日本の所得税法は個人及び法人の所得をそれぞれ個人所得税法と法人税法という別の法律にて規定していますが、インドでは個人及び法人の所得は所得税法(Income-Tax Act)という1つの法律で規定しています。そのため、インドでは個人所得税のみならず、法人税の計算方法も所得税法(Income-Tax Act)に従うことになります。
インド所得税法は所得の種類を5つに分類したうえで、各所得の種類ごとに計算方法が規定されています。それらの5つの所得を合算することで総所得金額が算出されますが、その際に損益通算や繰越欠損金との相殺も認められます。個人所得税の概要はこちら、法人税の概要はこちら、所得税申告の概要はこちらをそれぞれ参照ください。
所得税の計算手順
インド所得税法は所得の種類を下記の5つに分類しています(1961年所得税法第14条)(2025年所得税法第13条)。分離課税が適用となる長期譲渡所得等の一部の所得を除いては、総合課税の仕組みで所得税を計算することになりますが、法人税を計算する文脈では、一般的に給与所得は発生しません。
- 給与所得(Salaries)
- 不動産所得(Income from house property)
- 事業・専門職所得(Profits and gains of business or profession)
- 譲渡所得(Capital gains)
- その他の所得(Income from other sources)
所得の種類ごとにインド所得税法が規定する計算方法に従って、5種類の所得/損失金額をそれぞれ計算し、これらの合算数値が総所得金額(Gross Total Income - GTI)となります。その際には、損益通算や繰越欠損金を相殺することになります。総所得金額から適用可能な各種の所得控除を適用し、課税所得(Total Income - TI)を確定させます。そして、課税所得に対して各納税者に適用される所得税率を乗じることで、所得税が計算されます。
損益通算(Set off of losses)
損益通算とは日本では一般的に個人所得税を計算する際の概念ですが、インドでは個人所得税のみならず法人税を計算する際にも、損益通算の考え方があります。つまり、日本の法人税計算では事業活動により生じた利益や損失は自動的に通算される形になる一方で、インドでは5種類の所得ごとに計算した後に損益通算する流れとなります。
①Intra-head Adjustment
損益通算する際にまずは同じ種類の所得内の損益通算を行いますが、これをIntra-head Adjustmentと呼びます(1961年インド所得税法第70条1項)(2025年インド所得税法第108条1項)。また、譲渡所得の内、短期譲渡損の損失の通算は短期譲渡益及び長期譲渡益ともに認められておりますが、長期譲渡損の損失の通算は長期譲渡益とのみ認められています。ただ、投機事業、競争馬の保有・飼育事業等からの損失は同事業からの利益とのみ通算が認められています(1961年インド所得税法第73条1項、第74A条3項)(2025年インド所得税法第113条1項、115条1項)。
例えば事業所得の内、事業Aから利益が出ている一方で、事業Bからは損失が出ている場合に事業Aと事業B間で通算を行うのがIntra-head Adjustmentです。
②Inter-head Adjustment
Intra-head Adjustmentでの通算後に、譲渡所得を除くいずれかの所得で損失がある場合は別の所得と損益通算を行うことができますが、これを Inter-head Adjustmentと呼びます(インド所得税法第71条1項)(2025年インド所得税法第109条1項)。ただ、事業所得の損失は給与所得の所得とは損益通算ができず、また不動産所得の損失は他の所得と損益通算ができるのは20万ルピーまでです。なお、新税率を選択した個人所得税の計算ではこの損益通算は認められません(1961年インド所得税法第115BAC条2項ii号b)(2025年インド所得税法第202条2項b号ii)。投機事業、競争馬の保有・飼育事業等の損失からの損失は通算が認められません(1961年インド所得税法第73条、第74A条)(2025年インド所得税法第113条、115条)。
例えば不動産所得から利益が出ている一方で、事業所得からは損失が出ている場合に不動産所得と事業所得間で通算を行うのがInter-head Adjustmentです。
繰越欠損金(Carry forward of losses)
損益通算をした後にもなお損失がある場合には、繰越欠損金としてその損失は翌年以降に繰り越すことが可能で、翌年以降の同種類の所得と相殺が可能となります。
例えば事業所得から損失が出たことにより繰越欠損金を繰り越す場合には、翌年以降の事業所得の利益とのみ相殺が可能であり、翌年以降の不動産所得等とは相殺ができません。この繰越欠損金の相殺対象に関する所得範囲の限定は日本にはないルールですので注意が必要です。
| 所得の種類 | 繰越可能年数 | 根拠条文 |
| 事業所得(投機事業を除く) |
8年 |
1961年インド所得税法第72条 / 2025年インド所得税法第112条 |
| 事業所得(投機事業) | 4年 | 1961年インド所得税法第73条 / 2025年インド所得税法第113条 |
| 不動産所得 |
8年 ※新税率を選択した個人所得税の計算では繰越不可 |
1961年インド所得税法第71B条 / 2025年インド所得税法第110条 |
| 短期キャピタルゲイン所得 |
8年 ※翌年以降の短期又は長期キャピタルゲイン所得と相殺可能 |
1961年インド所得税法第74条1項a号 / 2025年インド所得税法第111条1項a号(i) |
| 長期キャピタルゲイン所得 |
8年 ※翌年以降の長期キャピタルゲイン所得のみと相殺可能 |
1961年インド所得税法第74条1項b号 / 2025年インド所得税法第111条1項a号(ii) |
| その他の所得(競争馬の保有・飼育) | 4年 | 1961年インド所得税法第74A条 / 2025年インド所得税法第115条 |
非公開会社で期末時点での株主が当該損失が生じた期末の株主構成から51%超の変動が実質的にある場合、当該過年度の損失は繰越すことができません(1961年インド所得税法第79条)(2025年インド所得税法第119条3項)。
また譲渡所得、事業所得等の損失に関する繰越欠損金は所得税申告を期日以内に申告していることを条件に繰り越すことが可能です。(1961年インド所得税法第80条、139条3項)(2025年インド所得税法第121条)。そのため当該年度はインド国内源泉所得が発生していない場合であっても、過年度の繰越欠損金を繰り越すためには、当該年度に損失の申告(Return of Loss)として所得税申告を期日通りに行うことが求められます。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |


