コロナ禍を経てインドのEコマース(Electronic Commerce)セクターは急成長し、インドの重要な産業セクターに1つになっています。EコマースセクターはGST当局にとっても大きな税収源である一方で、Eコマースは比較的新しい商取引であることもあり、GST課税の仕組みがまだ十分には整備されているとは言えません。Eコマース取引に対するGST課税に関しては解釈が分かれる点や対応方法が不透明な部分もあり改善の余地も多くありますが、GST当局としてはEコマース取引をどのような仕組みで適切に捕捉し、GSTをもれなく徴収するかが重要となります。
GST法でのEコマースの定義
CGST法ではEコマース(Electronic commerce)をデジタル又は電子ネットワークを介したデジタル製品を含む物品・サービスの供給と定義し、かつEコマース事業者(Electronic commerce operator)をEコマースのためのデジタル又は電子的設備又はプラットフォームを所有、運営又は管理する者と定義しています(CGST法第2条44項,45項)。この定義からも分かる通り、GST法ではEコマースの定義を幅広く取っており、オンラインのプラットフォームを介した多くの取引がEコマースの定義に該当します。
一方で、実務上ではインドのEコマースは下記のような分類がされることが多いようです。インド商工省傘下の産業政策推進局(Department of Industrial Policy and Promotion-DIPP)の発表する外国直接投資規制(統合FDIポリシー)内のEコマースセクターの分類も下記の2分類でそれぞれ規定されています。
インベントリー型Eコマース |
在庫の所有権をEコマース事業者が保有し、Eコマース事業者が買い手に直接販売する取引。 例)Lens Kart(自社製品を自社のWebページで販売するインド大手眼鏡ブランド) |
マーケットプレイス型Eコマース |
Eコマース事業者は売り手と買い手間の取引を促進するオンライン上のプラットフォームの提供はするものの、在庫は売り手から買い手に販売される取引。 例)Amazon、Flipkart |
GST法はインベントリー型Eコマースに関しては特段、特別なGSTコンプライアンスを求めてはいないため、インベントリー型Eコマースの事業者は物品を実店舗で販売する事業者と基本的には大方同様のGSTコンプライアンスを遵守することになります。一方でマーケットプレイス型Eコマースの事業者には追加で別のGSTコンプライアンスが求められます。
マーケットプレイス型EコマースのGSTコンプライアンス
GST法ではマーケットプレイス型Eコマースの提供するサービスをさらに下記の2つに分類し、これらを2本柱に据えた上でそれぞれでGST課税方法を規定しています。
第1の柱 | CGST法第9条5項、IGST法第5条5項の規定するサービス |
第2の柱 | 上記以外のサービス |
第1の柱に関するGSTコンプライアンス
まず、第1の柱に該当するサービスは、CGST法第9条5項、IGST法第5条5項の規定する以下の4つのサービスです(2017年6月28日付の通達Notification 17/2017-CT(R))。
サービス概要 | サービス供給者の条件 | Eコマース事業者の例 |
旅客輸送サービス(Radio-taxi/Motor cab/Maxi cab/Motor bike/Omnibus/Other motor vehicle) |
すべての実際のサービス供給者 | Uber/Ola |
宿泊又は居住を目的とした宿泊施設の提供サービス(Hotels/Inns/Guest houses/Clubs/Campsites/Other commercial places) | GST登録義務のない実際のサービス供給者 | OYO hotels/Airbnb |
家事代行サービス(Plumbing/Carpenteringなど) | GST登録義務のない実際のサービス供給者 | Urban Company |
レストランサービス(実店舗で提供されるサービスを除く) | すべての実際のサービス供給者 | Cloud Kitchenサービス(2022年1月以降:ZomataoやSwiggyのようなフードデリバリーのオンラインプラットフォーム) |
実際のサービス供給者(Uberに登録した運転手等)が上記の表のサービスをEコマース事業者(Uber等)を介して提供する場合は、あたかもEコマース事業者が実際のサービス供給者であるかのようにみなされます。そのため、当該サービス供給に関するGSTの納税義務やその他のGSTコンプライアンス義務は、実際のサービス供給者に代わって、Eコマース事業者が負うことになります(CGST法第9条5項、IGST法第5条5項)。よって、Eコマース事業者には、年間売上、インド国内に事業の場所があるか、代理人がいるかによらず、GST登録が求められます(CGST法第24条iv、第9条5項但し書き)。
実際のサービス供給者は小規模な事業者又は個人であることが多いため、実際のサービス供給者の代わりに、Eコマース事業者にGSTコンプライアンス義務を負わせることで、GST当局が確実にGSTを徴収できる仕組みとなっています。
第2の柱に関するGSTコンプライアンス
第2の柱に該当するサービスは、Eコマース事業者の提供する上記の第1の柱のサービス以外のサービスであり、AmazonやFlipkart等のプラットフォーム提供サービスはこの第2の柱に該当します。
まず、第1の柱と根本的に異なるのは、Eコマース事業者のプラットフォームを介して実際の供給者が行う物品・サービス供給はその実際の供給者自身にGST納税義務やその他のGSTコンプライアンス義務があることです。ただ、Eコマース事業者にもTCS(Tax Collection at Source)と呼ばれる徴収方法にて一定額のGSTを徴収し納税するコンプライアンスが求められます。つまり、GST法は実際の供給者及びEコマース事業者の両者にGSTの納税義務を求めています。なお、ここでいうTCSはGST法でのTCSであり、インド所得税法の規定する源泉徴収税(Tax Collected at Source - TCS)とは異なります。
Eコマース事業者に求められるTCSの納税コンプライアンス
実際の供給者がEコマース事業者を介して消費者に提供する物品・サービス供給の対価をEコマース事業者が消費者から集金する場合に、下記の1~3の物品・サービス供給の内、1及び3の純合計額(Net Value of Taxable Supplies)に対して1%を超えない額でEコマース事業者がTCSを徴収し、納税する必要があります(CGST法第52条1項、Notification No. 52/2018 – Central Tax)。なお、下記の2に関するGST納税は「第1の柱に関するGSTコンプライアンス」でまとめた通りです。
- 物品供給
- CGST法第9条5項、IGST法第5条5項の規定するサービス供給
- CGST法第9条5項、IGST法第5条5項の規定するサービス以外のサービス供給
また、1及び3の合計額は純合計額であるため、当該月に返品等があればその額を差し引くことができます。例えば、書籍の出版社であるA社(実際の供給者)がAmazon(Eコマース事業者)経由で複数の消費者に20××年の4月に10万ルピーの書籍を販売しましたが、同4月に3月以前の販売分と当月4月の販売分に対して合計で1万ルピーの返品が消費者からあったとします。この場合、Amazonを介したA社の20××年の4月の物品・サービス供給の純合計額は9万ルピーとなり、Amazonは9万ルピーに対する1%の900ルピーをTCSとして、A社から徴収してGST当局に納税する必要があります。
Eコマース事業者はこの徴収したTCSを徴収月の翌月10日までにGST当局に納税した上で、Form GSTR-8と呼ばれる様式で月次申告をする必要があります(CGST法第52条3,4項、CGST法細則第67条1項)。また、Eコマース事業者には、該当年度の翌年12月31日までに年次申告の申告も求められます(CGST法第52条5項)。
Eコマース事業者に求められるTCS以外のGSTコンプライアンス
まず、TCSを徴収する義務のあるEコマース事業者は年間売上によらず、GST登録の義務があります(CGST法第24条x)。加えて、Eコマース事業者が実際の供給者に対してプラットフォームの提供をし、プラットフォームの使用料をコミッションとして請求するような場合には、Eコマース事業者がGST課税対象のサービス供給を行っていることになります。そのため、Eコマース事業者にはGST月次申告(GSTR-1やGSTR-3B)等の一連のGSTコンプライアンス対応も求められます。
実際の供給者に求められるGSTコンプライアンス
まず、Eコマース事業者を介して物品の提供を行う実際の供給者にも、年間売上によらずGST登録の義務があります(CGST法第24条ix)。Eコマース事業者に徴収されたTCS額は実際の供給者の「電子現金台帳(Electronic Cash Ledger)」にてクレジットとして反映されることになりますが(CGST法第52条7項、CGST法細則第67条2項)、実際の供給者にもGST月次申告(GSTR-1やGSTR-3B)等の一連のGSTコンプライアンス対応が求められます。
第2の柱に関する事例
ある書店(実際の供給者)がAmazon(Eコマース事業者)を介して、10万ルピーの書籍を個人に販売したとします。Amazonはプラットフォームの使用料として書籍代の5%分のコミッション請求を書店にします。
まず、この場合、Amazonは10万ルピーに対する1%の1,000ルピーをTCSとして、書店から徴収してGST当局に納税することになります。加えて、書店は個人への物品提供、Amazonは書店へのプラットフォーム提供という名目でサービス供給をしているため、書店、Amazon共にGST月次申告(GSTR-1やGSTR-3B)等の一連のGSTコンプライアンス対応が求められます。
実際の供給者は小規模な事業者であることも多く、実際の供給者が適切にGST月次申告(GSTR-1やGSTR-3B)等を適切に申告しなかった場合、GST当局は当該Eコマース取引を捕捉できなくなってしまいます。そこで、第2の柱ではEコマース事業者に実際の供給者の行ったEコマース取引の純合計額に対して1%のTCSの徴収義務を課した上で、さらにForm GSTR-8で取引内容を開示させることを通して、実際の供給者の取引を正確に捕捉し、GSTをもれなく速やかに徴収することができるような仕組みとなっています。
なお、2024年7月10日付の通知(Notification No. 15/2024- Central Tax)でTCSの税率は1%(0.5%+0.5%)から0.5%(0.25%+0.25%)へ減税が発表されています。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |