その国の税法が定める以上の税額を払っている事業者に対して、税額を速やかに還付させる仕組みは、事業者の運転資金をいたずらにブロックしないという観点からも重要な税務制度設計です。インドの間接税であるGST法上にも還付(Refund)の規定はありますが、一般的に日本の消費税に比べて還付できる税額の範囲が限定的です。特に、インドのGST法の場合には仮払GST(Input GST)が仮受GST(Output GST)を超過しており未利用の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)が累積している場合であっても、一部の例外を除き還付が認められていません。
GST法で還付が認められるケース
CGST法第54条が還付を規定していますが、還付が認められるケースには下記のような場合があります。あくまで下記のケースは還付が認められる主なケースであり、これ以外にも還付が認められるケースはあります。ただ、累積している未利用の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)の還付が受けられるケースは下記の1つ目と2つ目のケースのみになります(CGST法第54条3項)。
- IGSTを納税せずZero-rated supply(物品・サービスの輸出や一定の経済特区(Special Economic Zone - SEZ)の開発業者または経済特区ユニットへの物品・サービス供給)を行い、未利用の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)分の還付を受ける(CGST法第54条3項 但し書きi号、IGST法第16条3項、CGST法細則第89条4項)
- Inverted Duty Structure(仕入れにかかる仮払GST(Input GST)の税率が売上供給にかかる仮受GST(Output GST)の税率より高い現象)の取引を行っており、未利用の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)分の還付を受ける(CGST法第54条3項 但し書きii号、CGST法細則第89条5項)
- IGSTを納税してZero-rated supplyを行い、納税したIGSTの還付を受ける(IGST法第16条4項、CGST法細則96条)
- みなし輸出(Deemed Export)時に納税したIGSTの還付を受ける(CGST法第54条 説明書き(1)、CGST法第147条)
- 納税必要額等を支払った後に残っている電子現金台帳(Electronic Cash Ledger)の残高の還付を受ける(CGST法第49条6項、CGST法第54条1項 但し書き、CGST法細則第89条1項)
- 州またぎGST(Integrated GST - IGST)を払うべきところ、誤って中央GST(Central GST - CGST)及び州GST(State GST - SGST)を払っていた場合のCGSTとSGSTの還付を受ける(CGST法第77条、CGST法細則第89条1A項)
- 中央GST(Central GST - CGST)及び州GST(State GST - SGST)を払うべきところ、誤って州またぎGST(Integrated GST - IGST)を払っていた場合のIGSTの還付を受ける(IGST法第19条)
- 国際連合や外国の大使館、領事館が支払ったGSTの還付を受ける(CGST法第55条、第54条2項)
- インドへの旅行者が支払ったGSTで、インドを去る際にインド国外に持ち出す物品に係る分の還付を受ける(IGST法第15条)
- 臨時納税者(Casual Taxable Person)や非居住納税者(Non-Resident Taxable Person)がGST登録時に預託したGSTの内、最終申告が完了後に残っているGST預託分の還付(CGST法第54条13項、CGST法細則第89条1項 但し書きの3)
- 適格請求書は発行されておらず、実際には行われていない物品・サービス供給に関して納税したGSTの還付を受ける
- サービスの供給者は前受金と共にGSTを受領者から受け取っており適格請求書も発行済みであったが、実際にはサービス供給は行われなかったため、供給者はCredit Noteを発行したものの、当該Credit Noteで減額できる仮受GST(Output GST)が供給者側に存在しない場合にその仮受GST(Output GST)分の還付を受ける(Circular No. 137/07/2020-GST)
- 適用する税率の誤り等でGST超過納税分の還付を受ける(CGST法第54条1項)
還付申請の流れ
還付申請者は還付申請をForm GST RFD-01という様式にてGSTポータルから申請を行う必要があります(CGST法細則第89条)。なお、還付申請を行うGST登録者でGST登録時にAadhaar認証を済ませていない者にはAadhaar認証が求められます。一方で、「IGSTを納税して物品輸出を行い、納税したIGSTの還付を受ける(上記のケースの3つ目)」場合にはForm GST RFD-01の申請は不要であり、輸出者の申告するShipping Billをもって還付申請が行えます(CGST法細則96条)。
還付申請の期限は基準日(Relavant Date)から2年が経過する前までであり、基準日(Relavant Date)は還付のケースごとに設定されています(CGST法第54条1項、説明書きの2)。ただ、「電子現金台帳(Electronic Cash Ledger)の残高の還付を受ける(上記のケースの5つ目)」場合は、この2年間の制限はありません(CircularNo.166/22/2021-GST)。
CGST法第54条8項(a)(b)(c)(d)(f)を除く還付申請の際には、下記2点の書類をForm GST RFD-01の申請時に添付を行います(CGST法第54条4項、CGST法細則第89条2項)。
- Annexure 1:還付申請者に還付が支払われるべきことを示す書類
- Annexure 2:還付申請者が不当利益(Unjust Enrichment)を享受していないことの勅許会計士等からの証明書(還付額が20万ルピーを超過する場合)/ 還付申請者の宣言書(還付額が20万ルピー以下の場合)
還付申請後の流れ
電子現金台帳(Electronic Cash Ledger)からの還付を受ける場合は、還付申請のAcknowledgementがForm GST RFD-02という様式にて発行されます(CGST法細則第90条1項)。それ以外の還付の場合は、還付申請をGST当局の担当官に送られ15日以内に申請内容は確認され、還付申請のAcknowledgementがForm GST RFD-02という様式にて発行されます(CGST法細則第90条2項)。還付申請内容に不足があると、Deficiency MamoがForm GST RFD-03という様式にて発行されます(CGST法細則第90条3項)。
Zero-rated supplyに関する還付の場合、まずは還付申請額の90%がProvisional Refundとして還付申請のAcknowledgementが発行されてから7日以内に還付申請者に還付され、残りの10%は還付申請書類の精査のあとに還付されます(CGST法第54条6項、CGST法細則第91条)。
また、不当利益の理論(Theory of Unjust Enrichment)が適用とはならない下記の還付の場合には、還付額は還付申請者に還付されます(CGST法第54条8項、CGST法細則第92条)。
- 物品・サービスの輸出又はそれらの輸出のための仕入れに関して納税したGSTの還付
- IGSTを納税せず行ったZero-rated supplyに関する未利用の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)分の還付
- Inverted Duty Structureに関する未利用の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)分の還付
- 適格請求書は発行されておらず、実際には行われていない物品・サービス供給に関して納税したGSTの還付
- IGSTを払うべきところ、誤ってCGST及びSGSTを払っていた場合のCGSTとSGSTの還付
- CGST及びSGSTを払うべきところ、誤ってIGSTを払っていた場合のIGSTの還付
- 還付申請者が税負担(Incidece of tax)や延滞利息負担(Incidece of interest)をその他の者に転嫁していないGSTや延滞利息に関するGSTの還付
- その他、当局によって通知されたGSTの還付
一方で、上記以外の還付の場合には不当利益の理論(Theory of Unjust Enrichment)が適用となり還付額は、還付申請者に振り込まれる代わりに消費者福祉基金(Consumer Welfare Fund)に還付されます(CGST法第54条5,7項、CGST法細則第92条)。
最終還付通知(Refund Order)は還付申請のAcknowledgementから60日以内に発行されます(CGST法第54条7項)。還付申請が条件を満たしておらず却下されることもあり、還付が認められないと考えられる理由が記載された通知がForm GST RFD-08という様式にて発行されます。この場合、還付申請者は15日以内に回答する必要があります(CGST法細則第92条3項)。
「不当利益の理論(Theory of Unjust Enrichment)」という概念
還付申請に関わるGST法の重要な概念に、不当利益の理論(Theory of Unjust Enrichment)があります。ある者が第三者に帰属すべき利益等を保持している場合に、その者は不当利益(Unjust Enrichment)を得ていると言えますが、GST法においては税負担(Incidece of tax)をその他の者に転嫁していない者のみがGST還付を受けられるという概念になります。
例えばある物品・サービスの供給者が物品・サービスの受領者からは18%でGSTを徴収しGST当局に納税すべきところ、誤って28%で徴収し納税していたとしましょう。そのため、その供給者は多く納税し過ぎていた10%分をGST還付を申請します。しかし、その10%分はすでに受領者から徴収し、受領者が負担しているため、税負担(Incidece of tax)は受領者に転嫁されています。そのためもし、この10%分が供給者に還付されてしまえば、供給者は不当利益(Unjust Enrichment)を得ることになります。
上述の通り不当利益の理論(Theory of Unjust Enrichment)を満たしている場合、還付額は還付申請者に還付されますが、満たしていない場合は消費者福祉基金(Consumer Welfare Fund)に還付されます。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |