事前裁定(Advance ruling)とは、GSTの課税性や税率に関して事前に税務当局に質問する制度のことであり、その実施機関を事前裁定当局(Authority for Advance Ruling - AAR)と呼びます。
納税者はGSTの課税性に関して疑問がある際に事前裁定を使用することで、事業や取引の開始前にGST課税の不確実性を排除することで、法的安定性や課税判断の透明性を担保することができます。また事前裁定での決定は、納税者だけでなくGST税務当局も拘束するため、事前裁定を行った取引に関しては、将来の税務調査対応の負荷やGTS訴訟リスクを回避する効果があります。
また、GST税務当局の観点から見ても、事前裁定には下記のような恩恵があります。
- 申請者が想定している取引に関し事前に納税義務を確実にする
- 法的安定性を高め、外国直接投資を誘致する
- 訴訟件数を減らす
事前裁定の対象範囲
CGST法第97条では、事前裁定で質問できる論点として下記の点を列挙しています。
- 物品・サービスの分類
- GST法の規定に基づいて発行された通達の適用可能性
- 物品・サービスの提供の時期および価格の決定
- 仕入れ税額控除の利用の可否
- 物品・サービスに対する納税義務の決定
- GST登録の要否
- 物品・サービスに関して申請者が行った特定の行為が、物品・サービスの供給に該当するか
事前裁定は、申請を行った州の管轄州内でのみ適用されることになるため(同法第96条の解釈)、物品・サービスの供給地(Place of Supply)の決定に関する疑問を提起することはできない点に注意が必要です。
事前裁定の申請
事前裁定の申請を行う納税者は、GST ARA-01という様式でGSTポータルから申請しますが、申請料は5,000ルピーです。申請の際は、申請書のほかに本質問に関する関連書類を添付した上で、DSCでの電子署名を行う必要があります(CGST法第97条1項、CGST法細則第104条)。
納税者の申請後には、事前裁定当局(Authority for Advance Ruling - AAR)は当該質問の申請を認めるか又は却下するか決定します。上記の「事前裁定の対象範囲」から外れるの質問である場合や既に同納税者から同質問が申請されている場合には、申請者に聴聞の機会が与えられた後に質問の申請は却下されます(CGST法第98条2項)。
質問の申請が認められた場合には、事前裁定当局(Authority for Advance Ruling - AAR)は申請者から提出された関連書類を審査した上で、申請から90日以内に書面での回答が申請者に発行されます(CGST法第98条4、6項)。
事前裁定の回答の有効性
事前裁定に対する事前裁定当局(Authority for Advance Ruling - AAR)の回答は当該申請者及びGST税務当局のみを拘束するため(CGST法第103条)、同様の取引を行う第三者の課税性の決定の際の法的な根拠とはなりえません。ただ、事前裁定の回答はGST税務当局の解釈や考えを示すものであるため、他の納税者の疑問に対する事前裁定当局(Authority for Advance Ruling - AAR)の回答はGST税務当局のGST法に対する解釈のポジションを確認できるという意味においては、第三者にとっても有用と言えます。
また、納税者が事前裁定当局(Authority for Advance Ruling - AAR)の回答に不服がある場合には、回答が出てから30日以内に事前裁定審判所(Appellate Authority for Advance Ruling - AAAR)に提訴することもできます(同法第100条1、2項)。提訴申請を行う納税者は、GST ARA-02という様式でGSTポータルから申請しますが、申請料は10,000ルピーです(CGST法細則第106条2項)。なお、事前裁定審判所(Appellate Authority for Advance Ruling - AAAR)の決定も事前裁定の回答とみなされます。
これら事前裁定の回答は、該当するGST法や申請者の質問の前提が改正又は変更されるまで有効性を持ちます(同法第103条2項)。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |