GSTR-1のRは”Return”を指し、”Return”とは納税申告書を意味し、税務申告はFiling of Returnsと呼ばれますが税務申告はGSTのコンプライアンスの根幹をなし、最も重要なコンプライアンス手続きと言えます。GSTは申告納税方式(Self-Assessment)の税金であり、GST登録者の行った各税務申告の内容に基づいて、GST当局はGST登録者の経済活動や納税額を把握できるようになるためです。逆に言えば、適切に税務申告が行われていない場合は、税務調査の対象になり結果として更正処分を受けてしまうことになりかねません。
GSTR-1とは
様式GSTR-1とは、物品・サービス供給を行うすべてのGST登録者がGSTポータルから電子申告する必要のある供給明細書であり、売上供給の詳細を申告する際に使用する税務申告書です(CGST法第37条、CGST法細則第59条)。
なお、下記のGST登録者はGSTR-1の申告は求められていません。
- Input Service Distributor(CGST法第2条61項参照)
- 非居住納税者(Non-Resident Taxable Person)(CGST法第2条77項参照)
- 簡易課税制度(Composition levy Scheme)を採用する者(CGST法第10条参照)
- TDS徴収義務者(CGST法第51項参照)
- TCS徴収義務者(CGST法第52 項参照)
- インド国外のオンライン情報データアクセス・読み込み(Online Information Data Base Access and Retrieval - OIDAR)サービス提供者(IGST法第14条参照)
GSTR-1の申告期日
QRMPスキームを適用している納税者を除き、GSTR-1の申告期日は翌月の11日です(Notification No. 83/2020–Central Tax)。また、GST登録者は該当月の物品・サービス供給、リバースチャージ方式での納税が求められる仕入れ、過去月のGSTR-1の修正等のいずれが無い場合であっても、Nil申告としてGSTR-1の申告が求められますが、Nil申告ではモバイル端末でOTP(One Time Password)認証する簡便的な方法での申告が可能となっています(CGST法細則第67A条)。
なお、下記の場合には、当月のGSTR-1の申告はできません(CGST法第37条4項、CGST法細則第59条6項)。
- 前月までのGSTR-1が申告されていない場合
- 前月までのGSTR-3Bが申告されていない場合
- 前月までの申告に関してDRC-01Bが発行され、DRC-01Bに記載の納税額を未納税である又は未納税の理由を提出していない場合
- 前月までの申告に関してDRC-01Cが発行され、DRC-01Cに記載の仕入税額控除(Input Tax Credit- ITC)の差分を未納税である又は未納税の理由を提出していない場合
- GSTR登録後に銀行口座の詳細を提出していない場合
GSTR-1での申告内容
各供給が「GST登録者に対する供給(B2B供給)なのか、GST未登録者に対する供給(B2C供給)なのか」でGSTR-1で申告する内容の粒度が異なります。前者の場合は受領者が各供給に係る仕入税額控除(Input Tax Credit- ITC)を利用できる一方で、後者の場合は仕入税額控除(Input Tax Credit- ITC)が利用されることはないためです。
また、各供給が「州またぎの供給(Inter-State supply)なのか、同一州内供給(Intra-State supply)なのか」によってもGSTR-1で申告する内容の粒度が異なります。GSTは消費地課税主義・仕向地課税主義であり、取引が行われた州に税収が移転していく仕組みであるため、GSTR-1申告で申告される各物品・サービス供給の供給地(Place of Supply)の情報が重要となるためです。
GSTR-1では下記の内容を申告する必要があります(CGST法細則第59条4項)。
(a) 以下のすべての請求書ごとの粒度での詳細
- GST登録者に対する州またぎの供給(Inter-State supply)及び 同一州内供給(Intra-State supply)
- GST未登録者に対する請求書価格が10万ルピーを超える州またぎの供給(Inter-State supply)
(b) 以下のすべての詳細(請求書ごとの粒度での詳細は求められず、統合版で可)
- 各税率ごとのGST未登録者に対する同一州内供給(Intra-State supply)
- 各税率ごとのGST未登録者に対して行われた州ごとの請求書価額が10万 ルピーまでの州またぎの供給(Inter-State supply)
(c) 過去に発行された請求書に対して当月に発行されたDebit Note又はCredit Note
上記の(a)(b)をまとめると下記の表の通りとなります。
GST登録者への供給(B2B) | 州またぎの供給 | 請求書ごとの申告 |
同一州内供給 | 請求書ごとの申告 | |
GST未登録者への供給(B2C) | 州またぎの供給 |
|
同一州内供給 | 統合版での申告 |
GSTR-1申告の遅延に関する遅延金
GSTR-1の申告が遅延する場合には以下の遅延金(Late Fee)が日単位で課されます(CGST法第47条、 No. 4/2018 & No. 20/2021 – Central Tax)。
Nil申告以外の場合(2021年6月以降)
遅延金/日 |
最大遅延金額 (過年度の年間売上:~1,500万ルピー) |
最大遅延金額 (過年度の年間売上:1,500万~5000万ルピー) |
最大遅延金額 (過年度の年間売上:5,000万ルピー~) |
|
CGST法 | 25ルピー | 1,000ルピー | 2,500ルピー | 5,000ルピー |
各州SGST法 | 25ルピー | 1,000ルピー | 2,500ルピー | 5,000ルピー |
合計 | 50ルピー | 2,000ルピー | 5,000ルピー | 10,000ルピー |
Nil申告の場合(2021年6月以降)
遅延金/日 | 最大遅延金額 | |
CGST法 | 10ルピー | 250ルピー |
各州SGST法 | 10ルピー | 250ルピー |
合計 | 20ルピー | 500ルピー |
GSTR-1Aでの申告内容の修正
2024年7月から様式GSTR-1Aの使用が可能となり、GSTR-1を申告してからGSTR-3Bの申告期日(翌月の20日)までの間に当該GSTR-1で申告した内容を修正することができます(CGST法細則第59条1項但し書き)。GSTR-1Aでは申告した月の物品・サービスの供給項目の修正や加筆が行えますが、GSTR-1A申告は必須ではなく、GST登録者の任意で申告することになります。一方で当月以前の過去のGSTR-1の申告内容は修正できずに、修正対象のGSTR-1はGSTR-3Bが申告されていないGSTR-1のみです。
GSTR-1A申告が実装されるまでは、供給者が一度申告したGSTR-1を修正したい場合は翌月のGSTR-1申告期日まで待つ必要がありましたが、GSTR-1A申告機能を使用することで供給者は同月にGSTR-1申告内容を修正することが可能になりました。なお、GSTR-1A申告機能実装後であっても、GSTR-1の内容をGSTR-3B期日後に修正したい場合は、翌月以降のGSTR-1申告で修正することになります。修正期間は翌年度の11月末又はGST年次申告の申告日のいずれか早い日までです(CGST法第37条3項)。
このGSTR-1A申告機能の実装によって、供給者の物品・サービス供給の申告を起点に、受領者のGSTR-3Bでの月次申告までがよりスムーズに実現されることが期待されます。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |