インド子会社に出向している駐在員や現地採用として働いている方は、給与の一部又は全部をインド現地の銀行口座にてインドルピーで受け取るのが一般的です。このインドルピーで受け取った給与を日本の銀行口座に海外送金する際にインド側で税金がかかるのでしょうか？
海外送金にかかるTCS
まず、ここで"税金"と呼んでいる税金は源泉徴収税（Tax Collected at Source - TCS）になります。インド所得税法第206C条1G項では、教育ローンや医療・教育目的の送金を除いて、インド準備銀行の送金自由化スキーム（Liberalised Remittance Scheme - LRS）に基づいた年間70万ルピーを超える海外送金に際して、送金元の銀行（Authorised Dealer）に年間70万ルピーを超える送金額に対して20%のTCSを徴収するよう求めています。また、LRSとはインド準備銀行（Reserve Bank of India - RBI）がインド人居住者のために設計している、年間25万USドルまでの海外送金は自由に行うことができるスキームです。
2023年10月1日以降の詳細なTCS税率は下記の通りです。
| 送金目的 | 70万ルピーまでの送金 | 70万ルピーを超えての送金 |
| LRSでの教育ローンの送金 | 非課税 | 0.5% |
| LRSでの医療、教育目的の送金 | 非課税 | 5% |
| LRSでのそれ以外の目的での送金 | 非課税 | 20% |
| 海外パッケージツアーの送金 | 5% | 20% |
例えば、インド人従業員が自らのインド銀行口座からインド国外に住み海外の家族の生活資金の用途で年間100万ルピーの海外送金をする際には、6万ルピー（100万ルピーの内、70万ルピーを超える30万ルピーに対する20%）がTCSとして送金元の銀行から徴収されます。よって、銀行手数料等を考慮しない場合、送金者のインド口座からは合計106万ルピーが引き落とされることになります。
なお、海外送金時に源泉徴収されたTCSは個人所得税の前払いの性質があるため、個人の所得税申告の際に調整されます。TCSを考慮した後に年間の個人所得税の過払いがあった際には、過払い額は所得税申告の後に還付されます。
海外送金にかかるTCSの運用上でのQ＆A
海外送金にかかるTCSの運用においては、これまで改正も複数回あり多くの運用上の疑問が納税者から直接税中央委員会（Central Board of Direct Taxes - CBDT）に寄せられたことを踏まえて、CBDTは2023年6月30日付で通達Circular No. 10 of 2023を発しました。この通達では8つのQ＆Aが紹介されていますが、そのうち3つをここでは紹介します。
Q. 国際クレジットカードを介しての海外への支払いはTCSの対象ですか？
A. インド財務省（Ministry of finance）から2023年6月28日付で出されたプレスリリースでは、国際クレジットカードを介した支払いはLRSでの海外送金には該当しないと整理しているため、現時点では国際クレジットカードを介した支払いはTCSの対象とはなりません。
Q. 2行以上のインドの銀行から海外送金した場合にTCSの課税基準の70万ルピーは各銀行ごとに集計されますか？
A. インド所得税法第206C条1G項の規定方法を参照すると課税基準の70万ルピーは各銀行ごとでなく送金者の年間の海外送金額の合計であることは明白です。一方で実務上は送金者が2行以上のインドの銀行からLRSで海外送金した場合に、送金内容をリアルタイムでトラックするシステムをインド準備銀行が開発中であるものの、現時点ではまだ実装されていない状況です。
Q. 海外パッケージツアーの送金とはどのような支払が該当しますか？
A. 海外旅行のチケットの購入のみやホテル滞在費の購入のみのように単体の購入に関する支払いの海外送金は海外パッケージツアーの送金には該当しません。海外パッケージツアーに該当するのは下記の内、最低でも２つ以上を満たしている必要があります。
- 海外旅行のチケット
- 食事つきか否かに関わらずホテルの宿泊
- その他類似の性質の支出またはそれに関連する支出
インド永住者以外による海外送金
上記の規定はLRSで海外送金する場合の規定になります。一方で、インド子会社に出向している日本人駐在員やインドで現地採用として働いている日本人がインドの銀行口座を開設する際は、外国人口座（Foreign National Bank Account）という口座が開設されるのが一般的であり、当外国人口座からの海外送金はLRSの対象外と整理されることが多いようです。この場合であればインドに居住する日本人が行う海外送金にはTCSは源泉徴収されません。
ただ、日本人の持つインドの銀行口座が外国人口座になっているのか、外国人口座からの海外送金はLRSの対象外として行われているのかは、インドの銀行や支店によって取り扱いが様々なようであるので、詳細はご自身の口座のある銀行の支店までお問い合わせていただけると幸いです。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |