外国法人の駐在員事務所、支店、プロジェクト事務所の開設が、外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act - FEMA)のもと認められています。また、管轄当局はインド準備銀行(RBI)です。通常の会社(内国法人)設立は、会社法と会社登記局が管轄しているのとは異なる手続きであることに注意が必要です。
インド準備銀行は、現在その設立手続きの認可手続き権限を外国為替の公認取引銀行(AD Bank)へ委譲しており、開設手続きはAD Bank経由で行います。つまり、開設前に予め口座開設予定のAD Bankを決定し、当該銀行経由でインド準備銀行への書類提出手続きを行います。開設の流れは以下の通りです。
1. 支店開設要件を満たしているかの確認
支店の活動は基本的に親会社からの外国送金によって賄われることから、設立に際しては親会社の収益実績並びに純資産の要件が課せられています。満たす必要のある要件は以下の通りです。
- 親会社が直近5期連続黒字であること
- 純資産USD100,000以上
万が一上記要件を満たすことができない場合、RBIからの認可が下りる可能性が低くなりますが、申請すること自体は可能です。設立後5年以内の会社や、1期のみ偶発的な事象により決算が悪化している場合などには個別の説明により申請が許可されることもあります。また、ホールディング会社など最終的な親会社が存在する場合には、その最終的な親会社が保証することにより認められる場合もあります。
2. 支店開設申請書(Form FNC)の提出
以下の書類をAD Bank経由でインド準備銀行へ提出し、個別の承認番号(Unique Identification Number - UIN)を取得します。ここでの親会社とは支店設立を行う本国外国法人を指します。
<提出必要書類一覧>
- Form FNC
- 親会社の直近5期の監査済み財務諸表(要公証・認証)
- 親会社の支店設立を承認する取締役会決議書(要公証・認証)
- 親会社の取締役一覧(要公証・認証)
- 親会社の登記簿謄本と英訳(要公証・認証)
- 取引銀行発行の銀行レポート
- 親会社の保証状(Letter of Assurance, 要公証・認証)
- 銀行とのやりとりを代行するものへの委任状(要公証・認証)
支店開設の承認が下りるまではおよそ3~4ヶ月程度の時間を要します。また、長い場合には6ヵ月程度時間を要する場合もあるので現地での営業開始までは余裕を持ったスケジュールを組む事をお勧めします。
3. 銀行口座開設
インド準備銀行から承認が下りた後は、活動資金送金用の口座開設に入ります。銀行口座の開設は、上記の支店開設申請書を提出したAD Bankに行うこととなります。口座開設に必要な書類が全てそろえば数日で口座は開設完了するので、インド準備銀行からの承認を待っている期間中に揃えることができる書類は揃えることを推奨します。
4. 税務登録
支店の業務に必須である、PAN並びにTANの取得を行います。PANは日本でいうところの法人税番号であり、TANはPANに紐づいた源泉徴収の各種申告と照合を行うのに必要な番号です。およそ2~3週間で手続きを完了することが可能です。
5. 事務所代表者(Authorized Representative)の登録
支店の代表者は”Authorized Representative”と呼ばれています。Authorized Representativeは各種届け出や申告を行うのに必要な電子署名(DSC)と、申請を行う際に当人のPANを参照する必要があるためPANも併せて取得する必要があります。またインド会社法では、支店設立後30日以内にインド居住の事務所代表者の住所の登録を求めています。
6. 事務所契約締結
活動拠点となる事務所の賃貸契約を締結する必要があります。事務所の所在地は、インド準備銀行から取得したレターに記載されている地域のみで認められます。よって、Haryana州であればHaryana州内で、距離は近くともDelhiに事務所を設けることはできません。
7. 会社登記局(Registarar of Company - ROC)への支店登記
全ての外国会社(Foreign Company)は事業拠点の設立後、30日以内に会社登記局へ登記住所等の届け出を行う必要があります(インド会社法第380条)。具体的には事務所の賃貸契約締結後、契約締結日より30日以内にForm FC-1と呼ばれる様式を通じて届け出を行います。届け出に際しては以下の情報が必要です。
- 外国会社の登記情報
- 支店代表者(Authorized Representative)の情報
- 外国会社の取締役・秘書役一覧及びその詳細
- 上記の身分証明書類+住所証明(要公証・認証)
- 外国会社の登記簿謄本(要公証・認証)
- インド準備銀行から発行された設立承認レターの写し
- 支店代表者の住所証明
支店開設要件を満たしていない場合の対応方法
上述の支店開設要件を満たせない場合には、コンフォートレター(Letter of Comfort - LOC)と呼ばれる保証状を親会社又は関連会社から差し入れることにより設立が認められる場合があります。LOCのフォーマットはこちらからご参照ください。
特定国企業の支店開設に関して
特定国(Bangladesh, Sri Lanka, Afghanistan, Iran, China, Hong Kong, Macau or Pakistan)企業がインド国内に駐在員事務所・支店・プロジェクト事務所のいずれかの拠点を開設する際には、インド準備銀行(Reserve Bank of India - RBI)からの設立認可取得後、州警察署へ当該許可のレターを提出し登録を行う必要があります。
また年次で警察署長(Director General of Police - DGP)へのAnnual Reportoの報告が必要となります。近年、テロ防止や資金の不正利用防止などを目的として駐在員事務所・支店の報告義務が強化されており、広範な情報の提出が求められるので注意が必要です。DGPへ報告義務のある内容は、以下の通りとなっています。
- 親会社の詳細
- インド人従業員の詳細
- 外国人駐在員の詳細(氏名、パスポート番号、ビザ詳細等)
- 外国人出張者の詳細(氏名、訪問期間、目的等) など
年次活動証明書(Annual Activity Certificate - AAC)提出のコンプライアンス
年次活動証明書(Annual Activity Certificate - AAC)は、支店を含む外国法人の事業体が提出を義務付けられているインド勅許会計士発行の証明書です。証明書ではインド準備銀行より活動を許可されている内容を遵守している旨が証明されます。支店は毎年度終了後、翌年度9月30日までに監査済財務諸表と共に公認取引銀行(AD Bank)へ提出する必要があります。尚、3月31日以外の決算期を採用している支店においては、決算期末日以降6ヵ月以内の提出が義務付けられています。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |