BEPS防止措置実施条約とは?
「税源侵食及び利益移転(BEPS)を防止するための租税条約に関連した措置を実施するための多数国間条約」(以下、BEPS防止措置実施条約)とは、 BEPS防止措置のうち租税条約に関連する措置を本条約の締約国間の既存の租税条約に導入することを目的とした多数国間条約です。簡単に申し上げると、BEPS防止措置に関する規定を個々の租税条約に反映させるためには、一国ずつ既存の租税条約を協議し改定する必要がありますが、それでは膨大な手間と時間がかかることから、この多数国間条約に各国が参加する形式をとることで一斉に既存の租税条約を改正する狙いがあります。なお、BEPS防止措置実施条約はMLI(Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent Base Erosion And Profit Shifting)と略されることもあります。
2016年11月24日にBEPS防止措置実施条約の本文とその解説文書が公表され、2017年6月7日に日本及びインドを含む67か国・地域の代表がパリに集まりBEPS防止措置実施条約に署名を行いました。BEPS防止措置実施条約の日本での発効は2019年1月1日~、インドでの発効は2019年10月1日~となっています。
日印が選択したBEPS防止措置実施条約の規定
BEPS防止措置実施条約は前文と39条から構成されていますが、そのすべての規定が日印租税条約に適用になるわけではありません。各国はBEPS防止措置実施条約の内、自国の租税条約に適用する規定を選択することができ、租税条約の締結国の両国が共に選択した規定のみ租税条約に適用となります。
日本とインドが共に選択した結果、日印租税条約に適用となっている規定は下記の通りです。
- 第4条1:双方居住者で個人以外のものを租税条約の適用上いずれか一方の当事国の居住者に振り分ける規定
- 第6条1:租税条約は二重非課税の機会を生じさせるものでないことを明らかにする前文の規定
- 第7条1:取引等の主要な目的が租税条約の特典を受けることである場合にその特典を認めない規定
- 第9条4:不動産化体株式の譲渡収益に対する課税に関する規定
- 第10条1から3まで:第三国内に存在する恒久的施設に帰属する一定の所得に対する租税条約の特典を認めない規定
- 第12条1及び2:恒久的施設を構成するものとされる代理人に関する規定
- 第13条2:事業を行う一定の場所を通じて行われる場合においても恒久的施設を構成しないものとされる活動に関する規定
- 第13条4:関連者間で細分化された事業活動を組み合わせて恒久的施設を認定する規定
- 第15条:企業と密接に関連する者の定義に関する規定
- 第17条1:独立企業原則に沿った課税に係る対応的調整に関する規定
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |