インド所得税法第80JJAA条では、事業所得を稼得しており税務監査が適用となる納税者に対して、「新規雇用した従業員に支払う給与等(additional employee cost)」の30%の金額分の所得控除を3年間にわたり認めています。所得控除とは、納税者の総所得額から一定額を控除することで、納税者の税負担を軽減できる税務上の制度です。2015年以前まではこの新規雇用就業員の給与に関する所得控除は製造業等の一部の業種のみに適用が可能な所得控除でしたが、2016年以降は一定の要件を満たす場合にはすべての業種の納税者で利用できる所得控除となりました。インド国内企業に税務面からのインセンティブを付与し、新規雇用を創出させたいインド政府の意図が見て取れます。
所得控除の対象外となる納税者及び新規雇用従業員
まず下記の事業や納税者にはこの所得控除は対象外となります。
- 既存事業の分割又は再建による事業の場合
- 事業が他人から譲渡された場合、又は事業再編の結果として取得された事業の場合
- インド勅許会計士の会計報告(Form No. 10DA)を同法第44AB条が規定する期日以内に提出していない場合
次に新規雇用する従業員の内、下記の場合はこの所得控除の対象の新規雇用従業員とはなりません。
- 給与等の総額(total emoluments)が月額25,000ルピーより高い者
- 従業員年金基金制度(EPS)の拠出金を全額インド政府が負担する者
- 雇用期間が240日未満の者
- 従業員積立基金制度(EPF)に加入していない者
例えば、法人AはFY2022-23に200人の従業員を雇用しており、2023年4月に追加で50人の新規従業員を月額給与は25,000ルピー以下で雇用したとします。彼らはEPFに加入済みで、2024年3月時点で退職していないと仮定します。法人Aが当該新規雇用した従業員に支払う給与等(additional employee cost)が900万ルピーであれば、法人AはFY2023-24に270万ルピー(900万ルピー×30%)の所得控除を利用することができます。
また、軽減法人所得税率22%を選択するインド国内法人は、所得税法で規定される主な所得控除や税額控除は利用できませんが、このインド所得税法第80JJAA条の所得控除は軽減税率22%を選択した法人でも利用可能な所得控除となります(インド所得税法第115BAA条)。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |