多国籍企業の電子商取引に対するデジタル課税は直接税の文脈で語られることが多いですが、インドの間接税であるGST法もクロスボーダーのデジタル取引を規定しており、外国法人がインターネットを介して物理的な拠点なしにオンラインでインド国内の顧客に提供するサービス(デジタル取引)は、GSTの課税対象となります。
Google、Facebook、Amazonなどの多国籍企業(インド外国法人)がインド国内で行うデジタル取引に対して、国内の同種の取引に対するのと同様にGSTを課すことでインド国内産業との課税の公平性を確保することが意図されています。
OIDARサービスとは
インド外国法人の行うデジタル取引は、GST法下ではオンライン情報データアクセス・読み込み(Online Information Database Access and Retrieval - OIDAR)サービスという名称のもと規定されています。OIDARサービスとはインターネットまたは電子的ネットワークなどの情報技術を通じて提供されるサービスで、情報技術なしには裏付けられないサービスである、と定義されており、下記の電子サービスが含まれます(IGST法第2条17項)。
- インターネット上の広告
- クラウドサービスの提供
- 電子書籍、映像、音楽、ソフトウェアその他の無形資産の電気通信ネットワーク又はインターネットによる提供
- コンピュータネットワークを通じた電子的形態による検索・読み込み可能なデータ又は情報の提供
- デジタルコンテンツ(映画、テレビ番組、音楽等)のオンライン上の提供
- デジタルデータの保存
- オンラインゲーム
そしてインド国外から提供されるOIDAR サービスについては、当サービスの受領者がインド国内にいる場合には、サービスの提供される場所(Place of Supply)は、当該サービスの受領者の所在するインド国内とみなされ(IGST法第13条12項)、当サービス提供取引は GST の課税対象となります(IGST法第2条11項、5条、7条4項)。
インド国外から提供されるOIDARサービスのGST徴収方法
インド国外から提供されるOIDARサービスは、サービス提供者がインド外国法人になるためGSTの課税及び徴収方法が、一般的な国内取引に対するGSTの課税及び徴収方法とは異なります。つまり、GST課税域外に所在するインド国外法人等からGST課税域内のGST登録者(=GST課税域内のNon-taxable Online Recipient以外の者)に提供されるOIDARサービスに対しては、リバースチャージ方式(Reverse Charge Mechanism - RCM)にて18%等のGSTが納税されます(IGST法第2条16項、第5条3項、Notification No. 10/2017- Integrated Tax (Rate)の1)。リバースチャージ方式を採用することで、インド外国法人が自らGSTを納税する必要がないため、GST税務当局としてもより確実にGSTを徴収することが望めます。
一方で、GST課税域外に所在するインド外国法人等からGST課税域に所在する個人等のGST未登録者(Non-taxable Online Recipient)に提供されるOIDARサービスに対しては、インド外国法人自身にGSTの徴収及び納税義務が課されます(IGST法第14条、第2条16項)。Google、Facebook、Amazonなどの多国籍企業(インド外国法人)がインドの個人にOIDARサービスを提供する場合がこれに該当します。
個人等のGST未登録者(サービス受領者)に対してインド外国法人等に代わってリバースチャージ方式でGST納付を義務付ける運用は現実的ではないため、インド外国法人等自身にインド国外からGSTを納税させる設計となっています。
OIDARサービス提供するインド外国法人等は、GST未登録のインド国内消費者への販売価格に18%等のGST分を上乗せしてGSTを徴収した上で、インド税務当局に納税することになります。さらに、当該インド外国法人等には様式GST REG-10にてGST登録が求められています(CGST法第24条、CGST法細則14条)。インド外国法人等の便宜を図るために登録窓口はベンガルール西中央税務署長に一元化されています。なお、当該インド外国法人等は、インド国内に物理的拠点や代表者を有していない場合には、インド国内にいる者を納税代理人に指名することもできます(IGST法第14条2項)。
加えて、当該インド外国法人等はGST未登録のインド国内消費者にOIDARサービスを提供した翌月の20日までに徴収したGSTを納税した上で、様式GSTR-5AにてOIDARサービスの詳細を申告する必要があります(CGST法細則第64条)。
なお、インド国内の供給者からインド国内の受領者に供給されるOIDARサービスは、通常のフォーワードチャージ方式(Forward Charge Mechanism - FCM)でGSTが納税されます(CGST法第9条1項)。
仲介者を介してインド国外から提供されるOIDARサービス
インド外国法人等がGST課税域に所在する個人等のGST未登録者にOIDARサービスを提供する際に、実務上はインド国外に所在するプラットフォーム事業者等の仲介者を介してOIDARサービスを行う場合もあります。この場合には、下記4つのすべての条件を満たさない限りは、仲介者自身にインドのGST未登録者(サービス受領者)からGSTを徴収し納税する義務が課されます(IGST法第14条1項ただし書き)。
- 仲介者が発行する請求書等又は領収書に当該サービス取引が特定されかつOIDARサービス提供者が国外にいる
- 仲介者は料金請求に関して承認も関与もしない。すなわち仲介者は取引の料金を徴収することも支払いを処理することもせず、サービス受領者と提供者の間に支払いに何ら責任を負わない
- 仲介者はサービスの提供を承認する立場にない
- サービスの提供に係る一般的な条件は、仲介者でなくサービスの提供者が定める
つまり、インド国外のプラットフォーム事業者がOIDARサービス取引のために単にデジタルスペースを提供する場合には、GSTの徴収・納税義務は課されることはありませんが、OIDAR サービス取引の提供や料金の支払いについて一定の関与がある場合には、プラットフォーム事業者自身がGSTの徴収・納税義務を全面的に負うことになります。この規定によりGST税務当局はGST税収の確保のためにプラットフォーム事業者を対象にするだけでよく効率的なGST徴収が望めます。
OIDARサービス一覧
OIDARサービスに該当する具体的なサービスとして下記の26つが規定されています。
①ウェブサイトの提供、ウェブホスティング、プログラムおよび機器の遠隔保守
- ウェブサイトのホスティング及びウェブページのホスティング
- プログラムの自動化、オンライン化、遠隔保守
- 遠隔システム管理
- 特定のデータを電子的に保存し検索するオンラインデータウェアハウス
- オンデマンドのディスク容量のオンライン供給
②ソフトウェアの提供およびその更新
- ソフトウェア(仕入/会計プログラムおよびウイルス対策ソフトウェアを含む)へのアクセスまたはダウンロードおよびその更新
- バナー広告の表示をブロックするソフトウェア(バナーブロッカー)
- 周辺機器(プリンターなど)とコンピュータを接続するソフトウェアなどのドライバーのダウンロード
- ウェブサイトへのフィルターのオンライン自動インストール
- ファイアウォールのオンライン自動インストール
③画像、テキスト、情報の提供およびデータベースの利用
- デスクトップテーマへのアクセスまたはダウンロード
- 写真や画像、スクリーンセーバーへのアクセスやダウンロード
- 書籍その他の電子出版物のデジタル化されたコンテンツ
- オンラインの新聞および雑誌の購読
- ウェブログおよびウェブサイトの統計
- オンラインニュース、交通情報、天気予報
- 法律や金融データ(特に、リアルタイムで継続的に更新される株式市場データなど)などの顧客が入力した特定のデータからソフトウェアによって自動的に生成されるオンライン情報
- ウェブサイト/ウェブページ上のバナー広告を含む広告スペースの提供
- 検索エンジンおよびインターネットディレクトリの利用
④音楽、映画、ゲーム(チャンスゲーム、ギャンブルゲームを含む)、政治、文化、芸術、スポーツ、科学、娯楽放送およびイベントの提供
- コンピュータ及び携帯電話への音楽のアクセス又はダウンロード
- ジングル、抜粋、着信音、その他のサウンドへのアクセスまたはダウンロード
- 映画へのアクセスまたはダウンロード
- コンピュータおよび携帯電話へのゲームのダウンロード
- プレーヤーが互いに地理的に離れているインターネットまたはその他の類似の電子ネットワークに依存する自動オンラインゲームへのアクセス
⑤遠隔教育の提供
- インターネットまたは類似の電子ネットワークに依存して機能する、自動化された遠隔教育であって、インターネットまたは類似の電子ネットワークが単に教師と生徒間のコミュニケーションのためのツールとして使用される場合を除き、バーチャルクラスルームを含む、限定された、または全く人間の介在を必要としないもの
- オンライン上で生徒が記入し、人手を介さずに自動的に採点されるワークブック
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |