インド憲法第269A条1項説明書きでは、インド領域内への物品又はサービスの輸入はみなし州またぎ供給(Deemed Inter-State Supplies)とすると規定しており、インド国外からインド国内への物品又はサービスの輸入はGSTの課税対象となります。また、物品又はサービスの輸入をGSTの課税対象とすることでインド国内供給と輸入供給間で公平な競争条件を整備したい意図があります。
なお、GST法上での物品又はサービスの輸出の取り扱いはこちらでまとめています。
物品の輸入の取り扱い
定義 物品の輸入(Import of Goods)は「その文法的な変化や同義表現を含め、インド国外からインド国内に物品を持ち込むことを意味する」と定義されております(IGST法第2条10項)。インド内国法人がインド外国法人から物品の輸入を行う際、州またぎ(Inter-State)の物品の供給として、IGSTの課税対象になります(IGST法第7条2項、第5条1項)。
なお、物品の輸入に関するIGSTの根拠規定はIGST法ではないことに注意が必要です。物品の輸入に関しては、1975年関税率法(the Customs Tariff Act, 1975)第3条の規定に従い、1962年関税法(the Customs Act, 1962)第12条の規定で物品に関税が課される時点で1962年関税法第14条に基づき決定される価格に対して、IGSTが課税され徴収されます(IGST法第5条1項但し書き)。
税額の計算と納税方式 IGSTの税額は1962年関税法第14条が規定する輸入物品の取引価額(Transaction Value)に対して、IGST法法第5条が規定する税率を乗じて計算されます(1975年関税率法第3条7項)。また、IGST税率を乗じる課税標準額には基本関税(Basic Custom Duty-BCD)や社会福祉課徴金(Social Welfare Surcharge)等のその他の関税も加えられ(1975年関税率法第3条8項)、関税額に対してもIGSTが発生する計算構造になっています。物品の輸入のIGSTは、基本的に輸入者が通関手続きの際にインド国内消費のための輸入申告書(Bill Of Entry - BOE)が申告されるタイミングで納税します。
物品の供給地(Place of supply) 物品の輸入の場合の物品の供給地(Place of supply)は輸入者の場所となります(IGST法第11条)。例えば輸入者がデリー州でGST登録したGST登録者の場合には、徴収されたIGSTの内、州税部分はデリー州政府の税収入として州政府に配分されることになります。また、物品の供給者の場所や物品の供給地(Place of supply)がインド領海内であれば、ベースラインの最も近い地点が位置する沿岸の州が物品の供給者の場所や物品の供給地(Place of supply)とみなします(IGST法第9条)。
GST登録の必要性 物品の輸入を行う者が輸入取引を行うことに対してGST登録を義務付ける規定はGST法にはありません。というのも、物品の輸入のIGSTは、通関手続きの際に納税されますが、この納税はリバースチャージ方式には該当しないため、CGST法24条1項iii号のリバースチャージに起因してGST登録が求められることはないからです。もちろん、物品の輸入取引以外でGST登録に関する年間売上(Aggregate turnover)の閾値に達する者はGST登録が必要です。なお、GST登録者が物品の輸入を行う場合は、通関手続きの際に納税したIGSTの仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)を利用するためにも、輸入申告書(Bill Of Entry - BOE)に輸入者のGST番号(GST Identification Number - GSTIN)を記載すことは必須となります。
その他の規定 物品の輸入に関して、公海上取引(High Sea Sales)及び三国間貿易の際のGSTの取り扱いはこちらにまとめています。また、免税許容量までの旅行土産等の旅客手荷物に対しては、基本関税やIGSTの課税が免除されます(Baggage Rules, 2016)。日本からの出張者がインドの駐在員へ渡すお土産を免税でインド国内に持ち込むことができるのは、この規定があるためです。
サービスの輸入の取り扱い
定義 サービスの輸入に関するIGSTの課税及び徴収はIGST法が規定しています。下記を満たすサービスの供給がサービスの輸入に該当し(IGST法第2条11項)、州またぎ(Inter-State)のサービスの供給として、IGSTの課税対象になります(IGST法第7条4項、第5条1項)。
- 供給者がインド国外に所在している
- 受領者がインド国内に所在している
- サービスの供給地(Place of supply)がインド国内である
輸入以外のインド国内でのサービス供給では、供給(Supply)とみなされためにはCGST法第7条1項a号の規定する3要件(事業のために行う/対価を得て行う/サービス提供)を満たす必要があります。ただサービスの輸入に関しては、対価を得て行うサービス提供であれば、事業のために行うサービス提供でなくとも供給(Supply)に該当します(CGST法第7条1項b号)。よって、個人が個人消費の目的(=事業の用に供する以外の目的)で、インド国外の供給者から音楽を有料でダウンロードした場合は、当該音楽データの提供は供給(Supply)に該当します。一方で、個人がインド国外の供給者であるGoogleやFacebookのサービスを無償で使用する分には供給(Supply)に該当しません。
さらにCGST法スケジュール Ⅰでは、対価の伴わない場合であっても、関係会社(Related Persons)又はインド国外の事業所からの事業のために行うサービスの輸入はサービスの供給に該当すると別途規定しています。よって、インド国外の本社からインド支店が事業に関してサービスを輸入した場合は、無償供給であってもサービス供給に該当することになります。まとめると、下記の場合のサービスの輸入の場合には供給(Supply)に該当します。
対価性 | 事業テスト | |
サービスの輸入 | 必要 | 不必要 |
インド国外の関係会社又は事業所からのサービスの輸入 | 不必要 | 必要 |
サービスの供給地(Place of supply) サービスの供給者又は受領者のいずれかが、インド国外に所在する場合のサービスの供給地(Place of supply)はIGST法第13条に基づいて判定されます。サービスの供給地(Place of supply)がインド国外と判定された場合は、上述のサービスの輸入の定義から外れるため、この供給地(Place of supply)の判定は重要となります。ただ、IGST法第13条3項から13項までに限定列挙される取引を除いて、供給地(Place of supply)は受領者の場所になると規定されており(IGST法第13条2項)、基本的にサービスの輸入の供給地(Place of supply)は受領者のいるインド国内となります。
限定列挙されている取引の例として、不動産に関するサービスがあります。不動産に直接関連するサービスの供給地(Place of supply)は当該不動産が所在する場所又は所在する予定の場所と規定されています(IGST法第13条4項)。よって、例えばインド居住者Aが日本に別荘を建築する予定があり、日本の建築士Bに当該別荘の図面作成を依頼した場合には、サービスの供給地(Place of supply)は別荘の建築予定地の日本となり建築士Bからインド居住者Aへの図面作成はサービスの輸入には該当しません。また、サービスの供給者の場所やサービスの供給地(Place of supply)がインド領海内であれば、ベースラインの最も近い地点が位置する沿岸の州がサービスの供給者の場所やサービスの供給地(Place of supply)とみなします(IGST法第9条)。
納税方式 非課税地域(インド国外)のサービス供給者が課税地域(インド国内)のサービス受領者にサービスの供給をする場合(≒サービスの輸入の場合)のIGSTの納税方法はリバースチャージ方式になります(IGST法第5条3項、Notification No. 10/2017- Integrated Tax (Rate)の1)。一方で、非課税地域(インド国外)のサービス供給者から下記の者が受領するサービスの輸入はNil税率(GST税率0%)となり、個人等の下記の者はリバースチャージ方式での納税は不要となります(Notification No. 9/2017-Integrated Tax (Rate)の10)。
- 中央政府、州政府、地方自治体、政府機関、個人で商業、工業、その他の事業や職業以外の目的に関連する者
- 慈善活動を提供する目的でインド所得税法第12AA条に登録している事業体
- 非課税地域に所在する者
- しかし、OIDARサービスやインド国外からインド国内の通関場所までの船舶による貨物の輸送サービスはNil税率の対象外である
つまり、サービスの輸入の場合には、インド国内のサービス受領者(上記の個人等を除く)がインド国外のサービス供給者に代わって、リバースチャージ方式でIGSTを納税することになります。そして、サービス受領者が個人であり個人消費のために受領するサービスの輸入では、IGSTを免除されているものの、音楽のダウンロード等のOIDARサービスの場合はサービス受領者が個人であってもIGSTの課税対象です。OIDARサービスの詳細はこちらにまとめています。
GST登録の必要性 サービスの輸入を行う者は物理の輸入とは異なり、リバースチャージ方式でIGSTを納税する必要があるため、GST登録が必須です(CGST法24条1項iii号)。言い換えれば、たとえ輸入者の年間売上(Aggregate turnover)がCGST法第22条の規定するGST登録の閾値に達っしていなくとも、GST登録が求められます。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |