インドでは連邦制を採用し州政府にも徴税権や税法の立法権限が付与されており、GSTコンプライアンスはGST登録をしている州ごとに行う必要があります。GST納税額を算出する際の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)の計算も州ごとに行う必要があり、各州に共通するサービスに係る仮払GST(Input GST)は売上比率に基づいて配賦することになります。この仮払GST(Input GST)の配賦を行う者をGST法では、インプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)と呼びます。
たとえばインド子会社の本社はハリヤーナ州に所在している一方で、カルナータカ州にも支社を持っているようなケースのように、複数州に拠点を構えており各州でGST登録をしている日系企業は多くあります。弁護士事務所、会計事務所、監査法人等からの専門家費用や全社で使用しているソフトウェア費用等に関する請求書は本社宛にまとめて発行されることが想定されます。この本社宛にまとめて請求された共通費の請求書に係る仮払GST(Input GST)を、インプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)制度を用いて配賦します。2025年3月以前までは、この仮払GST(Input GST)の配賦は任意でしたが、2024年財政法でCGST法第2条61項及び20条に改正があり、2025年4月以降、共通費に係る仮払GST(Input GST)の配賦は必須のコンプライアンスとなりました。
また、本社から支社に対して自社内取引として請求書を発行することで、本社から支社に仮払GST(Input GST)を付け替えることができる、クロスチャージ(Cross-Charge)と呼ばれる方法もあります。クロスチャージ(Cross-Charge)とインプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)は異なる制度ですので、注意が必要です。
インプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)として求められるGSTコンプライアンス
インプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)とは、物品・サービス供給を行う事務所で、Distinct Personsに代わって又はDistinct Personsのために、サービス供給の請求書(リバースチャージ方式で納税する請求書を含む)を受領し、CGST法第20条に基づいてその仮払GST(Input GST)を配賦する必要がある者であると定義されています(CGST法第2条61項)。なお「Distinct Persons」とは、同一法人が同一州内また別州内で2つ以上のGST登録をしている者又は登録する必要がある者のことを指します(CGST法第25条4項)。
インプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)に該当する者は、2025年4月以降、ISDとして別途GSTの追加登録をした上で(CGST法第24条viii号、CGST法細則第8条1項但し書き)、Distinct Personsに代わって又はDistinct Personsのために受領したサービス供給の請求書に係る仮払GST(Input GST)を配賦する必要があります(CGST法第20条1項)。
なお、仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)の使用制限がある仮払GST(Ineligible Input Tax Credit)についても、使用制限のない仮払GST(Eligible Input Tax Credit)と分けて配賦します(CGST法細則第39条1項g号)。ただ、インプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)制度を用いて配賦できる仮払GST(Input GST)は、サービス供給に関する仮払GST(Input GST)のみで物品供給に関する仮払GST(Input GST)は配賦できません。
GSTの種類ごとに仮払GST(Input GST)は配賦されますが、配賦されるGSTの種類は下記表のとおりです(CGST法細則第39条1項h,i,j号)。
別州に配賦する場合
配賦対象の仮払GSTの種類 | 配賦先で受取るGSTの種類 |
CGST | IGST |
SGST | IGST |
IGST | IGST |
同州に配賦する場合
配賦対象の仮払GSTの種類 | 配賦先で受取るGSTの種類 |
CGST | CGST |
SGST | SGST |
IGST | IGST |
仮払GST(Input GST)の配賦はCGST法細則第39条の規定する公式に基づいて、共通費であるサービス供給を受けた各州の売上(Turnover)で按分することが求められます。また、インプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)は、仮払GST(Input GST)の配賦のために発行する旨を明記したInput Service Distributor請求書を各州の支社に発行する必要があります(CGST法細則第39条1項k号、第54条)。
さらに、インプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)は、共通費に関するサービス供給を受けた同月中に仮払GST(Input GST)を各州の支社に配賦する必要があり、翌月の13日までにGSTR-6というフォームにて月次申告を行う義務があります(CGST法第39条4項、CGST法細則第39条1項a号、CGST法細則第65条)。
例示
ハリヤーナ州に本社を構えるA社は、カルナータカ州、マハラシュトラ州にも支社を有しており、それぞれでGST登録をしています。A社の起用している会計事務所はハリヤーナ州の本社に対して2025年4月に100,000ルピー分(CGST:9,000ルピー / CGST:9,000ルピー)の請求書を発行しました。この請求書は本社のみならず支社での日々の取引に関する会計記帳サービスに対する請求書です。FY2024-25の各州の売上は下記の通りでした。
FY2024-25の売上 | 売上比率 | |
ハリアーナ州(本社) | 2千万ルピー | 40% |
カルナータカ州(支社) | 2千万ルピー | 40% |
マハラシュトラ州(支社) | 1千万ルピー | 20% |
上記事例の場合、まず共通費である会計記帳サービスの請求書を受領したハリヤーナ州の本社にインプットサービスディストリビューター(Input Service Distributor - ISD)の登録が求められます。共通費に係る仮払GST18,000ルピー(CGST:9,000ルピー / CGST:9,000ルピー)を各州の支社に売上比率で下記の表のとおり配賦することになります。また、ハリヤーナ州の本社はInput Service Distributor請求書を各州の支社に発行した上で、2025年5月13日までにGSTR-6にて月次申告を行います。
配賦する仮払GST | 配賦先で受取るGSTの種類 | |
カルナータカ州(支社) | 7,200ルピー(=18,000*40%) | IGST |
マハラシュトラ州(支社) | 3,600ルピー(=18,000*20%) | IGST |
なお、配賦計算の際に参照とする各州の本社および支社の売上は、配賦先の各州の本社および支社に仮払GSTの配賦を行う年の1年前の売上が計上されている場合には、その1年前の年の売上が用いられます(CGST法細則第39条 説明書きi)。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |