インドの新間接税であるGSTは2017年7月1日に施行され、従来州毎に異なっていた間接税体系を一本化した画期的な税制でした。GST協議会ではGSTの課税システム等の制度設計及び税務執行に関して、中央政府と州政府によって協議及び決定がされます。それまで各州政府に分散していた徴税・税法の改正に関する権限は中央政府の管轄するGST協議会に集約されることになり、GST導入は中央政府が推進する協力的連邦主義(Cooperative Federalism)による財政連邦主義の転換要因となる歴史的な税制改正であったと評価されています。
GSTの導入の経緯
インドの憲法は税の種類ごとに中央政府と州政府に課税権を区分しています。1990年代以降に下記の間接税が導入され州間での税率の相違や州またぎの取引時の非効率な累積課税が生じ、間接税の税制改革が長年求められておりました。
- 1994年:中央政府によるサービス税(Service Tax)の導入
- 2005年:州政府による州売上税に代わる州付加価値税(Value Added Tax - VAT)の導入
インドで初めて物品・サービス税(Goods and Services Tax - GST)の導入が提案されたのは、2006年度の予算案演説です。当時の政権与党であった統一進歩同盟(United Progressive Alliance - UPA)の財務大臣は中央政府と州政府の消費課税を包摂するGST制度の2010年4月からの導入を提案しました。ただ、中央と州の課税権を変更する憲法改正が必要であり、UPA政権下でのGST導入は叶いませんでした。10年余の年月を経て、国民民主同盟政権(National Democratic Alliance - NDA)のインド人民党(Baratiya Janata Party - BLP)の第1次モディー政権が2016年に憲法改正を達成し、2017年7月からのGST導入に成功しました。
GST協議会の役割
モディー政権の憲法改正によって改正された憲法279A条では、GST協議会では次の事項について勧告することが規定され、憲法改正の内容からもGST協議会に求められる役割の大きさが見てとれます。
- GSTに包摂される中央、州、地方団体の賦課する税、セス、加算税
- GSTが免税となる物品・サービス
- モデルGST法案
- 賦課の原則
- 州またぎGST(Integrated GST - IGST)の税収配分
- 供給地(Place of Supply)に関する原則
- GSTが免税となる物品・サービスの取引高の限度額
- GST税率
- 自然災害時に追加財源を調達するための特別税率とその期間
- 北東州に関する特別な規定
GST協議会は議長を務める中央政府の財務大臣及び州財務大臣から構成され、投票権は下記の通りです。なお、GST協議会は委員の半数で成立し、決定は委員の投票の4分の3以上の多数で行われます。
中央政府 | 投票数の3分の1 |
全州政府 | 投票数の3分の2 |
第1回GST協議会は2016年9月に開催され、2019年9月に開催された第37回GST協議会までは投票によることなく、全て合議により決議されてきました。ただ2019年12月に開催された第38回GST協議会で初めて州政府側の要求に基づき投票での決議が執り行われました。
GST協議会は中央政府が推進する中央集権化を基調とする協力的連邦主義(Cooperative Federalism)を実体化する最初の連邦機関として重要な役割を持ちますが、ケララ州財務大臣をはじめとして州政府からは州の財政自治が損なわれていると批判も上がっています。上述の通り決議は委員の投票の4分の3以上の多数で行われる一方で、中央政府が投票数の3分の1の投票権を保持しており、中央政府に事実上の拒否権が認められるためです。
GST協議会はインドの多様性と統一性という特質を具現化する会議体と言え、GSTの税収と制度運用の安定化にはGST協議会の円滑な運用は不可欠です。2~3か月ほどおきに開催されるGST協議会では、GSTのコンプライアンスの重要な変更等も議論されるため、注目が集まります。
なお、GST協議会の決議内容は、あくまで中央政府や州政府へのGSTに関する勧告する内容であり法的拘束力はありません。GST協議会の決議を踏まえて中央政府等はCircularやNotificationの形式で通達を発行し、GST協議会の勧告内容が法的拘束力を持つようになるのが一般的な流れです。
参考文献:山本盤男(2020)「インドの税制改革―財政連邦主義の転換と財・サービス税―」『一般社団法人 九州大学出版会』
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |