通常のGSTは物品・サービス供給を行う供給者が受領者からGSTを徴収し、GST当局へ納付します。一方でリバースチャージ方式(Reverse Charge Mechanism - RCM)は、物品・サービス供給の受領者がGSTを供給者に支払うことなく自らがGST当局へ納付する方式です(CGST法第2条98項)。
日本の消費税法でもRCMでの納税方法は採用されていますが、日本の消費税法でのRCMが適用となるのは「国外事業者から事業者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合」です。日本の消費税法に比べてリバースチャージ方式の適用となる取引が、インドのGST法では多い点に違いがあります。RCMではGSTの納税義務を供給者から受領者に移管することができるため、一定の産業セクターからの物品・サービス供給をRCMの対象とすることによって、未成熟又は組織化されているとは言えない産業セクターによる物品・サービス供給に対しても、取引を正確に捕捉、GSTを漏れなく徴収することが可能となります。
インドのRCM
CGST法第9条3項は、GST協議会(GST Council)の勧告に従い間接税・関税中央委員会(Central Board of Indirect Taxes and Customs - CBIC)が通達(Notification)でRCMが適用となる物品・サービス供給カテゴリーを規定できるとしています。また同条4項は、GST未登録者が提供する物品・サービス供給に関してRCMが適用となる取引も通達(Notification)で規定できるとしています。
次にRCMが適用となる場合の供給の認識日(Time of supply)についてです。RCMが適用となる物品の供給の認識日は、下記のいずれか早い日付になります(CGST法第12条3項)。
- 物品の受領時
- 受領者の会計帳簿上での対価の支払い日又は銀行口座からの対価の引き落とし日のいずれか早い日
- 供給者から発行される請求書やその他書類(名称を問わない)の発行日から30日の経過日
- ただし上記の3つで供給の認識日の識別が不可能な場合は、供給の認識日は受領者の会計帳簿上での物品受領が記帳された日とする
RCMが適用となるサービスの供給の認識日(Time of supply)は、下記のいずれか早い日付になります(CGST法第13条3項)。
- 受領者の会計帳簿上での対価の支払い日又は銀行口座からの対価の引き落とし日のいずれか早い日
- 供給者が請求書を発行する必要がある場合、供給者から発行される請求書やその他書類(名称を問わない)の発行日から60日の経過日
- 受領者が請求書(Self-invoice)を発行する場合、その請求書の発行日
- ただし上記の3つで供給の認識日の識別が不可能な場合は、供給の認識日は受領者の会計帳簿上でのサービス受領が記帳された日とする。加えて、サービスの供給者がインド国外に所在する関連企業による場合には、供給の認識日は受領者の会計帳簿でサービス受領が記帳された日又は支払日のいずれか早い日とする
また、RCMでGSTを納税した受領者は基本的に同額の仕入税額控除(Input Tax Credit - ITC)を使用することができるため、RCMでのGST納税額の損益計算書への影響はないと言えます。ただ仮払GST(Input GST)が仮受GST(Output GST)を超過している状況下においてRCMでGSTを納税する場合には、すぐにRCMで納税したGST税額をすぐには仕入税額控除として使用できないため、キャッシュがブロックされて資金繰りに影響を与えることになる点は注意が必要です。
なお、RCMでGSTを納税する際は、Electronic Creditに掲載されている仮払GST(Input GST)を充当することはできません。つまり、仮払GST(Input GST)が累積している企業であっても、RCMが適用となる取引を行った際には、翌月の月次申告(GSTR-3B)までにGST当局に対して電子現金出納帳(Electronic Cash ledger)からRCM額の納税が必要になります。
RCMが適用となる取引
CBICはCGST法第9条3項に関するRCMが適用となる物品対象の一覧を2017年6月28日付の通達Notification No.4/2017-Central Tax (Rate)で、サービス対象の一覧を2017年6月28日付の通達Notification No. 13/2017- Central Tax (Rate)で発表しています。なお、RCMの対象となる物品・サービス対象はその後のGST協議会(GST Council)の勧告に従い、その都度修正が入っているため最新のRCM対象一覧の物品・サービスの確認が必要です。下記で主なRCM対象の物品・サービスをまとめます。
<物品>
- カシューナッツ
- タバコの葉
- シルク糸
- 宝くじ
- 中古車
- セメント
- メタルスクラップ 等
<サービス>
- 貨物輸送業者(Goods Transport Agency - GTA)による貨物輸送サービス
- 弁護士サービス
- 居住用住居の賃貸サービス 等
RCMに関連するその他の主なコンプライアンス
RCMでGSTを納税する受領者は、年間売上の基準値に関係なくGST登録が必要です(CGST法24条1項3号)。また、RCMが適用となる物品・サービス供給の供給者は適格請求書を発行する際には、RCMが適用になる旨を適格請求書に記載する必要があります(CGST法細則46条1項p号)。
RCMでGSTを納税するGST登録者は、GST未登録者から提供を受ける物品・サービス供給に関してSelf-Invoiceを発行する必要があります(CGST法第31条3項f項)。Self-Invoiceは物品・サービス供給の受領者であるGST登録者が作成、発行する請求書であり、物品・サービス供給から30日以内に発行することが求められています(CGST法細則第47A条)。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |