日本本社の従業員を駐在員として海外現地子会社に出向させる場合、駐在員の海外現地での手取り給与を保証するため、海外現地で発生する個人所得税は現地子会社負担とする取り扱いがあります。この取り扱いは、インドに出向する駐在員にとっても一般的な運用です。インドにおける駐在員の駐在コストが高額になる理由の一つは、この個人所得税を会社負担とした場合のインド特有の個人所得税の計算方法にあります。
個人所得税の計算
インドでは会社側が駐在員の個人所得税を負担する場合、給与に係る経済的便益(Perquisite)としてみなされ、給与所得に合算されます。そのため、最終的な個人所得税を含めた給与総額(Gross Salary)が増加するため、この計算方法はグロスアップ計算と呼ばれています。
たとえば、給与額を100、会社負担の社宅コストを15、個人所得税の実効税率を39%とします。単純計算による税額は115×39%=44.8となりますが、この個人所得税を会社負担とすると、負担する税額が給与所得に加算(グロスアップ)され、(115+44.8)×39%=62.3となり、追加的に税額として算出された17.5がさらに給与所得に加算され、最終的に税の給与所得加算額と算出税額が同額になるまで循環計算を行います。この例では、循環計算を続けると最終的に税の給与所得加算額(=算出税額)は約73となります。
手取り給与(Net Salary)を100で保証すると、給与総額(Gross Salary)は約188ルピー(上記の循環計算の結果の給与総額は115÷69%にて求めれらる)となります。
【個人所得税は会社負担とし、グロスアップ計算を行う場合の手取り給与】
「給与総額 188」ー「個人所得税 73」ー「会社負担の社宅 15」=「手取り給与 100」
【個人所得税は個人負担とし、グロスアップ計算を行わない場合の手取り給与】
「給与総額 100」ー「個人所得税 44.8」ー「会社負担の社宅 15」=「手取り給与 40.2」
循環計算を止める「10(10CC)」の規定
この循環計算を止める方法がインド所得税法上で認められており、この方法は1961年インド所得税法のその条文番号から一般的に「10(10CC)」と呼ばれます。2025年インド所得税法では、同規定はスケジュールⅢの10にあります。
この方法では、従業員への非金銭的現物給付(Non-monetary perquisite)に対する税額相当額を、任意で雇用主が負担する場合には、この税額相当額は従業員の個人所得税の計算において非課税所得となり、循環計算を止めることができます。一方で、当該税額相当額は雇用主側で損金算入は認められていません(1961年インド所得税法第40条a項v号)(2025年インド所得税法第35条a項ii号)。個人所得税の実効税率が法人所得税の実効税率より高いことから、結果的にこの方法を用いることで税のアービトラージ効果が生れることになります。
上記の数値例にて「10(10CC)」の対象となる給付の金額は、(15+39)×39%=21です。つまり、21は従業員の個人所得税の計算において非課税所得となり、課税所得は100+15+(100×39%)=154です。「10(10CC)」を適用することで、循環計算を行った場合の課税所得188と比較し、34を非課税とする効果があったことになります。「10(10CC)」を適用することで、一度のみグロスアップ計算を行う形となります。
なお、この方法が対象になるのは、非金銭的現物給付のみであり、社宅や社用車の付与が非金銭的現物給付に該当することには争いがないものの、「従業員の個人所得税の負担」が非金銭的給付に該当するかは税務上の論点となることがあり、完全に税務リスクフリーな方法でないことは注意が必要です。
ただ、本論点について日本人駐在員がデリー高等裁判所で争った係争では、2013年7月に高等裁判所は納税者の主張を認められています。デリー高等裁判所は、金銭的現物給付とは、従業員に対して金銭で交付されたものをいい、従業員の個人所得税の雇用主負担は、従業員本人に生じた義務を雇用主が代替して精算する行為であり、非金銭的現物給付にあたり「10(10CC)」の適用を認めました。
執筆・監修
|
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
|
新井 辰和 | Tatsuo Arai |


