日本の消費税が定める税のかからない取引には「不課税」「非課税」「免税」の区分がありますが、類似した概念がインドのGSTにもあります。以下では、日本の消費税法とインドのGST法の類似点に焦点を当てて説明します。
日本の消費税法での税のかからない取引区分
まず、日本の消費税法では消費税の課税の対象は「国内において事業者が事業として対価を得て行う取引」であり、下記の4要件を満たす取引が消費税の課税対象となります。
- 国内において行われる取引
- 事業者が事業として行う取引
- 対価を得て行う取引
- 資産の譲渡、貸付け又は役務の提供
一方でこの要件を満たさない取引が「不課税」と区分され、この4要件を満たすものの課税対象になじまないものや社会政策的配慮から消費税を課税しない取引が「非課税」と区分されます。さらに、4要件を満たすものの、国内での消費に負担を求めるという性格から、外国で消費されるものには課税しないという考えに基づき、消費税の課税を免じている取引が「免税」と区分されます。下記のような取引がそれぞれの区分に振り分けられます。
- 不課税:国外取引、対価を得て行うことに当たらない寄附や単なる贈与、出資に対する配当など
- 非課税:土地や有価証券、商品券などの譲渡、預貯金や貸付金の利子、社会保険医療など
- 免税:商品の輸出や国際輸送、外国にある事業者に対するサービスの提供(輸出類似取引)など
インドのGST法での税のかからない取引区分
次に、インドのGST法ではGSTの課税対象を物品・サービス供給(Supply)とし、基本的に「事業として対価を得て行う取引」が供給(Supply)の範囲であり、下記の3要件を満たす取引が物品・サービスの供給とみなされます(CGST法第7条1項a号)。
- 事業のために行うものであること
- 対価を得て行うものであること
- 販売(Sale)、譲渡(Transfer)、物々交換(Barter)、交換(Exchange)、ライセンス(License)、賃貸(Rental)、リース(Lease)又は処分(Disposal)等であること
また、GST登録をしている又はGST登録する義務がある者であるTaxable person(以下、簡便的にGST登録者)がGSTを徴収の上、納税します(CCGST法第9条1項、第2条107項)。その上でGSTががかからない取引区分として「Non-GST supply」「Exempt supply」「Non-taxable supply」「Nil-rated supply」「Zero-rated supply」等があります。そのため、インドのGST法の課税対象は日本の消費税法の課税対象と類似していると言えます。
「Non-GST supply」区分
GST法ではNon-GST supplyの定義はされていないものの、GST法の課税対象である供給(Supply)の範囲外の供給がNon-GST supplyと呼ばれることがあります。よって、Non-GST supplyは日本の消費税法の「不課税」に該当すると言えます。CGST法第7条2項aは、Schedule Ⅲに列挙する行為や取引は物品の供給及びサービスの供給に該当しないと規定しています。Schedule Ⅲで下記のような行為や取引が列挙されています。
- 雇用関係下での被雇用者から雇用主へのサービス
- 裁判所のサービス
- 国会議員等の行う職務
- 葬儀、埋葬、火葬場または霊安室のサービス
- 土地や一定の建物の販売
- 一定のActionable claims
- 非課税地域内のある場所から非課税地域内の別の場所へのインドに入国しない物品の供給
- 倉庫に保管された物品の家庭内消費のための通関前の個人への供給
- 物品がインド国外にある原産港から発送された後、自国での消費のために通関前に荷受人が物品の所有権書類の裏書によって他の者に行う物品の供給
- 共同保険契約において元受保険者と共同保険者が共同で被保険者に提供する保険サービスに対し、元受保険者が共同保険者に保険料を配分する行為
- 保険者が再保険者に支払う再保険料から出再手数料又は再保険手数料が控除される再保険者へのサービス
「Exempt supply」区分
Exempt supplyとは、「Nil税率が適用になる物品・サービス供給または、CGST税法第 11条又は第 6条に基づき非課税となる物品・サービス供給であり、「Non-taxable supply」を含む」と定義されています(CGST法第2条47項)。よって、Exempt supplyは日本の消費税法の「非課税」に該当すると言えます。CGST法第11条1項はインド政府に公益上必要であると認める場合、GST協議会(GST Council)の勧告に基づき、通達(Notification)により、特定 の物品・サービスへの課税を免除することができる権限を与えています。
このCGST法第11条1項に基づいて、間接税・関税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes and Customs - CBIC)は2017年7月のGST導入に先立ち、2017年6月28日付で各物品に関しては通達Notification No. 2/2017-Central Tax (Rate)を、各サービスに関しては通達Notification No. 12/2017-Central Tax (Rate)を発行し、課税が免除される特定の各物品・サービスの一覧を公表しました。生活必需品であるFresh Milk、Fresh fruits、Fresh Fish等様々な物品・サービスが課税が免除される対象として列挙されています。
なお、GST登録者が非課税の物品・サービスを供給する場合は適格請求書(Tax Invoice)に代わってBill of Supplyを発行する必要があります(CGST法第31条3項c号)。
「Non-taxable supply」区分
Non-taxable supplyは、GST法上では上述の通りExempt supplyの一部とみなされますが、CGST法第2条47項は「GST法に基づいて課税されない物品・サービス供給である」と別途定義を与えています。Non-taxable supplyには、下記の物品の供給が該当します(CGST法第9条1,2項)。
- 食用アルコール飲料
- 食用アルコール飲料の製造に使用される未変性の超中性アルコール又は精留酒
- 石油原油
- 高速ディーゼル
- モータースピリット(いわゆるガソリン)
- 天然ガス
- 航空タービン燃料
ただこれらの物品はGSTが課税されない一方で、GST法以外の酒税法等によってGST以外の税金の課税対象となることがあります。
「Nil-rated supply」区分
Nil税率(GST税率0%)が適用になる物品・サービス供給をNil-rated supplyと呼ぶことがあります。よって、Nil-rated supplyも日本の消費税法の「非課税」に該当すると言えるでしょう。関税法等ではNil-rated supplyが定義されているものの、GST法では特段Nil-rated supplyの定義は用意されておりません。関税法等の定義を借用すると、政府が通達(Notification)で課税を免状することを公表せずとも、元々から税率がNil税率(GST税率0%)と規定されている物品・サービス供給をNil-rated supplyと考えることができます。上述のExempt supplyとNil-rated supplyの違いは、前者は課税を免状するのに別途政府が通達(Notification)を発行する必要がある物品・サービス供給である一方で、後者は元々法律で規定されているために通達(Notification)がなくとも課税が免状されている物品・サービス供給であると解釈することができます。課税の免除の取り扱いを改正するためには、前者は通達(Notification)を差し替えるだけで良い一方で、後者は一般的に法改正が必要なため国会での決議が必要となります。
CBICは2017年6月28日付で各物品に関しては通達Notification No. 1/2017-Central Tax (Rate)を、各サービスに関しては通達Notification No. 11/2017-Central Tax (Rate)を発行し、CGST法に基づいた各物品・サービスの税率の一覧表を公表しています。この当初の一覧表では、Nil税率(GST税率0%)と規定された物品は一つもなく、サービスでは唯一「農業、林業、漁業、畜産業への支援サービス(SAC 9986)」のみがNil税率(GST税率0%)と規定されています。
「Zero-rated supply」区分
Zero-rated supplyとは、「物品・サービスの輸出または、一定の経済特区(Special Economic Zone - SEZ)の開発業者または経済特区ユニットへの物品・サービス供給」と定義されています(IGST法第16条1項)。よって、Zero-rated supplyは日本の消費税法の「免税」に該当すると言えます。なお、上述の4つの区分に該当するかは、対象となる物品・サービス自体の種類によって決定される一方で、このZero-rated supplyの区分に該当するかは物品・サービスの種類ではなく、取引の性質で決定されることが大きく異なります。それ以外にも上述のExempt supply / Non-taxable supply / Nil-rated supplyとZero-rated supplyが大きく異なるのは、Zero-rated supplyの場合はサプライチェーン内のGST登録者及び最終消費者のいずれもGSTを負担することはない仕組みになっています。逆に言えば、Exempt supply / Non-taxable supply / Nil-rated supplyは当供給の受領者はGSTを負担することはないものの、一般的に当該供給の供給者がGST負担者となる仕組みになっています。
それゆえに、Zero-rated supplyの関連費用として支払った仮払GST(Input GST)は仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)が認められており(IGST法第16条2項)、還付申請の対象でもあります(CGST法第54条8項a)。一方でExempt supply / Non-taxable supply / Nil-rated supplyの関連費用として支払った仮払GST(Input GST)は仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)の利用が認められておらず(CGST法第17条2項)、当該仮払GST(Input GST)は費用計上する必要があります。
インドのGST法での区分 | 類似する日本の消費税法の区分 | 関連費用に係る仕入税額控除の利用 |
Non-GST supply | 不課税 | 不可 |
Exempt supply | 非課税 | 不可 |
Non-taxable supply | 非課税 | 不可 |
Nil-rated supply | 非課税 | 不可 |
Zero-rated supply | 免税 | 可能 |
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |