被雇用者としての給与所得 V.S. 個人事業主としての事業所得
会社と雇用契約書を締結した上で被雇用者として勤務する場合に、労働の対価として会社から支払われる報酬は給与所得(Salary Income)となります。一方で会社と業務委託契約を結び個人事業主として労働サービスを提供する場合に労働の対価として会社から支払われる報酬は給与ではなく事業所得(Profits and gains of business or profession)となります。
インドの弁護士事務所等で働く方の中には、事務所と雇用契約書を結ぶ代わりに業務委託契約を締結した上で個人事業主として働く形態を選択されている方がいます。この場合も月次単位で業務委託料が払われる契約になっていることが多いようで、外見上は月次で給与を受け取っているように見えます。
日本では一定額以下の給与所得のみを受領するサラリーマンであれば個人としての税務申告は不要ですが、インドでは給与所得又は事業所得どちらを受領する場合であっても、個人で税務申告が必要になります(インド所得税法第139条)。ただ、給与所得を受領する被雇用者と事業所得を受領する個人事業主では、①源泉徴収税(Tax Deducted at Sources - TDS)の徴収額や②個人所得税の計算方法の違いがあり、同じ所得額であっても事業所得を受領する個人事業主の方が節税できる場合があります。
①TDS額の違い
雇用主から被雇用者に給与が支払われる際には、当該被雇用者の年間給与所得に課税される個人所得税の平均率でTDSが源泉徴収されます(同法第192条)。支払われる給与が多ければそれだけ個人所得税も増えるため、毎月給与から差し引かれるTDS額も増えます。
一方で、インドの弁護士事務所等で業務委託契約に基づいて月次で業務委託料が支払われる際には、その支払いは技術上の役務に対する対価(Fee for Technical Service - FTS)に該当し、10%のTDSが源泉徴収されます(同法第194J条)。給与所得の場合と異なり、支払われる業務委託料の多寡によらずTDS率は10%で固定です。
②個人所得税の計算方法の違い
給与所得の場合、基本的には給与や賞与として支払われた総額がその者の課税所得となり(同法第15条)、その課税所得に個人所得税率を乗じることで個人所得税が計算されます。
一方で、事業所得の場合は業務委託料として受領した金額は個人事業主にとって売上であり、そこからその売上を稼得するために発生した費用を差し引くことが出来ます。つまり、売上(業務委託料)から費用を差し引いて残った利益が課税所得とみなされ(同法第28条)、その課税所得に個人所得税率を乗じることで個人所得税が計算されます。個人事業主は利益を適切に計算するために会計帳簿の作成・保管が求められます(同法44AA条)。なお、年間の売上が500万ルピーを超えない一部の個人事業主には同法第44ADA条が規定する推定課税方式(Presumptive Taxation)での課税所得の計算も認められており、この場合には会計帳簿の作成・保管は不要です。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |