インドは中央政府に加え29の州と7つの連邦直轄地から構成される連邦制の国家です。第二次世界大戦後に言語系統を軸に州は再編され、連邦と国家との間で州の領土内で行使できる主権的な行政権と立法権限を分配する、インド憲法が制定されました。インドの連邦制は、多民族的な社会で国家の統一を維持する等の目的で、単一国家からの移行する形で生み出された連邦制と言えます。独立した植民地の利害の一致により連邦国家が発足された米国の連邦制と比べて、インドの連邦制は各州に対する中央政府の権限が強いと言えます。
中央政府のみならず各州にも相当程度の立法権が認められているため、州ごとに法律が異なることがあります。憲法第246条 Schedule7は下記の通り「(i)連邦のみの管轄分野」「(ii)各州のみの管轄分野」「(iii)連邦及び各州の共同管轄分野」を定めています。
(i)連邦のみの管轄分野 (Union List)
国防関連、原子力、外国との取引、鉄道、船舶輸送、郵便、銀行、保険、株式取引、標準規格、監査、関税、法人税、外国為替法、会社法、外資規制等の分野は連邦法の管轄になります。
(ii)各州のみの管轄分野(State List)
一方で各州法が管轄する分野には、公共衛生、病院、土地の権利、水道・ガスの供給、道路、橋、不動産、酒、ギャンブル、同州内の消費税(CGST)、プロフェッショナル税、印紙税等があります。
他州では禁じれれているギャンブル(カジノ等)がゴア州では合法であったり、他州では購入できる酒類がグジャラート州では購入が禁じられている等のように州ごとに取り扱いが異なるのは、上記の分野は各州ごとに法律が整備されているためです。
(iii)連邦及び各州の共同管轄分野(Concurrent List)
結婚・離婚、農地を除く不動産の譲渡、倒産、労働組合、年金・労働者の福利厚生、工場、電気、新聞・書籍・印刷等の分野は連邦及び各州の共同管轄になります。
不動産関係や労務に関する企業運営をする上で重要になる事項は、連邦法と州法が入り混じり複雑になっているため注意が必要となります。
州によって異なる税法
州によって取り扱いが異なる主な税の1つは、一定の所得水準以上の従業員に課せられるプロフェッショナル税です。カルナータカ州やタミルナドゥ州等はプロフェッショナル税が課税される州である一方で、ハリヤーナ州やデリー州ではプロフェッショナル税は課されません。
また、インドの消費税であるGSTも中央GST(Central Goods and Service Tax - CGST)と州GST(State Goods and Service Tax - SGST)に分かれて徴収されます。2017年7月1日よりインド政府は、従来州ごとに異なり複雑であって間接税法体系をインド全土での統一が可能となる抜本的な税制改正として、GST法を施行しました。GSTの納税等を管轄するGSTポータルは中央政府によって開発、運営、維持されていることや、また州またぎのGST(Integrated Goods and Services Tax - IGST)は中央政府が徴収の上各州に配分する形をとっていること等からも、2017年のGST法の施行によって中央集権化がさらに進んだと言えます。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |