GST課税網を広げることでGST納税者の取引を正確に捕捉し脱税を牽制すること等に資する目的でインドの間接税である物品・サービス税(Goods and Service Tax - GST)には、源泉徴収税(Tax Collection at Source - TCS)というGSTの徴収方法があります。なお、GST法には同じ日本語訳である源泉徴収税が充てられることのある「Tax Deduction at Source - TDS」というGSTの徴収方法もありますが、「Tax Collection at Sources - TCS」とは異なります。
GST法の源泉徴収税(Tax Collection at Source - TCS)
GST法の源泉徴収税(Tax Collection at Source - TCS)は、Amazon、FlipkartなどのEコマース事業者(Electronic Commerce Operator - ECO)に求められるGSTの徴収方法です。なお、TCS以外のGST法のEコマースの取り扱いの詳細はこちらにまとめています。
Eコマース事業者のプラットフォームを介して実際の供給者が行う物品・サービス供給は、その実際の供給者自身にGST納税義務やその他のGSTコンプライアンス義務がある一方で、Eコマース事業者にも一定額のGSTをTCS(Tax Collection at Source)として徴収し納税するコンプライアンスが求められます。つまり、一定のEコマースの取引に対して、GST法は実際の供給者及びEコマース事業者の両者にGSTの納税義務を求めています。なお、ここでいうTCSはGST法でのTCSであり、インド所得税法の規定する源泉徴収税(Tax Collected at Source - TCS)とは異なります。
Eコマース事業者に求められるTCSの納税コンプライアンス
実際の供給者がEコマース事業者を介して消費者に提供する物品・サービス供給の対価をEコマース事業者が受領者から集金する場合に、下記の1~3の物品・サービス供給の内、1及び3の課税供給純額(Net Value of Taxable Supplies)に対して1%を超えないインド政府の通知する税率(2024年7月10日以降は0.5%(=CGST0.25%+SGST0.25% / IGST0.5%))でEコマース事業者がTCSを徴収し、納税する必要があります(CGST法第52条1項、Notification No. 52/2018 – Central Tax、Notification No. 15/2024- Central Tax)。なお、Lens Kart(自社製品を自社のWebページで販売するインド大手眼鏡ブランド)のように実際の供給者が自らで運営するEコマースプラットフォームでEコマースで物品・サービス供給を行う場合には、このTCSのコンプライアンスは適用になりません。
- 物品供給
- CGST法第9条5項、IGST法第5条5項の規定するサービス供給
- CGST法第9条5項、IGST法第5条5項の規定するサービス以外のサービス供給
また、1及び3の合計額は純額であるため、当該月に返品等があればその額を差し引くことができます。例えば、書籍の出版社であるA社(実際の供給者)がAmazon(Eコマース事業者)経由で複数の消費者に20××年の4月に10万ルピーの書籍を販売しましたが、同4月に3月以前の販売分と当月4月の販売分に対して合計で1万ルピーの返品が消費者からあったとします。この場合、Amazonを介したA社の20××年の4月の物品・サービス供給の純合計額は9万ルピーとなり、Amazonは9万ルピーに対する0.5%の450ルピーをTCSとして、A社から徴収してGST当局に納税する必要があります。
Eコマース事業者はこの徴収したTCSを徴収月の翌月10日までにGST当局に納税した上で、Form GSTR-8と呼ばれる様式で月次申告をする必要があります(CGST法第52条3,4項、CGST法細則第67条1項)。また、Eコマース事業者には、該当年度の翌年12月31日までにForm GSTR-9Bと呼ばれる様式で年次申告の申告も求められます(CGST法第52条5項、CGST法細則第80条2項)。
なお、源泉徴収されたTCSは実際の供給者の「電子現金台帳(Electronic Cash Ledger)」にクレジットとして反映され、実際の供給者は自らのGST納税義務で利用可能です(CGST法第52条7項、CGST法細則第67条2項)。
Eコマース事業者に求められるその他のGSTコンプライアンス
まず、TCSを徴収する義務のあるEコマース事業者は総売上(Aggregate Turnover)によらず、GST登録の義務があります(CGST法第24条x、CGST法細則第12条)。加えて、Eコマース事業者が実際の供給者に対してプラットフォームの提供をし、プラットフォームの使用料をコミッションとして請求するような場合には、Eコマース事業者がGST課税対象のサービス供給を行っていることになります。そのため、Eコマース事業者にはGST月次申告(GSTR-1やGSTR-3B)等の一連のGSTコンプライアンス対応も求められます。
実際の供給者に求められるGSTコンプライアンス
まず、Eコマース事業者を介して物品の提供を行う実際の供給者にも、年間売上によらずGST登録の義務があり(CGST法第24条ix)、GST月次申告(GSTR-1やGSTR-3B)等の一連のGSTコンプライアンス対応が求められます。
課税関係の事例
ある書店(実際の供給者)がAmazon(Eコマース事業者)を介して、10万ルピーの書籍を個人に販売したとします。Amazonはプラットフォームの使用料として書籍代の5%分のコミッション請求を書店にします。
まず、この場合、Amazonは10万ルピーに対する0.5%の500ルピーをTCSとして、書店から徴収してGST当局に納税することになります。加えて、書店は個人への物品提供、Amazonは書店へのプラットフォーム提供という名目でサービス供給をしているため、書店、Amazon共にGST月次申告(GSTR-1やGSTR-3B)等の一連のGSTコンプライアンス対応が求められます。
実際の供給者は小規模な事業者であることも多く、実際の供給者が適切にGST月次申告(GSTR-1やGSTR-3B)等を適切に申告しなかった場合、GST当局は当該Eコマース取引を捕捉できなくなってしまいます。そこで、Eコマース事業者に実際の供給者の行ったEコマース取引の純合計額に対して0.5%のTCSの徴収義務を課した上で、さらにForm GSTR-8で取引内容を開示させることを通して、実際の供給者の取引を正確に捕捉し、GSTをもれなく速やかに徴収することができるような仕組みとなっています。
なお、2024年7月10日付の通知(Notification No. 15/2024- Central Tax)でTCSの税率は1%(0.5%+0.5%)から0.5%(0.25%+0.25%)へ減税が発表されています。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |