日本国内法人(インド外国法人)がインド内国法人に対して行うコンサルティングサービスやソフトウェア開発費用などの人的役務提供を行う場合、それらの人的役務提供は日印租税条約第12条の規定する技術上の役務に対する対価(Fee for Technical Service - FTS)に該当します。これらは日印租税条約独特の条項であり、他国の租税条約とは取り扱いが異なるため注意が必要です。つまり、日本と他国間での租税条約の第12条では通常、著作権、特許権、商標権等の使用料のみを規定している一方で、日租税条約第12条の場合にはコンサルティングサービス等の人的役務の提供も対象範囲に含んでいます。
FTSの源泉地の決定
まず、日印租税条約第12条6項はFTSの課税権の配分(ソースルール)について下記の通り規定していいます。
"使用料及び技術上の役務に対する料金は、その支払者が一方の締約国又は当該一方の地方政府、地方公共団体若しくは居住者である場合には、当該一方の締約国内において生じたものとされる。"<<日印租税条約第12条6項抜粋>>
言い換えると、FTSの源泉地は役務の提供地に関係なく、支払者の所在国にあると規定しています(債務者主義)。よって、日本国内法人がインド現地に赴くことなく日本国内のみでサービスを行っている場合であっても、支払者はインドに所在するインド内国法人であるため、コンサルティングサービス等はインド国内源泉の所得となります。
次に、FTSに関する所得の源泉地国における限度税率に関して同条2項は次の通り規定しています。
"1の使用料及び技術上の役務に対する料金に対しては、これらが生じた締約国においても、当該締約国の法令に従って租税を課することができる。その租税の額は、当該使用料又は技術上の役務に対する料金の受領者が当該使用料又は技術上の役務に対する料金の受益者である場合には、当該使用料又は技術上の役務に対する料金の額の十パーセントを超えないものとする。"<<日印租税条約第12条2項抜粋>>
上記の通り日印租税条約に基づく、技術上の役務に対する対価にかかる源泉地国での源泉徴収税率の限界税率は10%です。
FTSのサービス提供者が一定の要件を満たす個人の場合
FTSのサービス提供者が個人であり、日印租税条約14条に定める自由業その他の独立の性格を有する活動を行う者に該当する場合、コンサルティングサービス等はFTSに該当しないとする例外規定があります(同条4項)。
本自由業の個人は「自己の活動を行うため通常使用することのできる固定的施設を相手国内に有していない」かつ「当該課税年度又は前年度を通じて合計183日を超える期間相手国に滞在していない」ことが求められます。さらに本自由業には「特に学術上、文学上、美術上、及び教育上の独立の活動並びに医師、弁護士、技術士、建築士、歯科医師及び公認会計士の独立の活動を含む」と規定しています(同条約第14条)。
つまりFTSの提供者が上記を満たす自由業の個人の場合であれば、FTSの源泉地は役務の提供者の居住国となります。よって、上記の要件を満たす日本国居住の個人がインド内国法人に対してコンサルティングサービス等を行う場合は、コンサルティングサービス等は日本国内源泉の所得となります。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |