日系企業がインドで製造業を行う際に土地を取得し工場等の建物を建設する場合には、州の政府系工業団地から土地を購入又は長期リースすることが一般的です。インド国内の不動産の購入又はリース取引はGSTの課税対象となるのでしょうか?
土地や建物の取得に関するGSTの取り扱い
まず、納税者が土地や建物を取得する場合です。CGST法スケジュールⅢ 5では土地や建物の売買は物品の供給に該当しないと規定しているため、土地や建物を取得した際にはGSTはかかりません。
一方で、複合施設、建物、土木構造物の建設サービスは、GST法の規定するサービスの供給に該当しますが、所轄官庁による竣工証明書の発行後、または最初の入居後のいずれか早い時点で対価の全額が支払われる場合のみは、建設サービスであってもサービスの供給に該当しません(CGST法スケジュールⅡ 5(b))。つまり、納税者が建物の建設を施工会社に依頼した際に、その対価の一部を前払いしている場合や工事の進捗に応じて支払っている場合には、建物の建設サービスはGSTの課税対象と整理されることになります。加えて、納税者が建設サービスを自らの顧客に対してさらに供給する場合を除いて、不動産(工場や機械を除く)の建設サービスで支払った仮払GSTは仕入税額控除を取れないので注意が必要です(CGST法第17条5項c号)。
GST法でのリースの概念
次に、納税者が土地や建物をリースする場合です。インドの会計基準上では日本の会計基準と同様にリース取引はファイナンシャルリースとオペレーティングリースに分類されていますが、GST法ではファイナンシャルリースやオペレーティングリースのような区分や定義はされていません。
CGST法第7条法1項a号では、「供給(supply)とは事業の過程において、対価を得て行った、または行うことに合意した、販売、譲渡、物々交換、交換、ライセンス、レンタル、リース、または処分など、物品又はサービス、またはその両方の供給の形態のすべて」と定義しています。よってリース取引はGSTの規定する供給に該当することが分かります。次に、リース取引が物品の供給に該当するのか、又はサービスの供給に該当するのかを確認します。CGST法スケジュールⅡでは所有権の移転(transfer of title)を伴う取引は、物品の供給に該当し、所有権の移転を伴わない取引は、サービスの供給に該当すると規定しています。よって、リース取引に関してもリース契約書に所有権の移転が記載されている場合のリース取引は物品の供給に該当し、記載されていない場合のリース取引はサービスの供給に該当すると整理できます。ただし、リース契約満了時に借り手に当該不動産を購入する権利が付与されているという条件だけでは、物品の供給に該当するとはみなされないと考えられます。
所有権の移転を伴わない場合の土地や建物のリース取引
上述の通り所有権の移転を伴わない場合のリース取引はサービスの提供に該当します。リース取引の種類によってGST税率は異なりますが、多くのリース取引では18%のGSTが課税されます。一部所有権の移転を伴わない場合のリース取引であっても例外として、下記のようにGSTが非課税とされている取引もあります。
取引 | GST税率 | 根拠条文 |
州政府の産業開発公社または事業体、あるいは中央政府、州政府、連邦直轄領の20%以上の所有権を有するその他の事業体が、産業・金融ビジネス地域の産業ユニットまたは開発業者に提供する、産業用区画または金融ビジネス用インフラ開発用区画の長期リース(30年以上)によるサービス。 | 0%(Nil Rate) | 2017年6月28日付の間接税・関税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes and Customs -CBIC)発行の通達(No.12/2017) |
耕作または農産物のための農業機械、またはその使用に付随する建造物の有無にかかわらず空き地の賃貸またはリース。 | 0%(Nil Rate) | 同上 |
(a)国営輸送事業に対して、12名を超える旅客を輸送する自動車を貸与する場合または(b)商品輸送機関に対して、商品の輸送手段を貸与する場合。 |
0%(Nil Rate) | 同上 |
所有権の移転を伴う場合の土地や建物のリース取引
上述の通り所有権を伴う場合のリース取引は物品の供給に該当します。一方で、CGST法スケジュールⅢ 5では土地や建物の売買は物品の提供には該当しないと規定しているため、土地や建物のリース取引でリース契約書に所有権の移転が記載されている場合には、GSTは課税されないと考えられます。よって日系企業が州の政府系工業団地と契約満了時に所有権が移転する旨の土地のリース契約を結ぶ場合には、本取引はGSTの課税対象外と整理できます。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |