インドでの会社設立時、日系企業では本社又は地域統括会社直下の子会社を設立する場合が多く「100%子会社を設立可能か?」というご質問を頂くことがよくあります。インド会社法上、厳密な100%子会社を設立することは不可能ですが、親会社以外の株主の持ち分を最小とすることにより名目株主とし実質100%子会社として取り扱うことが可能です。インド会社設立時の株主構成の留意点を以下の通りまとめました。
インド会社法上求められる、最低必要人数とは?
インドでは公開会社(Public Company)・非公開会社(Private Company)という区分があり、いずれの会社形態を選択するかにより最低株主数が変わります。ここでの公開・非公開という名称はあくまでもインド会社法上における区分であり、日本で言われる上場・非上場という区分とは異なることにご注意ください。詳細は”公開会社と非公開会社”の記事を参照ください。
非公開会社 | 公開会社 | |
最低株主数 | 2名以上 | 7名以上 |
尚、特段の事情がない限り通常インドで会社設立をする場合には、非公開会社を選択することになります。
株式の持ち分比率による影響力の差とは?
一般的な保有議決権比率とそれに応じた権利は以下の通りとなります。インドでの会社設立時に持ち分比率を決定する際には、比率に応じた権利の差を意識しながら検討するとよいかと思います。
保有議決権比率 | 区分 | 主な権利・権限 | 具体的な内容 | 買収者連結PLへの影響 | 対象会社の位置づけ |
4分の3以上 | マジョリティ ※厳密には 50%超 |
株主総会特別決議を単独で通す事ができる | 定款変更、全部取得条件付株式の取得、譲渡制限株主相続人に対する売渡請求、特定株主からの自己株式取得、新株予約権割当、第三者割当増資、組織再編行為、減資、株式併合、役員責任の一部免除、現物配当、解散などに掛かる決議が単独で 可能 |
連結対象 | 子会社(場合によっては50 %超でなく とも「子会社」 となりうる) |
50%超 | 株主総会普通決議を単独で通すことができる | 取締役選解任、取締役報酬決定、自己株式の取得、決算書類の承認、一定の場合の減資、準備金額の増加・減少、資本金の額の増加、余剰金の処分及び配当などにかかる決議が単独で可能 | 持分法 投資損益 |
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50% | 株主総会の普通決議成立を阻止できる(実務的には「拒否権」等と表現 されることも) |
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4分の1超 | マイノリティ | 株主総会の特別決議成立を阻止でき る(実務的には「拒否権」等と表現 されることも) |
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20%以上 | 解散請求権を行使できる | 減損など | 投資先企業 | ||
10%以上 | 少数株主権 | 株主総会招集請求権、役員の選解任請求権、会計 帳簿閲覧請求検討を行使できる |
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3%以上 | 株主提案権を行使できる | ||||
1%以上 | |||||
1株より | 単独株主権 | 設立無効の訴え、募集株式発行差止請求権、株主 代表訴訟、取締役・執行役の違法行為差止請求権 等を行使できる |
インド企業と合弁パートナーを組む際の注意点とは?
インド企業と合弁企業を設立する場合に、出資又は議決権比率の議論は主要の論点の一つです。上述の議決権比率による会社支配に対する影響力などを考慮しながら比率を決定していく必要があります。
また、会社設立時の出資比率と同じ程度重要となるのが将来的に増資などで資金調達の必要が生じた際に、パートナー企業側がその持ち分比率に応じた資金を追加出資できない(手持ちの資金不足などにより)場合の取り決めです。その際に自社側が設立時に規定した持ち分比率を超えて出資できるような規定を盛り込んでおかないと、持ち分比率の維持に固執する合弁パートナーにより増資手続きがデッドロック状態に陥ってしまう場合があります。
株主構成を変更することは可能なのか?
インド法人の株式は、外国直接投資規制(Foreidn Direct Invesment Policy - FDI Policy)及び外国為替管理法(Foreign Exchange Managment Act - FEMA)下の価格ガイドライン、インド所得税法等に準拠することにより譲渡手続きを行うことが可能です。また、合弁企業の場合には合弁契約で規定された内容に制約を受けますが、ライツイシュー又は第三者割当による増資を行うことも可能です。
名目株主の設定について
インド会社法では非公開会社(Private Limited Company、ここでは御社)は最低株主数が2名以上と定めされています。よって登記上は特定の株主が100%株式を完全に保有することはできません。一方で、2名の株主のうちの1名が1株などの株数を保有することにより名目のみ要件を充足している事例は多く存在します。インド会社法では、ある株主が受益権(beneficial interest)を第三者に対して与えることを宣言し名目株主(nominal shareholder)になることが可能です(会社法第89条)。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |