インド所得税法第VIA章には様々な所得控除が規定されています。その中で、個人の所得税を計算する上で有名かつ多くの納税者が利用する所得控除が列挙されているのが、インド所得税法第80C条になります。第80C条の控除(Deduction under 80C)等の名称で呼ばれることが多いですが、インドで現地採用として働かれている日本人や日本本社からインドに出向されている駐在員の方々にとっても、第80C条の控除は利用しやすい所得控除になっています。なお、第80C条の所得控除は、個人の所得計算の際に利用できる所得控除であり、法人所得の計算時には利用できません。
インド所得税法第80C条の所得控除とその計算例
インド所得税法第80C条で列挙されている項目に拠出した個人は、個人所得から拠出額分(最大15万ルピーまで)を所得控除として控除することが可能です(インド所得税法第80CCE条)。なお、2024年時点では個人所得税の計算には新税率と旧税率が設定されており、各納税者は自らの有利な税率を選択適用することになりますが、この第80C条の所得控除は旧税率を選択した個人のみが利用できる点に注意が必要です。個人所得税の計算の詳細はこちらをご参照ください。
以下では旧税率を選択した上で第80C条の所得控除を利用しない場合と利用する場合に分けて、それぞれの個人所得税額の計算を具体例を通して見ていきます。
【前提】
- Aさんは2024年度(2024年4月1日~2025年3月31日)にインドで給与所得160万ルピーを得ている
- 2024年度に第80C条で認められている従業員積立基金(Employee Provident Fund - EPF)に15万ルピー及び生命保険に5万ルピーをそれぞれ拠出している
- 2024年度にAさんは給与所得以外は得ておらず、個人所得税の計算の際に旧税率を選択する
- 計算の簡便性の観点より、第80C条以外の所得控除、健康教育目的税(4%)の計算等のその他の詳細な個人所得税の計算は考慮しない
まずインドの個人所得税は日本と同様で累進課税制度を採用しており、旧税率の累進課税税率は下記の通りです。
課税所得金額の区分 | 旧税率 |
250,000ルピー以下 | 0% |
250,000ルピー超500,000ルピー以下 | 5% |
500,000ルピー超1,000,000ルピー以下 | 20% |
1,000,000ルピー超 | 30% |
【第80C条の所得控除を利用しない場合】
下記の表の通り、給与所得160万ルピーに対して個人所得税がかかるため、所得税額は292,500ルピー(=12,500 + 100,000 + 180,000)になります。
課税所得金額の区分 | 旧税率 | Aさんの所得税 |
250,000ルピー以下 | 0% | 0ルピー |
250,000ルピー超500,000ルピー以下 | 5% |
12,500ルピー =5%×(500,000 - 250,000) |
500,000ルピー超1,000,000ルピー以下 | 20% |
100,000ルピー =20%×(1,000,000 - 500,000) |
1,000,000ルピー超 | 30% |
180,000ルピー =30%×(1,600,000 - 1,000,000) |
【第80C条の所得控除を利用する場合】
まず給与所得160万ルピーから、第80C条の所得控除の上限額15万ルピーを控除し、Aさんの課税所得は145万ルピーとなります。Aさんは第80C条に関する拠出を合計20万ルピーしていますが、上限の15万ルピー以上の拠出分に関しては、所得控除の恩恵は受けられません。なお、第80C条の拠出は所得控除を利用したい年度ごとに毎年拠出する必要があります。
下記の表の通り、145万ルピーに対して個人所得税がかかるため、所得税額は247,500ルピー(=12,500 + 100,000 + 135,000)になります。
課税所得金額の区分 | 旧税率 | Aさんの所得税 |
250,000ルピー以下 | 0% | 0ルピー |
250,000ルピー超500,000ルピー以下 | 5% |
12,500ルピー =5%×(500,000 - 250,000) |
500,000ルピー超1,000,000ルピー以下 | 20% |
100,000ルピー =20%×(1,000,000 - 500,000) |
1,000,000ルピー超 | 30% |
135,000ルピー =30%×(1,450,000 - 1,000,000) |
第80C条の所得控除を使用することで、Aさんの個人所得税額は292,500ルピーから247,500ルピーに減額され、45,000ルピーの節税効果があったことになります。
第80C条の所得控除が利用できる拠出先
第80C条の所得控除を利用できる拠出項目として、25つの項目が列挙されていますが、現地採用や駐在員の方々でも拠出しやすい主な拠出先には、下記のようなものがあります。
拠出先 | 根拠条文 |
生命保険 | 80C条2項i号 |
公的積立基金(Public Provident Fund – PPF) | 80C条2項v号 |
従業員積立基金(Employee Provident Fund - EPF) | 80C条2項vi号 |
一部の投資信託(Mutual Fund) | 80C条2項xiii号 |
インド国内の高校や大学等への授業料支払 | 80C条2項xvii号 |
認定銀行での5年間以上の定期預金 | 80C条2項xxi号 |
1981年 郵便局定期預金細則に基づく口座での5年間の定期預金 | 80C条2項xxiv号 |
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |