インド所得税法第206AA条では源泉徴収対象の取引において、対価の受領者が自らのPAN番号を対価の支払い者に提供できない場合には、源泉徴収税(Tax Deducted at Sources - TDS)として下記のいずれかの最も高い税率を適用する旨が規定されています。
- 税法上定められた税率
- 租税条約や財政法で規定された税率(Rates in force)
- 20%
この規定は、納税者の所得税の課税取引を所得税当局として正確に捕捉し、脱税や過少申告を牽制する狙いがあります。この規定と似て非なる規定として、インド所得税法第206AB条が定める「所得税申告をしていない者への対価支払時の源泉徴収税率」の規定もあります。
一方で所得税法第細則第37BC条では、外国企業が利息、ロイヤリティ、技術上の役務に対する対価(Fee for Technical Service - FTS)、配当または資本財の移転の支払いを受ける際に、下記のすべての情報を提出することで第206AA条適用を免除することが可能な旨が定められています。
- 氏名、メールアドレス、連絡先
- 自国での住所
- 居住者証明書(Tax Residency Certificate - TRC)
- 納税番号(Tax Identification Number)
バンガロール税務高等裁判所の判決
租税条約では限度税率を規定しており、日印租税条約における使用料・技術上の役務にかかる対価の限度税率は10%と規定されています。そこで、インド国外の親会社等、PAN番号を有していない会社への対価支払時に、インド所得税法第206AA条又は租税条約 (Double Taxation Avoidance Agreement - DTAA) のいずれを優位して源泉徴収税率を決定するかが税務当局との見解に相違があり問題となる場合があります。
所得税局長官 (Deputy Commissioner of Income Tax - DCIT) とBharath Fritz Werner Ltd.間の係争に対し、バンガロール税務高等裁判所 (Income Tax Tribunal Appellate - ITAT)はPAN番号を有しない非居住者への対価支払時の源泉徴収率は、206AA条ではなく租税条約の規定に基づいた税率を採用可能である旨の判決を言い渡しました。(ITA No. 1360/Bang/2019)
税務当局は既に判決には不服とし高等裁判所 (High Court - HC) への上訴手続きに入っています。但し、バンガロール税務高等裁判所の管轄地域の会社は当判決に従い、PAN番号を有しない非居住者への対価支払時の源泉徴収率を租税条約の規定に従い決定可能です。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |