インド国内において、現地法人並びにその他の拠点を有さない企業がプロジェクトを受託した場合、その契約実行のためにプロジェクト事務所(プロジェクトオフィス)という拠点形態を検討することが可能です。プロジェクト事務所の最大の特徴は、その拠点設立認可がプロジェクト契約実行に限定されて許可されており、契約実行完了後速やかに閉鎖が可能な点です。
主にインフラ建設や、工場の建設、長期間に渡る技術役務提供契約、据付工事などの場合に適用されることが多くなっています。JICAなどの日本政府が支援するプロジェクトについてもプロジェクト事務所(プロジェクトオフィス)設立申請は可能ですが、契約主体がインド企業とならないため個別のインド準備銀行からの認可の取得が必要となります。
1. プロジェクト事務所開設要件
外国企業(非居住者企業: non-resident-companies)がインド国内にプロジェクト事務所を開設するには、以下の要件を満たす必要があります。尚、プロジェクト事務所の活動期限はプロジェクト期間と一致しています。以下の要件を満たさない場合にも個別にインド準備銀行の許可を取得し、プロジェクト事務所を開設することが可能です。
<一般要件>
- インド企業からインド国内においてプロジェクトを実施するための契約を受託していること
- プロジェクト実施に必要な規制の認可を受けていること
<プロジェクト資金に係る要件>
- プロジェクト資金が外国からの送金、国際金融機関により賄われること 又は
- プロジェクト発注企業(インド企業)が公的金融機関又はインド銀行からプロジェクトの資金目的で融資契約を締結済であること
2. プロジェクト事務所で許可される活動
プロジェクト事務所で許可される活動の範囲は、インド準備銀行に届け出を行った際に認可を受けた内容に限定されています。よって、申請外の契約業務を追加で受託したり、将来のプロジェクトのための情報収集などの活動は禁止されています。
登記を行った事務所(Registered Office)以外に現場事務所(Site Office)を開設することが可能です。インフラプロジェクトなどでは、登記事務所と現場に相当の距離がある場合があり、実際のプロジェクトを実施する現場をSite Officeとして登録します。
3. プロジェクト事務所の設立手続き
プロジェクト事務所開設の認可は外国為替の公認取引銀行(AD Bank)を通じて行います。邦銀メガバンク三行(みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行)はAD Bankとして登録していますので、通常は邦銀を通じて申請を行います。プロジェクト事務所開設までの流れは以下の通りです。
- インド準備銀行(RBI)への開設届け出
Form FNCと呼ばれる様式に必要事項を記入し、その他プロジェクト契約書の写し等と共にAD Bankへ開設届けの申請を行います。承認が下りた際には、”Approval Letter”と呼ばれる承認を通知する書類が発行されます。開設認可の有効期限は6ヵ月とされており、外国企業は"Approval Letter"の発行日から6ヵ月以内にプロジェクト事務所を開設する必要があります。6ヵ月以内に開設を行わなかった場合には認可は自動的に失効します。 - 会社登記局(ROC)への開設登録
RBIからの承認が降りた後、会社登記局への登録を行います。 - プロジェクト銀行口座の開設
プロジェクト資金の受領、費用の支払いのためプロジェクト事務所専用の銀行口座を開設します。銀行口座の詳細については次の”プロジェクト事務所の銀行口座”をご参照ください。 - 各種事業開始へ必要な登録の取得
最低限必要となるのが、納税者番号(Permanent Account Number - PAN)、源泉徴収番号(Tax Deduction Account Number)、物品サービス税番号(Goods and Service Tax - GSTIN)となります。また物品の輸入を行う場合には輸出入コード(Import Export Code - IEC)の取得も必要となります。
4. プロジェクト事務所の銀行口座
インド準備銀行よりプロジェクト事務所開設の認可を取得した外国法人は、申請を行ったAD Bankにて銀行口座の開設を行うことが可能です。プロジェクト事務所では、ルピ―建ての銀行口座に加えて2つの外貨建て口座を保有することが認められています。
※ドル建て+自国通貨建て(日本円等)
プロジェクト事務所の口座は、プロジェクトに関連した支払いの授受に限定されています。入金は、プロジェクト発注企業からの支払い、海外親会社・グループ会社からの支払い、国際金融機関からの支払いです。また、出金はプロジェクト実施に関連する費用の支払いに限定されています。
外貨建て口座はプロジェクト完了時に閉鎖する必要があります。
5. プロジェクト事務所の閉鎖
プロジェクト事務所設立時に申請したプロジェクト契約が完了した暁には、当該プロジェクト事務所を閉鎖する必要があります。プロジェクト事務所は、一定期間のみ開設運営することが前提とされているため、現地法人などの形態と比較し、閉鎖手続きが容易となっています。プロジェクト事務所の閉鎖に必要な書類は以下の通りです。
<閉鎖申請必要書類>
- プロジェクト事務所開設を承認した”Approval Letter”のコピー
- 会計監査人からの証明書
- 申請人及び親会社からのインド国内における係争案件がないむねの確認書
- AD Bankからの年次活動証明書の提出義務遵守の証明
- その他インド準備銀行により必要と指示される書類
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |