GST当局による税務調査の際に納税不足額等が判明すると、利息及びペナルティーを含めてそのGST不足額の支払いを求める更正通知が納税者に発行されます。この更正通知の内容に不服がある場合は、納税者は訴訟の場でそれらを解決していくことになります。
インドのGST法は以下の通りの段階的な訴訟手続きを用意しており、4審制をとっていると言えます。なお、2023年11月現在では、第2審に該当するAppellate TribunalはCGST法上では規定されているものの、未設置です。
名称 | 参照条文 | |
税務調査 | Adjudicating Authority | CGST法第73,74条 |
第1審 | Appellate Authority | 同法第107条 |
第2審 | Appellate Tribunal | 同法第112条 |
第3審 | 高等裁判所(High Court) | 同法第117条 |
第4審 | 最高裁判所(Supreme Court) | 同法第118条 |
税務調査:Adjudicating Authority
GST税務当局が納税者のGST申告に対して納税額不足等のGSTコンプライアンス違反があると判断した際には、GST当局から税務通知が納税者に発行されます。この段階でGST税務当局によるGST監査が行われる場合もあります。本税務調査を通してGST税務当局が納税者の説明に納得した場合には更正通知は発行されませんが、納税者の説明に納得しない場合や納税額不足額等がある場合には、更正通知が発行されます。なお、Adjudicating Authorityとは更正通知等を発行する税務当局を指しますが、Appellate AuthorityやAppellate Tribunalは含みません(CGST法第2条4項)。
税務調査の流れはこちらをご参照ください。
第1審:Appellate Authority
Adjudicating Authorityから発行された更正通知に不服がある場合は、更正通知の発行日から3か月以内に、Appellate Authorityに訴えることができます(同法第107条1項)。また、 Appellate Authorityは3ヶ月内に訴えを提出することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で1ヶ月の期間内に訴えを提出することを許可することができます(同法第107条4項)。この訴えはGST APL-01という様式にて関連書類と併せてオンライン提出します(CGST法細則第108条1項)。なおこの訴訟に関して納税者が不服申し立てをしている納税額の10%(最大2億5千万ルピー)を払う必要がありますが(CGST法第107条6項)、この金額は納税者の訴えが認められた際には利息額とともに納税者に返金されます。Appellate Authorityは可能な場合すべての訴えをそれが提起された日から1年以内に審理し、決定しなければいけません(CGST法第107条13項)。
Appellate Authorityは必要な追加調査を行った後,納税者に発行された更正通知を支持、変更、取り消す決定をしますが、Adjudicating Authorityに本件を差し戻すことはできません。また納税者に説明の機会を与えた後であれば、更正通知で要求されている以上のペナルティーや罰金をAppellate Authorityが納税者に課すこともできます(CGST法第107条11項)。
第2審:Appellate Tribunal
Appellate Authorityの下した判決に不服がある場合は、判決から3か月以内に、Appellate Tribunalに上訴手続きをとることができます(同法第112条1項)。また、 Appellate Tribunalは3ヶ月内に訴えを提出することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で3ヶ月の期間内に訴えを提出することを許可することができます(同法第112条6項)。ただ、Appellate Tribunalは自らの裁量で5万ルピーを超えない案件の上訴申請は却下することが出来ます(同法第112条2項)。この訴えはGST APL-05という様式にて関連書類と併せてオンライン提出します(CGST法細則第110条1項)。なおこの訴訟に関して納税者が不服申し立てをしている納税額の20%(最大5億ルピー)を上述のAppellate Authorityに支払う10%とは別に、払う必要がありますが(CGST法第112条8項)、この金額は納税者の訴えが認められた際には利息額とともに納税者に返金されます。
Appellate Tribunalに上訴手続きされた被告側は、その知らせから45日以内に反対意見の覚書(Memorandum of Cross-objections)を提出することが出来ます(CGST法第112条5項)。また、 Appellate Tribunalは45日以内に反対意見の覚書を提出することが十分な理由によって妨げられたと納得した場合、さらに追加で45日以内の期間内に反対意見の覚書を提出することを許可することができます(同法第112条6項)。
Appellate Tribunalは当事者に聴聞の機会を与えた後、 上訴された判決を支持、変更、取消す決定を下すか、適当と考える指示を付してAdjudicating AuthorityやAppellate Authority等に案件を差し戻し、 必要であれば、追加の証拠を集めた上で 再度の裁決を行うことができます(同法第113条1項)。Appellate Tribunalは可能な場合すべての訴えをそれが提起された日から1年以内に審理し、決定しなければいけません(CGST法第113条4項)。
第3審:高等裁判所(High Court)
Appellate Tribunalの下した判決に不服がある場合は、判決から180日以内に高等裁判所に上訴手続きをとることができます(同法第117条1項)。なお高等裁判所は当該期間内に上訴を提出しなかったことについて十分な理由があると認めるときは、当該期間の経過後であっても上訴を受理することができます。この訴えはGST APL-08という様式をオンライン上で提出します(CGST法細則第114条1項)。
なお、第2審までとは異なり税法上の解釈の問題(Question of Law)に値しないとみなされる案件の場合には高等裁判所への上訴は却下されます(CGST法第117条1項)。高等裁判所は税法上の解釈の問題(Question of Law)を定形化したうえで議論し、判決を下します(CGST法第117条3,4項)。
執筆・監修
![]() |
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
![]() |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |