インド企業と合弁会社を設立する際やインド企業を買収する際に、パートナー対象や買収対象のインド企業に対してデューデリジェンス(Due Diligence - DD)を行うことがあります。DDには法務DD、財務DD、税務DD、知的財産DD、不動産DDと様々な種類がありますが、特に税務DDでは対象企業の税務情報を整理し、潜在的な税務リスクを特定するために行われます。
特にインドは他国に比べ、税務訴訟に発展する頻度が高く、一度税務訴訟に発展すると長期化する傾向にあります。そのため、インド企業を買収する前等に対象企業の税務リスクを定性的及び定量的に把握することは重要であり、必要に応じて税務DDで認知事項を企業価値の評価に反映させていきます。さらに、税務DDの結果が当初想定していたM&Aスキームの変更に影響を及ぼすこともあります。
インドの税務DDでカバーするべき対象税目及び対象期間
一般的にインドの税務DDでカバーする税目としては、下記があげられます。
上記の税目のほかにも、インドには印紙税、固定資産税、プロフェッショナル税、サービス税等の税目もありますが、税務DDでカバーするかは案件ごとに判断する必要があります。
また、税務DDでカバーするべき期間は、直近3~5課税年度となることが一般的です。これは、税務調査の対象となる期間から逆算して設定されることになります。インド所得税法に基づく税務調査のうち精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)の更正通知(Order of Assessment)及び督促状(Notice of Demand)は所得税申告が提出された会計年度の最終日より12か月以内に発行されます(インド所得税法第153条1項但し書き、156条1項)。ただ税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合はこの期間がさらに12か月延長されます(インド所得税法第153条4項)。
一方で2024年度以降のGST法に基づく税務調査では、GST年次申告の期日から最大5年以内までに更正処分通知(Final Order)を発行することが求められています(CGST法第74A条7項)。
インド所得税の税務DDでの主な確認事項
(1)所得税額、実効税率、未払所得税額の状況:対象法人が適切な実効税率を選択しているかを含め、インド法人所得税の計算が適切に行われているか確認します。インドの法人所得税の納税は予定納税(Advance Tax)として四半期ごとに推定課税所得に基づいて前払いを行う必要がありますが、適切に予定納税が行われていない場合、延滞利息が発生することになります。また、インド特有の法人所得税の論点として、最低代替税(Minimum Alternate Tax - MAT)があり、繰越欠損金が累積していた場合であっても、会計上の利益が生じている年度にはMATの納税が求められますので、MATの納税漏れが生じていないかの確認も税務DDの重要な確認事項の一つです。
(2)繰越欠損金の状況:インドの繰越欠損金は期日以内に所得税申告を行っていることを条件に8年間繰り越すことが認められています。ただ、繰越欠損金は翌年以降の同所得とのみ相殺が可能です。インド特有の論点として、減価償却の繰延(Unabsorbed Depreciation)があり、減価償却の繰延(Unabsorbed Depreciation)には繰延期限はありません。また、49%を超える株主変動があった場合には、繰越欠損金は消滅する点にも注意が必要です。
(3)源泉徴収税のコンプライアンス遵守状況:インドの源泉徴収税(Tax Deducted at Source - TDS)の対象は日本の源泉徴収税の対象より広い特徴があり、多くのサービス提供がインドのTDSの対象となります。またインド国外への支払い時に適用になるTSD率の決定時には、その国との租税条約の確認も求められます。また、インド特有の論点としてはTDSの源泉徴収もれの費用に関しては一部または全額が損金不算入となる点が挙げられますので、税務DDではTDSの源泉徴収もれが生じていないかの確認は重要な確認事項の一つです。
(4)所得税申告書、税務監査報告書及び決算書の確認:過年度の所得税申告の作成方法が適切であったかを確認します。所得税法の税務調査では、一般的に申告済みの所得税申告書の精査され、税務監査報告書との差異等が発生していないかが確認されます。
(5)税務調査の状況と偶発債務の確認:過去の税務調査の状況及び過去の更正処分額の確認を行います。更正処分がされている場合には、同論点が次年度以降の課税所得の計算で加味されているかは税務DDで確認が必要です。また、税務調査段階で納税者と税務当局の見解が一致せず、税務訴訟に発展しているケースがあれば、偶発債務として認識している金額と一致しているか確認します。併せて、税務訴訟で納税者に有利な決定がされる可能性を、過去の判決を参照にしながら可能な範囲で見積もることも重要です。
(6)国際関連者取引の有無の確認:対象会社がインド国外の関連者と取引を行っている場合には、移転価格税制の確認も求められます。インド特有の移転価格税制コンプライアンスの遵守状況を確認します。インド特有の論点としては、移転価格税制の適用となる関連者の株式保有要件が51%以上ではなく、26%以上の議決権を有する株式を直接/間接的に保有している場合には関連者とみなされる点です。
(7)税務コンプライアンスへの遵守状況及び管理体制の確認:インド所得税は納税者に対して多くのコンプライアンス遵守を求めていますが、それらへの対応方法を確認します。外部の会計事務所と連携して対応している場合もありますが、インハウスですべて対応している場合には、税務DDでは社内の管理体制も併せて確認を行います。
GSTの税務DDでの主な確認事項
(1)GSTの登録州及び仮受GST/仮払GSTの状況:インドのGSTは州ごとに登録を行い、州ごとにGSTコンプライアンス遵守が求められる点が特徴的です。GSTの税務調査も登録州ごとに行われます。インドのGSTにも、仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)の仕組みがあり、仮受GSTと仮払GSTの差額を毎月税務当局に納税することになります。税務DDでは登録州ごとの仮受GSTと仮払GSTの状況を確認します。
(2)月次申告及び年次申告書の突合:申告書間に申告内容の数値の差異が生じている場合、税務調査で指摘される可能性が高まります。税務DDで申告書間の数値の差異を検知した場合は、差異が発生している要因まで把握し、追加納税が必要か確認します。
(3)仕入税額控除の適法性の確認:仮払GSTとして支払ったGSTの中には、仕入税額控除が認められないBlocked Creditと呼ばれる仮払GSTがあります。対象企業が誤って、Blocked Creditを仕入税額控除として利用しているかは税務DDでの重要な確認事項です。
(4)税務調査の状況と偶発債務の確認:過去の税務調査の状況及び過去の更正処分額の確認を行います。更正処分がされている場合には、同論点が次年度以降の課税所得の計算で加味されているかは税務DDで確認が必要です。また、税務調査段階で納税者と税務当局の見解が一致せず、税務訴訟に発展しているケースがあれば、偶発債務として認識している金額と一致しているか確認します。併せて、税務訴訟で納税者に有利な決定がされる可能性を、過去の判決を参照にしながら可能な範囲で見積もることも重要です。
(5)税務コンプライアンスへの遵守状況及び管理体制の確認:GST法は納税者に対して多くのコンプライアンス遵守を求めていますが、それらへの対応方法を確認します。登録州ごとにGSTコンプライアンスを遵守する必要があるため、ある州は外部の会計事務所と連携して対応しているものの、他の州はインハウスのみで対応している場合もあります。インハウスで対応している場合には、税務DDにて社内の管理体制も併せて確認を行います。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |