インドで事業を行う際にMicrosoft365、Gmail、ZoomなどのSaaS(Software as a Service)と呼ばれるソフトウェアサービスを利用することがあるかと思います。これらの使用料やサブスクリプション料金を支払う際にはインド国内で源泉徴収税(Tax Deducted at Source - TDS)の源泉徴収が必要になるのでしょうか?
ソフトウェア使用料をインド国内法人に支払う場合
SaaSソフトウェアの使用料をインド内国法人に支払う際には、基本的にロイヤルティとして10%のTDSの源泉徴収が必要と考えられます(1961年インド所得税法第194J条)(2025年インド所得税法第393条 Table No.6)。2025年インド所得税法第9条6項b号ではロイヤルティの定義を下記の通り規定しています。
「ロイヤルティ」とは、以下の対価(一括対価を含むが、「キャピタルゲイン」の項目で課税される受領者の所得となる対価は除く)を意味する。
- 特許権、発明、模型、意匠、秘密方式もしくは秘密工程、商標権、またはこれらに類似する資産に関する権利の全部または一部の譲渡または付与(ライセンスの付与を含む)
- 特許権、発明、模型、意匠、秘密方式もしくは秘密工程、商標権、またはこれらに類似する資産の利用または使用に関する情報の供与
- 特許権、発明、模型、意匠、秘密方式もしくは秘密工程、商標権、またはこれに類似する資産の使用
- 技術上、工業上、商業上の科学的知識、経験、技能に関する情報の供与
- 工業上、商業上、科学上の設備の使用または使用権(鉱油の採掘、抽出、精製の使用に関するものを除く)
- あらゆる著作、文学、芸術または学術上の著作物(テレビ放送に関連して使用される映画、ビデオテープやラジオ放送に関連して使用されるテープを含む)に関する権利の全部または一部の譲渡(ライセンスの付与を含む)
- 上記に掲げる活動に関連する役務の提供
- 第9条6項c号(i):権利、資産、情報に関するあらゆる権利の譲渡には、かかる権利が譲渡される媒体の如何にかかわらず、コンピュータ・ソフトウェアの使用に関するあらゆる権利または使用権の譲渡(ライセンスの付与を含む)が含まれる
- 第9条6項c号(ii):次のいずれに該当するか否かにかかわらず、ロイヤルティには、権利、資産、情報に関する対価が含まれる。
(A) 当該権利、資産、情報の占有または支配が支払者にあること。
(B) 当該権利、資産、情報が支払者により直接使用されること。
(C) 当該権利、資産、情報の所在地がインド国内にあること。 - 第9条6項c号(iii):「Process(工程)」という表現には、衛星による送信(信号のアップリンク、増幅、ダウンリンクのための変換を含む)、ケーブル、光ファイバーその他これらに類する技術による送信が含まれ、当該工程・方法が秘密であるか否かを問わない
- 第9条6項c号(iv):「computer software(コンピュータ・ソフトウェア)」という表現には、ディスク、テープ、穴あき媒体またはその他の情報記憶装置に記録されたコンピュータ・プログラムを意味し、かかるプログラムまたはカスタマイズされた電子データを含む
上記の通り、インド所得税法ではロイヤルティを幅広く定義しております。SaaSソフトウェアは2025年インド所得税法第9条6項c号(i)にもある通り、コンピュータ・ソフトウェアの使用に関するあらゆる権利(ライセンスの付与)に該当し、SaaSソフトウェアの使用料やサブスクリプション料金はロイヤルティに含まれると整理できます。
ソフトウェア使用料をインド外国法人に支払う場合
インド内国法人がMicrosoft365やGmailやZoomなどのSaaSソフトウェアの使用料やサブスクリプション費用の請求をインド外国法人から請求されることもあります。基本的にソフトウェア使用料をインド外国法人に支払う際には、その国とインドとの租税条約を確認する必要があります。
ここでは、SaaSソフトウェアの使用料やサブスクリプション費用の請求を日本法人のSaaS提供会社から請求されたと仮定し、日印租税条約の規定を確認します。結論から申し上げると、基本的にソフトウェア使用料を日本法人(インド外国法人)に支払う際には、ロイヤルティには該当せずTDSの源泉徴収は不要と考えられます(日印租税条約第12条3項)。日印租税条約第12条3項ではロイヤルティの定義を下記の通り規定しています。
「ロイヤルティ」とは、文学上、美術上若しくは学術上の著作物(映画フィルム及びラジオ放送用又はテレビジョン放送用のフィルム又はテープを含む。)の著作権(Copyright)、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式若しくは秘密工程の使用若しくは使用の権利の対価として、産業上、商業上若しくは学術上の設備の使用若しくは使用の権利の対価として、又は産業上、商業上若しくは学術上の経験に関する情報の対価として受領するすべての種類の支払金をいう。
ここで争点となるのは、SaaSソフトウェアの使用料やサブスクリプション費用が租税条約上の著作権(Copyright)に該当するか否かです。Engineering Analysis Centre of Excellence Private Limitedがインド所得税当局と争った最高裁判所判決では、SaaSソフトウェアの使用料やサブスクリプション費用は著作権(Copyright)に該当しないという判決が2021年に出されています。著作権(Copyright)の定義はインド著作権法(Copyright Act)第14条に従うべきであり、同法では著作権(Copyright)とは著作物を再生成し複製物を作る、かつコンピュータ・プログラムの複製物を販売、営利目的で貸与することと関連させて著作権(Copyright)を定義しています。
一方で、SaaSソフトウェアの使用料やサブスクリプション費用は自社でSaaSソフトウェアを使用するために支払っているものの、当該SaaSソフトウェアの利用者はそのSaaSソフトウェアの複製物を第三者に販売するようなことはできないため、著作権(Copyright)の使用若しくは使用の権利の対価の支払いには該当しないという整理になります。ゆえに、インド法人がSaaSソフトウェア使用料を日本法人(インド外国法人)に対して支払う際には、ロイヤルティには該当せずTDSの源泉徴収は不要となります。
なお、ロシア、モロッコ、ナミビア、トリニダード・トバゴ等の国々とインドが締結している租税条約のロイヤルティの条項では「Computer software programme」の使用若しくは使用の権利の対価もロイヤルティの定義に含まれています。そのため、そのような国々へのSaaSソフトウェアの使用料やサブスクリプション費用の支払い時はTDSの源泉徴収が必要と考えられます。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |


