推定課税方式(Presumptive Taxation)とは事業所得(Profits and gains of business or profession)を稼得する小規模の納税者に認められた、簡易課税方法です。インド所得税法は一定の事業所得を稼得する者に、事業に関する利益を適切に計算するための会計帳簿の作成・保管や(インド所得税法第44AA条)、税務監査を受けることを求めております(同法第44AB条)。ただ小規模の納税者にとって、適切に会計帳簿を作成・保管等することは負荷が高いことを考慮し、この推定課税方式を適用する場合には会計帳簿の作成・保管義務や税務監査を受ける義務が免除されます(同法第44AD条5項、44ADA条4項、44AE条5項)。
また、推定課税方式では一般的な方法(売上から関連する費用を差し引いて利益を求める方法)とは異なる事業所得の利益の計算方法が適用になるので、納税額も節税できる可能性があります。なお、推定課税方式を採用する者が税務申告をする際には、Form ITR-4 (Form SUGAM)という様式で税務申告する必要があります。
推定課税方式を適用できる者
推定課税方式を適用できるものは下記の通りです。
①次の専門職(Profession)を営むインド居住者で年間売上等が500万ルピーを超えない者(同法第44ADA条)
- 法律
- 医療
- 工学
- 建築
- 会計
- 技術コンサル
- 室内装飾
- その他直接税中央委員会(Central Board of Direct Taxes - CBDT)が官報で通知する専門職
②会計年度中に10両以下の貨物自動車を所有し当該貨物自動車を運行、貸与またはリースする事業に従事している者(同法第44AE条)
③①②に該当する者以外のインド居住者で年間売上等が3,000万ルピーを超えない者(下記の者を除く)(同法第44AD条)
- インド非居住者
- 法人
- インド有限責任事業組合(Limited Liability Partnership - LLP)
- 仲介手数料(Commission or Brokerage)の収入を得る者
- 代理店業務(Agency Business)を営む者
- 当該会計年度で、同法第10A条、第10AA条、第10B条、第10BA条の控除、または第VIA章「C.-特定の所得に関する控除」の規定に基づく控除を利用した者
推定課税方式を適用する場合の課税所得の計算方法
①第44ADA条の専門職の課税所得
年間売上等の50%
②第44AE条の貨物自動車に関する事業者の場合
(i) 大型貨物自動車である場合:大型貨物自動車を所有していた月数ごとに、車両総重量または未積載重量1トン当たり1,000ルピー、または当該車両から実際に稼得されたと主張される金額のいずれか高い金額
(ii) 大型貨物自動車以外の場合:貨物自動車を所有していた月数ごとに、7,500 ルピーまたは当該貨物自動車から実際に稼得したとされる金額のいずれか高い金額
③①②以外の第44AD条の課税所得
年間売上等の8%(年間売上等のうち、税務申告期日までに口座振出小切手、口座振出銀行為替手形、または銀行口座経由の電子決済システム、またはその他所定の電子的方法によって受領された金額に対しては6%)
事業所得を稼得する者が課税所得額を計算する際には、一般的には事業の売上から関連する費用を差し引いた上で計算される利益を基に課税所得を求めます(同法第28条)。ただ、この推定課税方式を適用する場合は、上記で求めた金額が課税所得となるため、さらに追加で関連する費用を差し引くことは基本的にできません。
また、第44AD条の規定する事業者が推定課税方式を適用した場合には、向こう5年は推定課税方式を適用する必要があります。万が一、向こう5年で推定課税方式を適用しない場合は、当該5年間は推定課税方式を適用できないと同時に会計帳簿の作成・保管(インド所得税法第44AA条)、税務監査(同法第44AB条)も適用となるため注意が必要です(同法第44AD条4・5項)。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |