インド高速鉄道プロジェクトに代表される日印政府間で合意されたプロジェクトに関して、民間の日系企業がインド政府又はインド政府系企業(以下、政府系企業等)と取引を行うことがあります。政府系企業等とのコンサルティングサービス取引に関して支払いを受ける際又は支払いをする際の源泉徴収税(Tax Deducted at Sources - TDS)の取り扱いはどのようになるのでしょうか?
民間企業から政府系企業等にコンサルティングサービスを提供する場合
インド高速鉄道プロジェクト等の政府プロジェクトに関して、民間企業が政府系企業等に対してプロジェクト管理や技術的なアドバイスを行うことがあります。これらのコンサルティングサービスは技術上の役務に対する対価(Fee for Technical Service - FTS)に該当します。インド所得税法第9条1項(vii)号では、インド政府(the Government)から受領するFTSはインド国内で発生した又は発生したとみなされる所得であると規定しています。また、インド内国企業から受領するFTSに関しても、インド国内で発生した又は発生したとみなされる所得であると規定しています(当インド内国企業がインド国外で行う事業に利用される又はインド国外で所得を得る目的で利用されるFTSの支払いを除く)。コンサルティングサービスの提供先の政府系企業等が、インド政府(the Government)とインド内国企業のいずれかに該当するかは取引ごとに確認が必要とはなりますが、いずれにせよ、政府系企業等がインド国内で行っているプロジェクトに関して民間企業(インド国内企業、日本国内企業を含む)が提供するコンサルティングサービスは、インド国内源泉の所得とみなされます。
インド国内のプロジェクトに関してコンサルティングサービスを行う場合は、日本法人(インド外国法人)がインド現地に赴かず日本国内のみで行うコンサルティングを行っていた場合であっても、インド国内源泉所得に該当するため注意が必要です。なお、同法第10条はインド国内源泉所得とはならない取引を限定列挙しており、政府系企業等に提供するコンサルティングサービスがこの列挙項目のいずれかに該当する場合や、租税条約で別段の定めがある場合には、インド国内源泉所得とはなりません。
加えて、政府系企業等と民間企業間の契約書に租税に関する別段の定め等が規定されており、政府系企業等がインド所得税当局から免税に関する証明書等を取得しているような場合はこの限りではないので、契約書等の文言を確認することが重要になります。
結論としては、一般的には民間企業が政府系企業等に提供するコンサルティングサービスはFTSに該当しインド国内源泉所得となるため、政府系企業が民間企業にコンサルティングサービスの対価を支払う際には、政府系企業はTDSを源泉徴収した上で、対価の支払いが行われます(同法第194J条、195条)。
政府系企業等から民間企業にコンサルティングサービスを提供する場合
次に政府系企業等が民間企業にコンサルティングサービスを行い、民間企業が対価を支払う場合です。同法第196条では、下記機関等が所有する証券、株式に関する利息や配当金、又は下記機関等に発生するその他の所得に対して支払われる対価の場合にはTDSの源泉徴収は不要であると規定しています。
- インド政府(the Government)
- インド準備銀行(the Reserve Bank of India)
- 中央法(a Central Act)に基づいて設立された法人でその所得に対する所得税が免除されているもの
- 同法第10条23D項の指定する投資信託(a Mutual Fund)
よって、この第196条が適用になる所得の場合、民間企業が政府系企業にコンサルティングサービスの対価を支払う際には、TDSの源泉徴収は不要となります。なお、TDSの源泉徴収が不要となる取引をより詳細に規定するために直接税中央委員会(Central Board of Direct Taxes - CBDT)は2002年7月16日付で通達(No. 4/2002)、2015年4月23日付で通達(No. 7/2015)を発行しております。これらの通達で下記の条件を満たす場合の支払いにはTDSの源泉徴収は不要と規定されました。
- 同法第10条に基づき無条件で該当する所得が免税となる取引の支払い かつ
- 同法第139条が規定する税務申告が不要となる事業体への支払い
さらに、CBDTは2017年5月29日付の通達(No. 18/2017)にてこれらの条件に該当する事業体を列挙しています。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |