GST当局の担当官より召喚状(Summon)がGST納税者に対して発行されることがあります。文字通りの意味で召喚状(Summon)を捉えると、裁判所等が被告人や証人を召喚する時に発行する書類というイメージがあり危機感を持たれるかもしれませんが、インドのGST法での召喚状(Summon)はどのような場合に発行されるのでしょうか?
GST法の規定する召喚状(Summon)
CGST法第70条では、1908 年民事訴訟法(the Code of Civil Procedure, 1908)の規定する民事裁判所の場合と同様に、GST調査において必要な証拠や書類(会計帳簿データ等)を提出してもらうために出頭が必要であると考えられる者を召喚する権限をGST当局の担当官に与えています。また、この召喚状(Summon)に関するGST調査はインドの刑法(Indian Penal Code)第193条、228条の規定する司法手続き(Judicial Proceedings)と同様にみなされ、虚偽の書類等の提出を行った場合等はGST法を超えた罰則が科せられる可能性があります。
また、召喚状(Summon)を受領したにもかかわらずGST当局に出頭しない場合には、上限2万5千ルピーのペナルティーが課せられます(CGST法第122条3項d号)。
召喚状(Summon)に関する問題と通達
近年、一部のGST当局の担当官が不必要に企業の経営層等のトップマネジメントに対して召喚状(Summon)を発しており、GSTポータルから取得可能な基本的なデータまで召喚状(Summon)で求めるケースも散見されていました。現状のCGST法第70条の規定では企業の経営層であるトップマネジメントであっても、召喚状(Summon)で招集された場合には、物理的にGST当局に出頭する必要があり、必要以上に召喚状(Summon)が発行される場合、納税者の事業活動の妨げになりかねません。召喚状(Summon)は納税者が一連の税務調査に協力的でない場合に、脱税を検知するための最終手段として発行されるものであるため、安易に召喚状(Summon)が発行されるべきではないと考えられます。
そこで、間接税・関税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes and Customs - CBIC)は2022年8月17日付で通達(Instruction No. 03/2022-23 (GST-Investigation))を発し、GST調査委員会(GST investigation wing)は召喚状(Summon)の意味合いやガイドラインを各GST当局の担当官に通知しました。この通達では、召喚状(Summon)の発行は納税者の脱税を検知するために必要情報等を納税者から入手するための一手段であるものの、召喚状(Summon)発行の権限は、慎重かつ十分に考慮した上で行使されなければならないとしています。GST当局の担当官は、召喚状(Summon)に頼るのではなく、情報要求状(Letter of requisition)を発行することの実行可能性を見極めなければならないと周知しています。
さらに10つの事項について召喚状(Summon)に関するガイドラインが示されました。GSTポータル上で入手可能な法定文書を求めるために召喚状(Summon)が発行されることはない点、経営層(CMD/MD/CEO/CFO等)が最初から召喚されるべきでない点、通常合理的な間隔を置いた3回目の召喚状(Summon)の発行後にも出頭がない場合には、告訴状が管轄判事(Jurisdictional Magistrate)に提出されるべき点等が含まれています。
以上の通りこの通達の主な目的は、納税者の事業活動の妨げとなるような不必要な召喚状(Summon)の発行をするGST当局の担当官への牽制と考えられます。ただ、GST納税者が3回目の召喚状(Summon)の受領後にも出頭しない場合には告訴状が提出される可能性もあるため、召喚状(Summon)を受領した場合には適切に対応していくことが求められます。
2024年度財政法での修正
さらに、2024年度財政法でCGST法第70条に1A項が挿入され、2024年11月1日以降には本人に代わって代理人がGST当局に出向くことを認めています。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |