インド所得税当局の実施するインド所得税法の税務調査にて、納税者の会計帳簿等を調査後に当局が納税者に所得税の未払い額等があると判断した場合には、更正処分通知(Order of Assessment)が発行されます。近年、非対面型(Faceless Assessment)の税務調査も導入され税務調査の迅速化が図られていることに伴い、更正処分通知の発行期日も短縮されている傾向にありますが、インド所得税当局は何年分まで遡って更正処分通知を発行できるのでしょうか?
更正処分通知の発行期日
下記の各税務調査を経て発行される更正処分通知(Order of Assessment)は確定申告が提出された会計年度の最終日より12か月以内までに発行される必要があると規定されています(所得税法第153条1項)。
税務調査 | 参照条文 |
精緻な税務調査(Scrutiny Assessment) | 所得税法第143条3項 |
ベストジャッジメント(Best Judgement) | 所得税法第144条 |
ただ、FY2016-17以前までは確定申告が提出された会計年度の最終日より21か月以内に発行されると規定されており、発行期日は下記の通り大きな傾向としては短縮されてきた変遷があります。この短縮は納税者の視点から考えると追加徴収されることによる経営の不確実性や税務調査の対応期間やコストの軽減に繋がるため望ましい傾向と言えます。
会計年度 | 更正処分通知の発行期日 |
FY2016-17以前 |
確定申告が提出される会計年度の最終日より21か月以内(2019年12月31日以前) |
FY2017-18 | 確定申告が提出される会計年度の最終日より18か月以内(2020年9月30日) |
FY2018-19 | 確定申告が提出される会計年度の最終日より12か月以内(2021年3月31日) |
FY2019-20 | 確定申告が提出される会計年度の最終日より18か月以内(2022年9月30日) |
FY2020-21 | 確定申告が提出される会計年度の最終日より9か月以内(2022年12月31日) |
FY2021-22以降 | 確定申告が提出される会計年度の最終日より12か月以内(2024年3月31日以降) |
なお、税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合は、この期間がさらに12か月延長されます(インド所得税法第153条4項)。
さらに、所得税法139条8A項の規定する更新申告(Updated Return)にて、過少申告であった所得を更新申告した場合には、申告が提出される会計年度の最終日より12か月以内が更正処分通知の発行期日になります(所得税法第153条1A項)。
再調査(Re-Assessment)の場合の更正処分通知の発行期日
所得税法147条の規定する再調査(Re-Assessment)の場合の更正処分通知(Order of Assessment)は、上述の税務調査とは異なり、再調査の調査通知(Notice)が出された会計年度の最終日より12か月以内に発行されます。(所得税法第153条2項但し書き)。なお、2024年9月以降、調査通知(Notice)は該当確定申告が提出された会計年度の最終日よりか3年3か月以内に納税者に発行されますが、課税から逃れた所得が500万ルピーを超える場合には3年3か月が5年3か月まで延長されます(所得税法第149条1項)。
例えば、FY2024-25に関する再調査で課税逃れの所得が500万ルピーを超えない場合、再調査の調査通知(Notice)は2029年6月30日までは発行される可能性があり、更正処分通知は2031年3月31日までは発行することができる規定となっています。
税務通知の実際の発行期日
各会計年度ごとに各種税務通知の発行期日をまとめた一覧表は下記の通りです。
<税務調査の開始通知の発行期日>
該当年度 | 143条1項 Intimation*1 | 143条2項 Notice*2 | 148条 SCN*3 |
FY2022-23 | 2024年12月31日 | 2024年6月30日 |
2027年3月31日 2029年3月31日*4 |
FY2023-24 | 2025年12月31日 | 2025年6月30日 |
2028年3月31日 2030年3月31日 |
FY2024-25 | 2026年12月31日 | 2026年6月30日 |
2029年3月31日 2031年3月31日 |
FY2025-26 | 2027年12月31日 | 2027年6月30日 |
2030年3月31日 2032年3月31日 |
*1 : 略式の税務調査(Summary Assessment) / *2 : 精緻な税務調査(Scrutiny Assessment) / *3 : 再調査(Re-Assessment)
*4: 課税回避が疑われる所得が5百万ルピー以上の場合
<更正処分通知等の発行期日>
該当年度 | 143条1項 Intimation*1 | 143条3項 Order*2 | 148条 Order*3 |
FY2022-23 | NA*4 |
2025年3月31日 2026年3月31日*5 |
2029年3月31日 2031年3月31日*6 |
FY2023-24 | NA |
2026年3月31日 2027年3月31日 |
2030年3月31日 2032年3月31日 |
FY2024-25 | NA |
2027年3月31日 2028年3月31日 |
2031年3月31日 2033年3月31日 |
FY2025-26 | NA |
2028年3月31日 2029年3月31日 |
2032年3月31日 2034年3月31日 |
*1 : 略式の税務調査(Summary Assessment) / *2 : 精緻な税務調査(Scrutiny Assessment) / *3 : 再調査(Re-Assessment)
*4 : 納税通告(Intimation)自体が、追徴課税通知(Notice of Demand)とみなされるため、Intimationが発行されてから30日以内に納税者が適切に回答を行わない場合には納税額の調整等が行われる
*5: 税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合
*6: 課税回避が疑われる所得が5百万ルピー以上の場合
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |