税務調査の種類
納税者は会計年度ごとに自己申告(Self Assessment)形式で納税手続きを行い、所得税申告書(Income Tax Return - ITR)を通して所得税申告を行います。インド所得税当局(Income Tax Department)はその申告内容の審査を行いますがこの審査は「Assessment」と呼ばれます。「Ⅰ自己申告(Self Assessment)」及び4種類の「Ⅱインド所得税当局の行う審査(Assessment)」は以下の通りです。
自己申告(Self Assessment)
インド所得税法第139条は法人及び個人に所得税申告書(Income Tax Return - ITR)での所得税申告を求めており、同法第140A条は納税額がある場合には自己申告(Self Assessment)形式にて期日以内の納税を求めています。所得税申告の様式(Form)は納税主体や所得の種類によって分かれており、毎年最新の様式(Form)が発表されます。
個人 | 法人 | |
対象 | 課税所得金額が非課税枠を超えるすべての個人 | すべての法人 |
課税対象期間 | 4月1日から3月31日 | 4月1日から3月31日 |
所得税申告期日 | 対象年度の翌年7月31日 |
対象年度の翌年10月31日 (移転価格対象企業は11月末) |
インド所得税当局の行う審査(Assessment)
インド所得税当局は所得税申告にて提出された申告内容を基に審査を行います。必要に応じて通告(Intimation)や調査通知(Notice)を納税者に送付します。以下の手続きのうち、ii.精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)、iii.再調査(Re-Assessment)、iv.ベストジャッジメント(Best Judgement)の3種類の審査については非対面型(Faceless Assessment)の税務調査となっています(インド所得税法第144B条1項)。非対面型の税務調査では国家非対面調査センター(National Faceless Assessment Center -NFAC)が納税者とのコミュニケーション窓口として機能します。
i. 通常の税務調査(Summary Assessment)
【概要】インド所得税法第143条1項の定める通常の税務調査(Summary Assessment)は最も一般的な税務調査である一方で、予備的な調査の意味合いがあります。税務調査の通知を受け取ったというケースの大半がこの税務調査に関する通告です。主に以下のような場合、税務当局は当税務調査の通告を納税者に発行します(インド所得税法第143条1項)。
- 所得税申告書の記載方法が誤っている場合
- 利用できない税額控除を利用している場合
- その他の税務データ(Form16,Form16A,Form26ASなど)と所得税申告内容が不一致の場合等
この税務調査では当局の担当官が介入することは無く、当局の中央処理センター(Centralised Processing Centre -CPC)が自動的に処理します。インドでは所得税申告等の税務申告の自動化が進められており、納税者は納税者番号(Permanent Account Number - PAN)に基づき補足されます。そのため所得税申告情報がその他の税務データと整合が取れているかの確認等が自動的に行われ、整合がとれていない場合には納税者に自動的に通告が発行されます。
【手続きの流れ】所得税申告内容が誤っている可能性がある場合には、正しい課税所得に基づいた納税額及び利息額に関し、納税者に書面または電子的な方法にて通告(intimation)が発行されます。当通告が発行されることなく納税額の調整等が行われることはありません。ただ通告が発行されてから30日以内に納税者が適切に回答を行わない場合には納税額の調整等が行われます。
納税者が通告に異議がない場合には、所得税ポータルより所得税申告を修正します。一方で通告に異議がある場合には所得税法第154条に基づき、所得税ポータルより不服の申し立てを行います。
【期間】通告は該当所得税申告が提出された会計年度の最終日より9か月以内に納税者に発行されます(インド所得税法第143条1項但し書き)。また、この通告は督促状(Notice of Demand)と見なされます(インド所得税法第156条1項但し書き)。
近年税務調査にかかる期間が短縮される傾向にあり、以前までは税務調査の完了までに約2年かかっていたことを考慮するとインドのビジネス環境は向上していると言えます。
ii. 精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)
【概要】インド所得税法第143条3項の定める精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)は税務当局の担当官が下記の可能性を調査することが必要であるまたは適切であると判断した場合に行われる税務調査です。
- 納税者が所得を過小申告している
- 納税者が過大な損失を計上している
- 税金支払額が過少である
納税者の所得税申告内容が正しいのか確認するために、担当官は所得税申告書(Income Tax Return - ITR)の詳細な精査を行います。CPCが自動的に処理していた通常の税務調査(Summary Assessment)とは異なり、当税務調査はNFACの介入がある点が特徴です。
【手続きの流れ】担当官が精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)が必要であると判断した場合には、NFACが通知(notice)を発行します。当通知に記載された内容に基づき、納税者は必要書類の提出を所得税ポータルサイトを通じて行います。納税者からの回答や情報提供を考慮した上で、担当官は更正通知(Order of Assessment)を発行し、追加納税額または還付額が確定されます。
【期間】通知(notice)は該当所得税申告が提出された会計年度の最終日より3月以内に納税者に発行されます(インド所得税法第143条2項但し書き)。
また精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)の更正通知(Order of Assessment)及び督促状(Notice of Demand)は所得税申告が提出された会計年度の最終日より12か月以内に発行されます(インド所得税法第153条1項但し書き、156条1項)。ただ税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合はこの期間がさらに12か月延長されます(インド所得税法第153条4項)。
iii. 再調査(Re-Assessment)
【概要】上述の2つのインド所得税法第143条の定める税務調査期限が過ぎた後にでも、担当官は納税者側に税務調査から逃れた課税されるべき所得があると判断した場合には再調査(Re-Assessment)という形で税務調査を行うことが可能です(所得税法第147条)。再調査(Re-Assessment)という名称には既に行なわれていた税務調査が再開するようなニュアンスがありますが、インド所得税法第143条での通告/調査通知の発行期日後に行われる税務調査を再調査(Re-Assessment)と呼びます。
納税者に課税を免れた所得があると示唆する情報を担当官が得ており、かつ所得税法第151条の定める特定の機関(Specified authority)から担当官が承認を得ることで、納税者に調査通知が発行されます(所得税法第148条)。
【手続きの流れ】担当官が再調査(Re-Assessment)が必要であると判断した場合には、NFACが通知(notice)を発行します。当通知に記載された内容に基づき、納税者は必要書類の提出を所得税ポータルサイトを通じて行います。NFACは納税者側からの回答に基づき必要に応じて、追加の情報提供を求めます。更正通知(Order of Assessment)を発行し、追加納税額または還付額が確定されます。
【期間】通知は該当所得税申告が提出された会計年度の最終日よりか3年3か月以内に納税者に発行されます。また課税から逃れた所得が500万ルピーを超える場合にはこの期間が5年3か月まで延長されます(インド所得税法第149条)。
また再調査(Re-Assessment)の更正通知(Order of Assessment)及び督促状(Notice of Demand)は当該通知が出された会計年度の最終日より12か月以内に発行されます。(インド所得税法第153条2項但し書き、156条1項)。ただ税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合はこの期間がさらに12か月延長されます(インド所得税法第153条4項)。
iv. ベストジャッジメント(Best Judgement)
【概要】担当官が納税者から課税所得の計算に関して適切な情報を受領できない場合を想定し、所得税法第144条は担当官の裁量で納税額を決定できる旨を規定しています。当規定はベストジャッジメント(Best Judgement)と呼ばれ、インドでは税務調査の1種類としてみなされます。
下記のような場合にはベストジャッジメント(Best Judgement)が行われます。
- 納税者が所得税申告を期日通りに行わず、所得税申告の遅延申告や所得税申告の修正申告にも違反する場合
- 所得税申告を行うよう担当官から指示があったにもかかわらず、納税者が回答を怠った場合
- 精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)の通知が発行されたにもかかわらず、納税者側が回答を怠った場合や回答が不十分であった場合
【手続きの流れ】ベストジャッジメント(Best Judgement)を行う前に担当官は情報開示を求める通知(Show Cause Notice)を納税者に発行し、納税者に聴聞の機会を与えます。その後担当官が収集したすべての関連資料を考慮した上で、担当官の自らの判断で課税所得を計算し更正通知(Order of Assessment)を通して納税額を納税者に指示します。
【期間】ベストジャッジメント(Best Judgement)での更正通知(Order of Assessment)及び督促状(Notice of Demand)は所得税申告が提出された会計年度の最終日より12か月以内までに発行されます(インド所得税法第153条1項但し書き、156条1項)。ただ税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合はこの期間がさらに12か月延長されます(インド所得税法第153条4項)。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |