電子請求書(E-invoice)のコンプライアンスとは、GST登録事業者がBtoB取引に関して発行する請求書を電子請求書ポータル(Invoice Registration Portal - IRP)を介して電子的に登録するコンプライアンスです。
電子請求書ポータルは、GST申告を管理するGSTポータル及び物品の輸送を管理するE-Way Billポータルとも連携しており、電子請求書ポータルで納税者が自社の請求書情報を登録されると、当該情報が即時に他のポータルにも共有され、月次申告GSTR-1やE-way Billに情報が自動で入力される仕組みになっています。そのため電子請求書ポータルの導入により、GSTの月次売上申告(GSTR-1)時に手動で請求書情報を記入する作業が自動化され、納税者の観点からすると、正確性向上及び負荷軽減に繋がります。またGST税務当局の観点からすると、GST登録事業者の売上請求書をもれなく補足できるようになり、請求書の偽造による仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)の偽装利用を防ぐ効果が期待できます。
電子請求書コンプライアンスが適用となる納税者
2020年1月7日より総売上(Aggregate Turnover)が50億ルピー以上の企業を対象に、任意での電子請求書の運用が開始し、2020年2月1日からは売上高10億ルピー以上50億ルピー未満の企業も運用が可能となりました。
2020年4月1日から一定の企業に対し電子請求書の発行が強制適用される予定でしたが(Notification No. 70/2019 – Central Tax)、新型コロナウィルスの影響により6ヶ月延期され2020年10月1日の運用開始に変更になりました(Notification No. 13/2020 – Central Tax)。
2023年11月時点では、下記の通り電子請求書コンプライアンスの対象となる総売上(Aggregate Turnover)の基準額の引き下げが発表されています。
総売上 | 適用開始時期 | 根拠通達 |
10億ルピー | 2020年10月1日以降 | Notification No. 13/2020 – Central Tax |
5億ルピー | 2021年4月1日以降 | Notification No. 5/2021 – Central Tax |
2億ルピー | 2022年4月1日以降 | Notification No. 1/2022 – Central Tax |
1億ルピー | 2022年10月1日以降 | Notification No. 17/2022 – Central Tax |
5千万ルピー | 2023年8月1日以降 | Notification No. 10/2023 – Central Tax |
また、当初は該当会計年度の総売上(Aggregate Turnover)が上記の基準を満たした場合に電子請求書コンプライアンスが適用となっていましたが、2020年9月30日付のNotification No. 70/2020 – Central Taxで、「2017-18年以降の直前会計年度」の総売上(Aggregate Turnover)が一度でも基準額を満たした場合は、満たした年度の翌年度以降のすべての会計年度にて電子請求書コンプライアンスが適用になると変更になりました。
下記の具体例では、FY2022-23にて総売上(Aggregate Turnover)が5千万ルピーを超えたため、FY2023-24年以降の毎会計年度で電子請求書コンプライアンスの遵守が必要となります。
会計年度 | 総売上 | 電子請求書コンプライアンス |
FY2017-18 | 4千万ルピー | 対応不要 |
FY2018-19 | 4千万ルピー | 対応不要 |
FY2019-20 | 4千万ルピー | 対応不要 |
FY2020-21 | 4千万ルピー | 対応不要 |
FY2021-22 | 4千万ルピー | 対応不要 |
FY2022-23 | 6千万ルピー | 対応不要 |
FY2023-24 | 6千万ルピー | 対応必要 |
電子請求書のコンプライアンス
電子請求書コンプライアンスが適用となるGST納税者は、適格請求書 / Debit Note / Credit Note を発行する際に、電子請求書のポータル電子請求書ポータルを介して請求書参照番号(Invoice Reference Number - IRN)を取得をした上で請求書を発行する必要があります(CGST法細則第48条4項)。また、輸出の請求書も電子請求書の対象です(Notification No. 70/2020 – Central Tax)。
ただ、BtoC取引(物品・サービスの受領者がGST未登録者の取引を指すが、GST未登録者への物品・サービスの輸出は電子請求書の発行が必要)に関して発行する請求書は電子請求書の対象外です。加えて、下記の物品・サービスの供給者が行うすべての供給は電子請求書コンプライアンスが適用とはなりません(CGST法細則第54条、Notification No. 13/2020 – Central Tax、Notification No. 70/2019 – Central Tax、Circular No. 186/18/2022-GST)。
- 保険会社、銀行、金融機関、非銀行金融会社(Non-banking financial company)
- 貨物輸送および旅客輸送サービス
- シネマコンプレックスのスクリーンでの映画上映
一方で、BtoC取引(物品・サービスの受領者がGST未登録者の取引を指す)であっても総売上(Aggregate Turnover)が50億ルピー以上の物品・サービス供給者(電子請求書の対象外の保険会社等を除く)の場合には、適格請求書にDynamic Quick Response code(QRコード)を記載することが求められています(Notification No. 14/2020 – Central Tax、CGST法細則第46条但し書き)。このDynamic QRコードを受領者がスマートフォンでスキャンすることで支払額が手入力しなくともオンラインペイメントが可能な仕組みになっており、デジタルペイメントの推進が期待できます。
なお、輸出の請求書は電子請求書の対象のため、Dynamic QRコードの対象外です。ただ、インド内国法人(GST登録者)がインド外国法人(GST未登録者)に対してサービス提供し外貨で対価が支払われるものの、サービスの供給場所(Place of Supply)がインド国内とみなされるような場合(インド子会社から日本親会社へ仲介サービスを行うような場合)には、適格請求書にこのDynamic QRコードの記載は不要です(Circular No. 156/12/2021-GST column4)。
電子請求書の発行方法
自社の利用しているERPシステム、会計システム、請求書発行システムに電子請求書の作成機能をアドオンするか、電子請求書ポータルからダウンロード可能なBulk Generation Toolに必要情報を入力して、電子請求書ポータルから発行することができます。
各社が利用するERPシステム、会計システム、請求書発行システムは多岐にわたり、これらを電子請求書ポータルで結合させることが電子請求書をインド全土に浸透させるための鍵を握っているといっても過言ではありません。そこで、インド政府は電子請求書作成に当たって、GST登録者に入力を求める統一標準規格をForm GST INV-01として定めています(インド全土のGST登録者にこの統一標準規格を適用することをE-Invoice Schmaと呼びます)。統一標準規格Form GST INV-01の情報はJSON(JavaScript Object Notation)で電子請求書ポータルに流し込まれます。JSONで情報規格が統一されることで多岐にわたるERPシステム、会計システム、請求書発行システムで作成される請求書の情報が、インド政府の電子請求書ポータルで認識できることになります。統一標準規格Form GST INV-01で入力が求められる情報の詳細は2020年7月30日付のNotification No. 60/2020 – Central Taxで規定されています。
なお、統一標準規格Form GST INV-01及び電子請求書ポータルを介して生成される電子請求書には、主に下記の情報が記入されます。
- 請求書区分・コード
- 供給者GST番号
- 請求書番号
- 請求日
- 購入者GST番号
- 住所
- 品目名・数量・単価・GST料率・請求総額
- 請求書参照番号(Invoice Reference Number - IRN)
- QR Code(Quick Response Code) 等
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |