiny Assessment)の対象となると、ASMT-10と呼ばれる税務調査通知が発行されます。GSTの納税者が月次や年次で自ら申告した申告内容(Self-Assessment)に対して、GST税務当局の担当官が精査し申告内容内の数値等に不一致があった場合に、納税者に対して発行される税務通知がASMT-10です(CGST法第61条1項、CGST法細則第99条)。ASMT-10にて、不一致の内容、不一致に関する説明要求、説明の回答期日(税務通知の発行日から30日以内又は担当官の許可した延長日)、が記載されます。また可能であれば、不一致に関連して支払うべき税金、延滞利息、その他の金額も併せて明記されます。
ASMT-10受領後の対応
納税者はASMT-10に記載の回答期日内にGST税務当局に対して下記のいずれかの説明を回答する必要があります。
(i)ASMT-10に記載された指摘事項に不服が無い場合
納税者はASMT-10に記載の不一致に関連して支払うべき税金、延滞利息、その他の金額を支払った上で、その旨をGST税務当局にASMT-11というフォームで通知します。回答内容にGST税務当局が納得すればこれ以上の進展はなく、ASMT-12というフォームで本税務調査が完了したことがGST税務当局より知らされます(CGST法第61条1項、CGST法細則第99条3項)。
(ii)ASMT-10に記載された指摘事項に不服がある場合
一方で、ASMT-10での指摘が不服な旨及び納税者側の主張説明をGST税務当局にASMT-11というフォームで行います。この説明にGST当局が納得すれば、ASMT-12というフォームで本税務調査が完了したことがGST当局より知らされます(CGST法細則第99条3項)。一方でGST税務当局が納得しうる説明を提供できなかった場合やASMT-10に記載の回答期日までに回答しなかった場合等には、下記のようなプロセスに進んでいきます(CGST法第61条3項)。
①GST監査(Audit by tax authorities)(CGST法第65条)
②GST特別監査(Special audit)(CGST法第66条)
③査察、捜索、押収(Inspection, search and seizure)(CGST法第67条)
④不正行為または故意の虚偽記載や隠蔽以外の理由による、未納付、過少納付、誤還付、誤利用された仕入税額控除の決定手続き(CGST法第73条)
⑤不正行為または故意の虚偽記載や隠蔽の理由による、未納付、過少納付、誤還付、誤利用された仕入税額控除の決定手続き(CGST法第74条)
情報開示を求める通知(Show Cause Notice - SCN)及び更正処分通知(Final Order)の発行
税務調査の次の段階として、GST税務当局は納税者に対して情報開示を求める通知(Show Cause Notice - SCN)を、DRC - 01というフォームで発行します(CGST法第73条1項、第74条1項、CGST法細則第142条1項a)。なお、このSCNが発行されるのは上述の④または⑤の場合です。
税務調査(Scrutiny Assessment)等の結果として、GST税務当局が納税者に対して更正処分を下す場合には、その前段階としてGST税務当局はこのSCNを納税者に発行し、把握している未納付や過少納付が納税者に課せられるべきでない理由説明を納税者に対して求める必要があります。よって、SCNを受け取った場合は、税務調査が更正処分通知(Final Order)が発行される1つ前の段階まで進んでいることを意味します。また、SCNには追加納税額、延滞利息、ペナルティ等の具体的な金額が記載されます。
【FY2023-24までの手続き】
このSCNの発行される根拠条文は「未納付や過少納付等が不正行為または故意の虚偽記載や隠蔽以外の原因によるか」、「未納付や過少納付等が不正行為または故意の虚偽記載や隠蔽の原因によるか」で異なり、前者はCGST法第73条、後者はCGST法第74条が根拠条文となります。
「不正行為等が疑われていない税務調査(CGST法第73条)」又は「不正行為等が疑われている税務調査(CGST法第74条)」なのかで、FY2023-24までの税務調査に関しては、更正処分通知(Final Order)が発行されるまでの手続きの流れが変わってきます。以下では、「不正行為等が疑われていない税務調査(CGST法第73条)」に基づいて説明します。
(i)SCNに記載された指摘事項に不服が無い場合
納税者はSCNでのGST税務当局の指摘内容に不服がない場合には、未納税額等とその延滞利息をSCNの発行日から30日以内に納税します。30日以内に納税する場合は、本税務調査に関してペナルティが科されることはありません(CGST法第73条8項)。納税者は納税した旨をDRC- 03というフォームでGST税務当局に通知する必要があり、GST税務当局はDRC- 05というフォームで本税務調査が完了したことを納税者に連絡します(CGST法細則第142条3項)。
(i)SCNに記載された指摘事項に不服がある場合
一方で、GST税務当局の指摘内容に不服がある場合は、納税者自身の主張説明をDRC- 06というフォームでGST税務当局に提出することができます(CGST法細則第142条4項)。
その後、納税者の説明にGST税務当局が納得しない場合には、GST税務当局は納税者が追加納税すべき未納税額等、延滞利息、ペナルティ額を決定し、納税者に対して更正処分通知(Final Order)をDRC- 07というフォームで発行します(CGST法第73条9項、CGST法細則第142条5項)。
【FY2024-25以降の手続き】
まず2024 年度以降のGST税務調査に関しては、「不正行為等が疑われていない税務調査」又は「不正行為等が疑われている税務調査」によらず、CGST 法第 74A 条が一律で情報開示を求める通知(Show Cause Notice - SCN)や更正処分通知(Final Order)の発行を規定しています。2023年以前のGST税務調査と2024 年度以降のGST税務調査の主な違いは、GST税務当局がSCNや更正処分通知(Final Order)を発行できる期間です。
GST の税務調査は日本の税務調査に比べて、税務調査の段階にてGST税務当局の担当官が納税者の申告内容や会計帳簿を調査する期間が短く、納税者と十分に議論される前に更正処分通知(Final Order)が発行されてしまう傾向にありました。2023年度までの「不正行為等が疑われていない税務調査(CGST法第73条)」の場合、情報開示を求める通知(Show Cause Notice)の発行期日は更正処分通知(Final Order)の発行期日の 3 か月前までと規定されています(CGST法第 73 条 2 項)。逆に言えば、情報開示を求める通知(Show Cause Notice)が発行されてから、納税者として GST 当局に説明できる期間がわずか 3 か月しか用意されていませんでした。そこで、2024 年度財政法では、CGST 法第 74A 条を新たに設定し、2024 年度以降の税務調査の運用規定を変更しました。
GST税務当局がSCNや更正処分通知(Final Order)を発行できる期間については、こちらをご参照ください。また、税務調査に際して課せられるペナルティはこちらをご参照ください。
更正処分通知(Final Order)受領後の対応
一連の税務調査が終了後に、GST税務当局から発行される更正処分通知(Final Order)に対して、納税者として異議申し立てを行う際は、コミッショナーアピールや税務訴訟手続きに進むことになります。更正処分通知(Final Order)に不服がある場合は、更正処分通知(Final Order)が通知されてから3か月以内に、Appellate Authorityにコミッショナーアピールとして訴える必要があります(CGST法第107条1項)。
更正処分通知(Final Order)を受領後に納税者のとれるアクションとしては、基本的に「納税をする」又は「不服申し立てを行う」のいずれかになると言えます。そのため、更正処分通知(Final Order)の発行日から3か月経過後も納税者がいずれのアクションも取られない場合には、納税者から更正処分額の徴収を確実に進めるべく、財産(銀行口座を含む)の差押え等の強硬的な手段を単体又は組み合わせて取ることができます(CGST法第79条)。
GST税務当局は強硬的な手段を取ることもできるため、税務調査通知や更正処分通知(Final Order)を受領した場合は、放置しておかず適宜、適切に対応していくことが求められます。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |