インドの商習慣上では、様々な割引の方法が使用されています。例えば、インドのショッピングモールでよく目にすることのある「Buy one get one free offer」は、洋服や石鹸を1つ買うともれなく1つ無料で同商品が付いてくる仕組みの割引です。これはGST法上では1つ分の対価で2つの物品を供給しているとみなすことができます。また、仕入先から年間で一定以上の量の仕入れを行った場合や、期日以内に対価を仕入先に支払った場合の一定の条件を満たした場合に仕入先から買い手に付与される割引は、「Volume Discounts(Buy more, save more)」と呼ばれる割引方法です。他にも「Secondary Discounts」と呼ばれる割引方法もあり、商品の購入時には割引が提示されていなかったものの、後に割引が適用になり返金される割引方法になります。
「Volume Discounts(Buy more, save more)」が売り手から買い手に付与されるか否かは、買い手の年間購入量や支払期日の遵守状況によるため最初の物品供給契約時には判明せず、年度末等の一定期間後に割引の付与が判定されます。よって、割引の付与が確定したタイミングで売り手は買い手に対して通常のCredit Noteを発行し、対価の一部及び該当するGST含めを返金するのが一般的です。一方で「Secondary Discounts」の場合は、下記で説明する商業用Credit Noteを売り手が発行し、売り手から対価の一部のみ返金があるものの、売り手に支払い済みのGSTは返金されません。
GST法上での割引と課税標準額
課税標準額(Value of Supply)を規定するCGST法第15条では、下記の場合の割引額は課税標準額に含まれない(=課税標準額からも割引くことができる)と規定しています(同条3項)。
①供給の前又は供給時に、割引が請求書に適切に明記されている場合
②供給後の割引であっても、下記2つの条件を満たす場合
- 割引が供給時又はそれ以前に締結された契約に規定されており、割引が関連する請求書に明確に関連付けられる場合 かつ
- 売り手が発行する文書に基づいた割引額に帰属する仕入税額控除(Input Tax Credit - ICT)が買い手に取り消されている(reversed)場合
「Secondary Discounts」の場合には、①②それぞれの要件を満たないため割引額は課税標準額に含まれる(=課税標準額からは割引くことができない)ことになります。一方で「Volume Discounts(Buy more, save more)」で②の要件を満たす場合には、割引額は課税標準額に含まれない(=課税標準額からは割引くことができる)ことになります。
よって、物品の返品等に伴い発行する通常のCredit Noteの場合には、対価の一部が返金されることに伴いGST法上での課税標準額と併せて仮受GST(Output GST)の額も減額されます。一方で、「Secondary Discounts」の場合のCredit Noteでは対価の一部が返金は行われるものの、GST法上での課税標準額や仮受GST(Output GST)の額は減額しません。「Secondary Discounts」時に使用されるこのCredit NoteはGST法の規定する適格Credit Noteとは異なり、商業用Credit Note(Commercial Credit Note)と呼ばれます。商業用Credit Noteでは、CGST法細則第53条1A項が適格Credit Noteに記載するよう規定している項目である「対応する適格請求書」や「返金される物品・サービスの税率及び税額」の記載は不要となると考えられます。
このことが「Secondary Discounts」の場合の商業用Credit Noteでは売り手から対価の一部の返金があるものの、売り手に支払い済みのGSTが返金されない理由です。間接税・関税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes and Customs - CBIC)は2019年3月7日付で通達(No.92/11/2019)を発行し、このSecondary Discountsを含む様々な割引に関するGSTの取り扱いを整理しています。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |