納入業者が保有する物品を納入業者から顧客に直接輸送するのが一般的な物品提供取引です。しかし納入業者(商社等)が注文された商品の在庫を持っていない場合、または納入業者がまず自分のところで商品を入手し、それから顧客のところへ輸送することが経済的合理性が低い場合には、納入業者は在庫を保有する第三者に依頼し、物品を納入業者の顧客に直接届けてもらうような取引が行われることがあります。この取引では請求書(Bill to)は第三者から納入業者に発行される一方で、物品は第三者から納入業者の顧客に届けられる(Ship to)ことになり請求書と物品の流れが一致しない取引となります。このように請求書と物品の流れが一致しない取引をインドのGSTではBill to-Ship to取引と呼びます。
インドのGSTは日本の消費税法と同様で消費地課税主義・仕向地課税主義を採用しており、物品・サービスの供給地(Place of Supply)の決定はGSTの課税性の判断の際に重要な前提となります。Bill to-Ship to取引の場合には、どのように物品・サービスの供給場所を決定し、どの納税者が仕入税額控除を使用することができるのでしょうか?
Bill to-Ship to取引
上図の通り、ハリヤーナ州に所在する納入業者Bがタミルナドゥ州に所在する顧客の受領者Cに物品を提供する際に、納入業者Bはカルナータカ州の供給者Aに指示して物品を供給者Aから受領者Cに直接輸送してもらう場合を考えます。
物品の供給地(Place of Supply)を規定するIGST法第10条1項b号では下記の通り規定しています。
代理人として行動するか否かを問わず、物品の移動前または移動中に物品の所有権の移転等の方法により、第三者(納入業者B)の指示により、物品が供給者(供給者A)から受領者(受領者C)またはその他の者に引き渡される場合、当該第三者(納入業者B)が物品を受領したものとみなされ、当該物品の供給場所は当該第三者(納入業者B)の主たる事業拠点とする。
よって、この規定によりBill to-Ship to取引の物品の供給地(Place of Supply)は納入業者Bの所在するハリヤーナ州となります。また、供給者Aから納入業者Bに発行される請求書に対して、納入業者Bは仮払GSTを支払うため、本取引に関する仕入税額控除は納入業者Bが使用することができます。
一方で、通常はこのBill to-Ship to取引とは別の取引(以下では取引②と呼びます。)として納入業者Bから受領者Cに対して請求書が発行されます。取引②に際して、納入業者Bが供給者Aから仕入れた価格にマークアップした金額等で納入業者Bから受領者Cに請求書を発行することで、一連の納入業者Bの取引は完了します。なお、取引②の請求書にもGSTは課税されるため、受領者Cが納入業者Bに仮払GSTを支払うことで、取引②に関する仕入税額控除は受領者Cが使用することができます。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |