株式会社(Private Limited Company)と有限責任事業組合(Limited Liability Partnership - LLP)の違いについて確認を受けることが多く、以下の通り代表的な違いについてまとめておきます。尚、"Private Limited Company"は、通常公開会社(Public Company)と非公開会社(Private Company)という区分で使われることが多いがここでの説明では便宜的に一般的に設立される株式会社形態の会社という意味で使用します。活動可能な事業範囲については、Private Limited CompanyとLLPは大差がなくなっています。ただし、以下の通り、経営の意思決定プロセスであったり、利益の分配方法、資金調達オプションなどに違いがあります。
株式会社(Private Limited Company) | 有限責任事業組合(Limited Liability Paterneship - LLP) | |
準拠法と管轄当局 | Companies Act, 2013に基づいて会社登記局(Registrar of Companies)へ登記 | Limited Liability Partnership Act, 2008に基づいて会社登記局(Registrar of Companies)へ登記 |
登記費用 | LLPと比較し、法定費用は高くなる | 株式会社と比較し、法定費用は安くなる |
責任範囲 | 株主は出資金額を上限とした責任を負う | LLPの責任範囲はLLPに拠出された資産を上限とする |
経営方法 | 株主が取締役会へ経営を委任(取締役を選任)し、取締役会が経営を行う。 | 指定社員(Designated Partner)が取締役と同様の役割を果たし、LLPの経営を行う。 |
ガバナンス | 定款に基づいた自治 | LLP Agreementに基づいた統治 |
経営者に関する要件 | 最低2名の取締役が必要。うち、1名は前年度(前年4月1日~3月31日)に、インドへ182日以上滞在していた居住者取締役である必要がある | 最低2名の指定社員が必要。うち、1名は前年度(前年4月1日~3月31日)に、インドへ182日以上滞在していた居住者である必要がある |
監査要件 | 全ての規模の会社に監査義務がある。 | 年間売上400万ルピー超又は資本拠出額250万ルピー超のLLPは監査義務がある。 |
法人税 |
インド内国法人として25%での課税。 最低代替税の適用あり。 ※一定の条件を満たす場合、軽減税率22% |
30%での課税。 最低代替税と同様のAlternate Minimum Taxが適用される。 ※日本のLLPと異なりパススルー課税は適用されず、個別のLLP法人として課税される。 |
利益分配 | 原則、株式の出資比率に応じた分配 | LLP Agreementに定めた比率での分配が可能(必ずしも出資比率での分配は必要ではない) |
資金調達方法 | 資本金、借入、社債発行、外国商業借入(ECB)などが活用可能 | 出資金、借入、外国商業借入(ECB)などが活用可能 |
コンプライアンス | Companies Act, 2013に基づいたコンプライアンスが必要。定期的な取締役会開催、年次株主総会開催、会社登記局への年次報告、利益相反の開示、CSR義務など多岐に渡る。 | LLP Act, 2008に基づいたコンプライアンスが必要。会社法のコンプライアンスと比較し、かなり負荷が軽減される。会社登記局への年次報告は必要。 |
向いている業種 | すべての業種 | サービス業、IT企業など |
Private Limited Companyは、所有と経営が分離されている点、運営の事例が多いことからある程度規模の大きい投資を伴う事業活動(例:製造業など)を行うのに適した事業形態です。またコンプライアンス負荷は高いものの株主側からすると適時財務情報を含めた情報が会社側より開示され透明性の高い活動を行うことができます。
一方で、LLP形態は所有と経営の分離という概念はなく、基本的にパートナーとなる社員が一定の所有権を持ちながら運営していくという形態となるためオーナー自らが現地で経営に参画する場合や、サービス業などでそれほど資金調達も必要なくコンプライアンスコストを抑えながら運営を行いたいという会社に向いていると言えます。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |