GST税務当局が税務調査を通して納税者に納税不足額等があると判断した場合、GST税務当局は追徴課税額(延滞利息、ペナルティを含む)を記載した更正処分通知(Final Order)を納税者に発行します。この更正処分通知(Final Order)の内容に不服がある納税者は、不服申し立てさらにその後の税務訴訟の場で、不服な更正処分について解決していくことになります。
インドのGST法は以下の通りの段階的な不服申し立て及び税務訴訟手続きを用意しております。
名称 | 参照条文 | |
税務調査 | Adjudicating Authority | CGST法第73,74条 |
コミッショナーアピール | Appellate Authority | 同法第107条 |
不服申立 | 税務審判所(Appellate Tribunal) | 同法第112条 |
取消訴訟 | 高等裁判所(High Court) | 同法第117条 |
取消訴訟 | 最高裁判所(Supreme Court) | 同法第118条 |
税務調査:Adjudicating Authority
GST税務当局が納税者のGST申告に対して納税額不足等のGSTコンプライアンス違反があると判断した際には、GST当局から税務通知が納税者に発行されます。この段階でGST税務当局によるGST監査が行われる場合もあります。本税務調査を通してGST税務当局が納税者の説明に納得した場合には更正処分通知(Final Order)は発行されませんが、納税者の説明に納得しない場合や納税額不足額等がある場合には、更正処分通知(Final Order)が発行されます。なお、Adjudicating Authorityとは更正処分通知(Final Order)等を発行する税務当局を指しますが、Appellate AuthorityやAppellate Tribunalは含みません(CGST法第2条4項)。
税務調査の流れはこちらをご参照ください。
コミッショナーアピール:Appellate Authority
Adjudicating Authorityから発行された更正処分通知(Final Order)に不服がある場合は、更正処分通知(Final Order)の発行日から3か月以内に、Appellate Authorityにコミッショナーアピールとして訴えることができます(同法第107条1項)。また、 Appellate Authorityは3ヶ月内に訴えを提出することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で1ヶ月の期間内に訴えを提出することを許可することができます(同法第107条4項)。この訴えはGST APL-01という様式にて関連書類と併せてオンライン提出します(CGST法細則第108条1項)。なおこの訴訟に関して納税者が不服申し立てをしている納税額の10%(最大2億ルピー)を払う必要がありますが(CGST法第107条6項)、この金額は納税者の訴えが認められた際には利息額とともに納税者に返金されます。Appellate Authorityは可能な場合すべての訴えをそれが提起された日から1年以内に審理し、決定しなければいけません(CGST法第107条13項)。
Appellate Authorityは必要な追加調査を行った後,納税者に発行された更正処分通知を支持、変更、取り消す決定をしますが、Adjudicating Authorityに本件を差し戻すことはできません。また納税者に説明の機会を与えた後であれば、更正処分通知で要求されている以上のペナルティーや罰金をAppellate Authorityが納税者に課すこともできます(CGST法第107条11項)。
不服申立:税務審判所(Appellate Tribunal)
Appellate Authorityの下した決定に不服がある場合は、決定から3か月以内に、税務審判所(Appellate Tribunal)に不服申立を申請することができます(同法第112条1項)。Appellate Tribunalは準司法機関という立場であり、日本の国税不服審判所に該当します。また、 Appellate Tribunalは3ヶ月内に不服申立を申請することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で3ヶ月の期間内に不服申立を申請することを許可することができます(同法第112条6項)。ただ、Appellate Tribunalは自らの裁量で5万ルピーを超えない案件の不服申立は却下することが出来ます(同法第112条2項)。この訴えはGST APL-05という様式にて関連書類と併せてオンライン提出します(CGST法細則第110条1項)。なお納税者が不服申し立てをしている納税額の10%(最大2億ルピー)を上述のAppellate Authorityに支払う10%とは別に、払う必要がありますが(CGST法第112条8項)、この金額は納税者の訴えが認められた際には利息額とともに納税者に返金されます。
Appellate Tribunalに不服申立を提出した被告側は、その知らせから45日以内に反対意見の覚書(Memorandum of Cross-objections)を提出することが出来ます(CGST法第112条5項)。また、 Appellate Tribunalは45日以内に反対意見の覚書を提出することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で45日以内の期間内に反対意見の覚書を提出することを許可することができます(同法第112条6項)。
Appellate Tribunalは当事者に聴聞の機会を与えた後、 不服申立が提出された決定を支持、変更、取消す決定を下すか、適当と考える指示を付してAdjudicating AuthorityやAppellate Authority等に案件を差し戻し、 必要であれば、追加の証拠を集めた上で 再度の裁決を行うことができます(同法第113条1項)。Appellate Tribunalは可能な場合すべての訴えをそれが提起された日から1年以内に審理し、決定しなければいけません(CGST法第113条4項)。
取消訴訟:高等裁判所(High Court)
Appellate Tribunalの下した決定に不服がある場合は、判決から180日以内に高等裁判所に取消訴訟を起こすことができます(同法第117条1項)。なお高等裁判所は当該期間内に取消訴訟を提起しなかったことについて十分な理由があると認めるときは、当該期間の経過後であっても取消訴訟を受理することができます。この訴えはGST APL-08という様式をオンライン上で提出します(CGST法細則第114条1項)。
なお、事実認定を争うことができる税務審判所(Appellate Tribunal)への不服申立までとは異なり税法上の解釈の問題(Question of Law)に値しないとみなされる案件の場合には高等裁判所への取消訴訟は却下されます(CGST法第117条1項)。高等裁判所は税法上の解釈の問題(Question of Law)を定形化したうえで議論し、判決を下します(CGST法第117条3,4項)。
控訴可能な係争金額の金額制限
インドの司法は数多くの訴訟案件を抱えており、常にパンク状態にあると言われております。そこで司法資源の活用を最適化し、係争の解決を迅速化するためCGST法第120条に関して間接税・関税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes and Customs - CBIC)は2024年6月26日付でCircular No. 207/1/2024-GSTは発行し、控訴等が可能な係争金額の下限を下記の通り設定しました。
係争金額の下限 | |
税務審判所(Appellate Tribunal) | 200万ルピー |
高等裁判所(High Court) | 1,000万ルピー |
最高裁判所(Supreme Court) | 2,000万ルピー |
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |