株式の増資は損益取引と区別された資本取引であるため、所得税の課税対象取引には該当しないと考えるのが日本では一般的かと思います。ただインドの所得税法ではエンジェル税(Angel Tax)という考え方があり、インド法人が行う増資取引がその他の所得(Income from other sources)として所得税の課税対象となることがあります。このエンジェル税(Angel Tax)は株式出資を利用したブラックマネーの資金洗浄を防ぐために導入された資本取引に課税するインド特有の課税方法になります。
インドのエンジェル税(Angel Tax)
インド所得税法第56条2項viib項では、非公開会社が株式発行の際に額面価格(Face Value)を超える金額の払込金を出資者から受領する場合には、公正市場価格(Fair Market Value)を超える払込金の金額はその他の所得(Income from other sources)として当法人の課税対象となると規定しています。なお、公正市場価格(Fair Market Value)の算出方法はインド所得税法細則第11UA条、11U条を参照する必要があります。また下記の払込金はエンジェル税(Angel Tax)の対象外となります。
- ベンチャーキャピタル又はベンチャーキャピタルファンド
- その他中央政府の通知する事業体
2023年度財政法での改正
2023年度財政法(The Finance Act, 2023)にて、このエンジェル税(Angel Tax)を規定するインド所得税法第56条2項viib号が一部改正されました。以前まではインド居住者に発行した株式の払込金のみがエンジェル税(Angel Tax)の対象でしたが、2023年4月以降はインド非居住者に発行した株式の払込金も対象となり、エンジェル税(Angel Tax)の対象が拡大しました。
さらに2023年9月25日付で直接税中央委員会(Central Board of Direct Taxes - CBDT)の発行した通達(Notification 81/2023)にて、インド所得税法細則第11UA条は修正されています。この修正によって、商業銀行(The Merchant Banker)の発行する評価報告書の有効期間を90日とする規定(インド所得税法細則第11UA条3項)、発行価格と評価額の差異が10%を超えない場合は発行価格を公正市場価格(Fair Market Value)とみなすセーフハーバールールの規定(インド所得税法細則第11UA条4項)が加わっています。
2024年度財政法での改正
2024年度財政法(The Finance Act, 2024)第23条では、このエンジェル税(Angel Tax)は2024年4月1日以降は廃止となる旨の改正がありました(インド所得税法第56条2項viib項 但し書きの3)。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |