製造業者は自らの半完成品等の投入品をジョブワーカーに送り、ジョブワーカーがそれらを加工するようなサービスはインドでよく見られる商取引です。ジョブワークは製造工程の内の一工程を外注する商取引と捉えることもできます。この投入品の所有権は元々の製造業者からジョブワーカーに移転しないことがジョブワークの特徴です。
第二次産業が他国に比べ勃興していないインドにおいてジョブワークセクターはインド経済の観点からも重要な産業の1つです。また、ジョブワーカーは比較的小規模な事業体であることが多いことも考慮され、GST法ではジョブワーカーに対する税制優遇が規定されています。なお、ジョブワークに関する下記のGSTコンプライアンスは依頼元である製造業者に課されており、ジョブワーカー自体にはコンプライアンス対応が求められない設計となっています。
GST法上でのジョブワークとは?
ジョブワーク(Job Work)とは、他のGST登録者に属する物品に対して行う処理(Treatment)又は加工(Process)と定義されています(CGST法第2条68項)。
一方で製造(Manufacture)とは明確な名称、特性、用途を有する新製品を生み出す、原料又は投入物のあらゆる方法による加工(Process)と定義されています(CGST法第2条72項)。なお、熱処理(heat treatment)、包装(packing)、再包装(re-packing)、ラベリング(labelling)、テスト(testing)、修繕(repairs)、攪拌(mixing)等の新製品を生み出さない単純な活動は製造活動とみなされません。
上記の通りGST法では、供給された物品へ処理・加工を加えるサービスであるジョブワークを製造とは区分し、定義しています。
なお、上記のジョブワークの定義からも明白の通り、ジョブワークとしてGSTの優遇を受けるためには、処理・加工される物品がGST登録者(製造業者)に属している必要があります。言い換えれば、GST非登録者(製造業者)に属してる物品に対して、行われる処理・加工サービスはジョブワークには該当しません。
ジョブワークの流れ
CGST法第143条はジョブワークに関するGSTの優遇を規定していますが、ジョブワークは下記の流れで行われます。
①製造業者等(GST登録者)がジョブワーカーに対して、GSTを課税することなく自らの投入品をジョブワーカーに貸与
ジョブワーカー側に処理・加工するための機械や器具等の資本財がない場合には、その資本財も製造業者からGSTを課税することなく貸与することができます。なお、この投入品や資本財の貸与の際には、製造業者はCGST法細則55条の規定する詳細を記載した納品書(Delivery Challan)を発行することが求められます(CGST法細則45条1項、2項)。加えてForm GST ITC-04という様式で、納品書(Delivery Challan)の内容をGST当局に申告する必要があります(CGST法細則45条3項)。
②ジョブワーカーが処理・加工サービスを行う
③製造業者は加工後の投入品を1年以内に、資本財(金型、治具、工具を除く)であれば3年以内にGSTを課税することなくジョブワーカーから返還を受ける
製造業者は加工後の投入品を1年以内に、資本財(金型、治具、工具を除く)であれば3年以内に、ジョブワーカーの活動場所から、インド国内供給又はインド国外へ輸出することも認められています。ただ、製造業者が加工後の投入品や資本財をジョブワーカーの活動場所から自らの顧客に直接提供する際には、その物品の供給にGSTが課税されます。加えて、製造業者がGST非登録者であるジョブワーカーの場所から自らの顧客に物品の供給するためには、CGST法第143条1項但し書きにある一定の条件を満たす必要があります。
万が一、上述の期間(投入品の場合は1年、資本財の場合は3年)以内に返還又は供給されなかった場合には、当該投入品や資本財が製造業者からジョブワーカーに貸与された日時点で、当該投入品や資本財は製造業者からジョブワーカーに販売していたものとみなされます(同条3号、4号)。つまり、元々GSTを課税せずに製造業者からジョブワーカーに貸与していた投入品や資本財であっても、貸与日に遡ってGSTが課税される物品提供と見なされることになります。
なお、ジョブワーカーの加工作業中に生じたスクラップ等は、ジョブワーカーがGST登録者の場合はジョブワーカー自身が、ジョブワーカーがGST未登録者であれば製造業者がGSTを課した上で提供することも認められています(同条5号)。
製造業者はジョブワーカーに貸与した投入品や資本財の物品の仕入れに際して支払った仮払GST(Input Tax)の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)を使用することができます(CGST法第19条1項、4項)。またCGST法第16条2項b号では、GST納税者は物品・サービスを実際に受領していない場合には、それら物品・サービスの受領にあたって支払った仮払GST(Input Tax)を仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)として使用することが制限されていますが、ジョブワークに関する仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)の使用制限には例外規定があります。つまり、ジョブワークのために製造業者が仕入れた投入品や資本財の物品が、製造業者を介せず仕入業者からジョブワーカーに直接輸送される場合であっても、製造業者は当該物品の仕入れに際して支払った仮払GST(Input Tax)の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)を使用することができます(CGST法第19条2項、5項)。
ジョブワークの実務上の取り扱いに関して、GST納税者が多くの実務上の疑問を抱えていたこともあり、GST当局は2018年3月26日付で通達Circular No.38/12/2018を発行し、実務上の疑問や懸念点を明確化させました。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |