目次
- 要約
- 税務調査:Adjudicating Authorityの概要
- コミッショナーアピール(不服申立):Appellate Authorityの概要
- 不服申立:税務審判所(Appellate Tribunal)の概要
- 取消訴訟:高等裁判所(High Court)の概要
- 控訴可能な係争金額の金額制限
- 預託金について
要約
GST法は納税者に様々なGSTコンプライアンスを求めています。GSTコンプライアンスは主にGST課税関連コンプライアンス(課税要件、課税供給額、税率等)と手続き関連コンプライアンス(GST登録、GST申告、GST納税方法等)の二つに分けられます。納税者のこれらのコンプライアンス遵守状況はGST当局によってGST監査やGST税務調査によって検証され、コンプライアンス違反があれば税務通知が発行されます。ただ、コンプライアンス違反に関してGST当局と納税者の認識に不一致が生じ税務調査の段階で解決されない場合には、それらの不一致を解決する仕組みが必要になります。
GST当局が税務調査を通して納税者にコンプライアンス違反があると判断した場合、GST当局は追徴課税額(延滞利息、ペナルティを含む)を記載した更正処分通知(Final Order)を納税者に発行します。この更正処分通知(Final Order)の内容に不服がある納税者は、不服申立さらにその後の税務訴訟の場で、不服な更正処分について解決していくことになります。なお、不服申立や税務訴訟を提訴できるのは、納税者のみならずGST当局も提訴できます。一方で、不服申立等をするには、申請できる期間が定められており、かつ預託金の支払いも求められるため注意が必要です。
インドのGST法は以下の通りの段階的な不服申立及び税務訴訟手続きを用意しております。
名称 | 参照条文 | |
税務調査 | Adjudicating Authority | CGST法第73,74,74A条 |
コミッショナーアピール(不服申立) |
Appellate Authority | CGST法第107条 |
不服申立 | 税務審判所(Appellate Tribunal) | CGST法第112条 |
取消訴訟 | 高等裁判所(High Court) | CGST法第117条 |
取消訴訟 | 最高裁判所(Supreme Court) | CGST法第118条 |
税務調査:Adjudicating Authorityの概要
GST当局が納税者のGST申告に対して納税額不足等のGSTコンプライアンス違反があると判断した際には、GST当局から税務通知が納税者に発行されます。この段階でGST当局によるGST監査が行われる場合もあります。本税務調査を通してGST当局が納税者の説明に納得した場合には更正処分通知(Final Order)は発行されませんが、納税者の説明に納得しない場合や納税額不足額等がある場合には、更正処分通知(Final Order)が発行されます。なお、Adjudicating Authorityとは更正処分通知(Final Order)等を発行する税務当局を指しますが、Appellate AuthorityやAppellate Tribunalは含みません(CGST法第2条4項)。税務調査の流れはこちらをご参照ください。
なお、税務調査の段階でAdjudicating Authorityに対して主張していない証拠は、一定の例外を除いて下記のAppellate Authorityにコミッショナーアピールする際や税務審判所(Appellate Tribunal)に不服申立する際に主張することはできません(CGST法細則第112条)。そのため、その後の不服申立を見据えた上で税務調査対応を行っていくことが重要となります。
コミッショナーアピール(不服申立):Appellate Authorityの概要
Adjudicating Authorityから発行された更正処分通知(Final Order)に不服がある場合は、更正処分通知(Final Order)が通知されてから3か月以内に、Appellate Authorityにコミッショナーアピールとして訴えることができます(CGST法第107条1項)。たとえば、更正処分通知(Final Order)には発行日が9月1日と記載されている一方で、納税者に通知されたのが9月15日であった場合には、3か月の期間は9月15日から起算されます。また、 Appellate Authorityは3ヶ月内に訴えを提出することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で1ヶ月の期間内に訴えを提出することを許可することができます(CGST法第107条4項)。
この訴えはGST APL-01という様式にて関連書類と併せてGSTポータルからオンライン提出します。ただ、GSTポータルに更正処分通知(Final Order)がアップロードされておらず、オンラインでGST APL-01を提出できない場合は、GST当局に物理的にGST APL-01を提出することもできます(CGST法細則第108条1項)。その場合、GST登録者が自ら署名した当該更正処分通知(Final Order)を7日以内に提出する必要があり、7日以内に提出しない場合その提出を行った日がコミッショナーアピールを申請した日とみなされるため注意が必要です(CGST法細則第108条3項)。
なお、この訴訟に関して納税者は非を認めている納税額の全額及び不服申し立てをしている納税額の10%(最大2億ルピー)を預託金として預託する必要があります(CGST法第107条6項)。Appellate Authorityは可能な限りにおいてすべての訴えをそれが提訴された日から1年以内に審理し、決定しなければいけません(CGST法第107条13項)。
Appellate Authorityは必要な追加調査を行った後,納税者に発行された更正処分通知を支持、変更、取り消す決定をしますが、Adjudicating Authorityに本件を差し戻すことはできません。また納税者に説明の機会を与えた後であれば、更正処分通知で要求されている以上のペナルティーや罰金をAppellate Authorityが納税者に課すこともできます(CGST法第107条11項)。
不服申立:税務審判所(Appellate Tribunal)の概要
税務審判所(Appellate Tribunal)は準司法機関という立場であり、日本の国税不服審判所に該当します。Appellate Authorityの下した決定に不服がある場合は、その決定が通知されてから3か月以内に、税務審判所(Appellate Tribunal)に不服申立を申請することができます(CGST法第112条1項)。また、 Appellate Tribunalは3ヶ月内に不服申立を申請することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で3ヶ月の期間内に不服申立を申請することを許可することができます(CGST法第112条6項)。ただ、Appellate Tribunalは自らの裁量で5万ルピーを超えない案件の不服申立は却下することが出来ます(CGST法第112条2項)。
この訴えはGST APL-05という様式にて関連書類と併せてGSTポータルからオンライン提出します。ただ、物理的にGST APL-05を提出することが認められることもあります(CGST法細則第110条1項)。その場合、GST登録者が自ら署名したAppellate Authorityの決定を7日以内に提出する必要があり、7日以内に提出しない場合その提出を行った日が税務審判所(Appellate Tribunal)に提訴した日とみなされるため注意が必要です(CGST法細則第110条4項)。
なお納税者は、非を認めている納税額の全額及び不服申し立てをしている納税額の10%(最大2億ルピー)を預託金として上述のAppellate Authorityに支払う10%とは別に、預託する必要があります(CGST法第112条8項)。
Appellate Tribunalに不服申立を提出した被告側は、その知らせから45日以内に反対意見の覚書(Memorandum of Cross-objections)を提出することが出来ます(CGST法第112条5項)。また、 Appellate Tribunalは45日以内に反対意見の覚書を提出することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で45日以内の期間内に反対意見の覚書を提出することを許可することができます(CGST法第112条6項)。
Appellate Tribunalは当事者に聴聞の機会を与えた後、 不服申立が提出された決定を支持、変更、取消す決定を下すか、適当と考える指示を付してAdjudicating AuthorityやAppellate Authority等に案件を差し戻し、 必要であれば、追加の証拠を集めた上で 再度の裁決を行うことができます(CGST法第113条1項)。Appellate Tribunalは可能な限りにおいてすべての訴えをそれが提起された日から1年以内に審理し、決定しなければいけません(CGST法第113条4項)。
取消訴訟:高等裁判所(High Court)の概要
Appellate Tribunalの下した決定に不服がある場合は、判決から180日以内に高等裁判所に取消訴訟を起こすことができます(CGST法第117条1項)。なお高等裁判所は当該期間内に取消訴訟を提起しなかったことについて十分な理由があると認めるときは、当該期間の経過後であっても取消訴訟を受理することができます。この訴えはGST APL-08という様式をオンライン上で提出します(CGST法細則第114条1項)。
なお、事実認定の問題(Question of Facts)を争うことができる税務審判所(Appellate Tribunal)への不服申立までとは異なり税法上の解釈の問題(Substantial Question of Law)に値しないとみなされる案件の場合には高等裁判所への取消訴訟は却下されます(CGST法第117条1項)。一般的にSubstantial Questionとは、法解釈のために関連する法原理を適用して結論が導かれるQuestionを指します。事実認定の問題(Question of Facts)は特定の状況にある本件においてのみ有効ですが、税法上の解釈の問題(Substantial Question of Law)は同状況の別件にも当てはめることができます。高等裁判所は税法上の解釈の問題(Question of Law)を定形化したうえで議論し、判決を下します(CGST法第117条3,4項)。
また、税務審判所(Appellate Tribunal)への不服申立までには、1908年インド民事訴訟法(Code of Civil Procedure,1908)は適用になれませんが、高等裁判所には1908年インド民事訴訟法が適用となります(CGST法第117条9項)。
控訴可能な係争金額の金額制限
インドの司法は数多くの訴訟案件を抱えており、常にパンク状態にあると言われております。そこで司法資源の活用を最適化し、係争の解決を迅速化するためCGST法第120条に関して間接税・関税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes and Customs - CBIC)は2024年6月26日付でCircular No. 207/1/2024-GSTは発行し、GST当局による提訴等が可能な係争金額の下限を下記の通り設定しました。
係争金額の下限 | |
税務審判所(Appellate Tribunal) | 200万ルピー |
高等裁判所(High Court) | 1,000万ルピー |
最高裁判所(Supreme Court) | 2,000万ルピー |
預託金について
納税者が提訴する不服申立や税務訴訟は法律のルールの中で行う必要があり、一般的に税法規に適用される原理は「裁定された納税義務額を納税してから、訴えを提訴できる」とされています。ただ、提訴が成功し納税者に有利な決定がされる場合もあり、その場合に裁定された納税義務額の全額を一旦納税するのは財政的負担の面から考えても不公平と言えます。そこでこれらの考え方のバランスを取る形で、税法では預託金(Pre-deposits)という考え方を採用しています。
GST法ではAppellate Authorityにコミッショナーアピールする場合、税務審判所(Appellate Tribunal)に不服申立する場合には、納税者が非を認めている納税額の全額の納税及び一定の額の預託金の預託を求めています(CGST法第107条6項、第112条8項)。なお、執行の停止(Stay)が高等裁判所から得られない限り、高等裁判所への提訴には裁定された納税義務額の全額の納税が必要となります。
ただ、この預託金は納税者の訴えが認められた際には利息額とともに納税者に返金されます(CGST法第115条)。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |