損益通算(Set off of losses)
日本の所得税法は個人及び法人の所得をそれぞれ個人所得税法と法人税法という別の法体系にて規定していますが、インドでは個人及び法人の所得は所得税法(Income-Tax Act)という1つの法体系で規定しています。そのため、損益通算とは日本では一般的に個人所得税を計算する際の概念ですが、インドでは法人税を計算する際にも、損益通算(Set off of losses)の考え方があります。つまり、日本の法人税計算では事業活動により生じた利益や損失は自動的に通算される形になる一方で、インドでは下記の5つの所得ごとに計算した後に損益通算する流れとなります。※法人税を計算する文脈では給与所得は一般的に出てきません。
【インド所得税法での所得の種類】
(i) 給与所得 - Salary Income(同法第15条)
(ii) 不動産所得 - Income from house property(同法第22条)
(iii) 事業所得 - Profits and gains of business or profession(同法第28条)
(iv) キャピタルゲイン所得 - Capital gains(同法第45条)
(v) その他の所得 - Income from other sources(同法第56条)
①Intra-head Adjustment
損益通算する際は、まずは同じ種類の所得内の損益通算を行いますが、これはIntra-head Adjustmentと呼びます(インド所得税法第70条1項)。例えば事業所得の内、事業Aから利益が出ている一方で、事業Bからは損失が出ている場合に事業Aと事業B間で通算を行うのがIntra-head Adjustmentです。ただ、投機事業、競争馬の保有・飼育事業等からの損失は通算が認められておりません。また、キャピタルゲイン所得の内、短期キャピタルゲインの損失の通算は認められておりますが(同条2項)、長期キャピタルゲインの損失の通算は認められておりません(同条3項)。
②Inter-head Adjustment
Intra-head Adjustmentでの通算後に、キャピタルゲイン所得を除くいずれかの所得で損失がある場合は別の所得と損益通算を行うことができますが、これを Inter-head Adjustmentと呼びます(所得税法第71条1項)。例えば不動産所得から利益が出ている一方で、事業所得からは損失が出ている場合に不動産所得と事業所得間で通算を行うのがInter-head Adjustmentです。ただ投機事業、競争馬の保有・飼育事業の損失等からの損失は通算が認められいないのは、Intra-head Adjustmentと同様です。加えて、不動産所得の損失をその他の損失と通算できるのは20万ルピーまでです(同条3A項)。
繰越欠損金(Carry forward of losses)
損益通算をした後にもなお損失がある場合には、該当年度に期日以内に税務申告をしていることを条件に(インド所得税法第139条3項)、繰越欠損金(Carry forward of losses)としてその損失は翌年以降に繰り越すことが可能です。ただ、繰越欠損金は翌年以降の同所得とのみ相殺が可能となります。例えば事業所得からは損失が出てことにより繰越欠損金を繰り越す場合には、翌年以降の事業所得の利益とのみ相殺が可能であり、翌年以降の不動産所得等とは相殺ができません。この繰越欠損金の相殺対象に関する所得範囲の限定は日本にはないルールですので注意が必要です。
所得の種類 | 繰越可能年数 | 根拠条文 |
事業所得(投機事業を除く) |
8年 |
インド所得税法第72条 |
事業所得(投機事業) | 4年 | 同法第73条 |
不動産所得 | 8年 | 同法第71B条 |
短期キャピタルゲイン所得 |
8年 ※翌年以降の短期又は長期キャピタルゲイン所得と相殺可能 |
同法第74条1項a号 |
長期キャピタルゲイン所得 |
8年 ※翌年以降の長期キャピタルゲイン所得のみと相殺可能 |
同法第74条1項b号 |
その他の所得(競争馬の保有・飼育) | 4年 | 同法第74A条 |
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |