インド所得税法は事業所得を課税する要件として、恒久的施設(Permanent Establishment - PE)という概念の代わりにインド国内での事業関連性(Business Connection)という概念を用いています。加えて、非居住者がインド国内に重要な経済的存在(Significant Economic Presence - SEP)を有する場合、その非居住者法人はインド国内での事業関連性(Business Connection)があるものとみなし、事業所得に課税する規定が2018年に導入されています。つまり、非居住者法人がインドにSEPを有する場合でSEPに直接的又は間接的に帰属する所得は、インド国内源泉の事業所得があるとみなされることになります。
重要な経済的存在(Significant Economic Presence - SEP)とは
次の場合、非居住者法人はインド国内にSEPを有するものと定義されています(同法第9条1項i号 Explanation2A)。
- 収益関連条件:非居住者がインド国内のいかなる者との間で実施するあらゆる物品、サービス、または財産に関するあらゆる取引(インド国内におけるデータ提供またはソフトウェアダウンロードを含む)について、かかる取引(1件または複数)から1課税年度中に生じる支払総額が所定の金額を上回ること
- ユーザー関連条件:系統的かつ継続的なインド国内ユーザーに対するビジネス活動の勧誘またはインド国内ユーザーとのやりとりへの関与が、所定の規模を上回ること
なおSEPの認定は、以下と関わりなく行われます。
- 当該取引または活動に関する何らかの合意がインド国内で結ばれているかどうか
- 当該非居住者がインド国内に住居または事業所を有しているかどうか
- 当該非居住者がインド国内でサービスを提供しているかどうか
次に上記の定義中にある所定の金額(収益関連条件)や所定の規模(ユーザー関連条件)については、インド所得税法細則第11UD条が次の通り規定しております。これらの基準値は、SEP規定の発効日に沿って、2022年4月1日から効力を生じます。
取引 | 基準 |
非居住者がインド国内の者との間で行う物品、サービスまたは資産の取引(データやソフトウェアのダウンロードを含む)の金額 | 2,000万ルピー |
インド国内ユーザーに対して、事業活動に関する体系的・継続的な勧誘やコミュニケーションを行う場合のユーザー数 | 30万ユーザー |
これらの規定を鑑みると、例えば非居住者法人が2,000万ルピーを超えて日本からインドで物品の輸出を行った際にも、SEP認定を通しインド国内での事業関連性があるとみなされるため、当輸出取引はインド国内源泉の所得と整理される可能性があります。しかし、あくまでこの規定はインド所得税法の規定であり、日印租税条約第7条にはいわゆる「PEなければ課税なし」の伝統的な規定があり、SEP認定の規定はこの伝統的な考え方を否定するものではありません。なぜなら、インド所得税法第90条2項では納税者に有利になる範囲で租税条約の規定をインド所得税法に優先して適用できると規定しているからです。
従って日本法人の場合は日印租税条約を適用することで、PEをインド国内に有していない場合にはたとえ2,000万ルピーを超える輸出取引等を行っていてもインド国内源泉所得は発生せず、インドでの税務申告も求められません。しかし、インドと租税条約を結んでいない国の非居住者企業が行う 2,000 万ルピーを超えるインドへの輸出取引等は、インド国内源泉の事業所得とみなされる可能性があるので注意が必要です。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |